社会学者の古市憲寿氏(左)とバラエティプロデューサーの角田陽一郎氏。古市氏が影響を受けた映画とは?
社会学者の古市憲寿氏(左)とバラエティプロデューサーの角田陽一郎氏。古市氏が影響を受けた映画とは?

さんまのスーパーからくりTV』『中居正広の金曜日のスマたちへ』など、数多くの人気番組を手がけてきたバラエティプロデューサー角田陽一郎氏が聞き手となり、著名人の映画体験をひもとく『週刊プレイボーイ』の連載『角田陽一郎のMoving Movies~その映画が人生を動かす~』。

先週に引き続き、『絶望の国の幸福な若者たち』などの著作で知られ、論客としてメディアに引っ張りだこの古市憲寿(ふるいち・のりとし)さんが登場。

* * *

――子供の頃に好きだった映画は?

古市 思い出深いのは『ドラえもん』ですね。特に家で見た『ドラえもん のび太のパラレル西遊記』(1988年)。のび太たちが、妖怪たちが人間を支配しているパラレルワールドに迷い込んじゃうという、すごく不気味で怖い映画です。

――古市さんもどこかパラレル的な観点で物事を見られていますよね。

古市 そうかもしれません。もともと、藤子・F・不二雄の世界観がすごく好きなんですよ。F先生はSFのことを「少し不思議」の略って言ってますけど、『パラレル西遊記』でも、妖怪たちのいる世界は、現実の世界とほとんど一緒なんだけど、少しだけ違う場所として描かれている。F先生の作品には、いつも社会実験的な発想を感じますし、ものすごく影響を受けていると思います。

――古市さんは大のテレビっ子だったそうですね。

古市 そうなんです。子供の頃はテレビばかり見ていました。うち7人家族なんですけど、テレビが8台ありました(笑)。ドラマもたくさん見ていて、『お金がない!』(94年)、『ラブジェネレーション』(97年)、『ショムニ』(98年)とか。どれくらい暇だったんですかね。

――見てますね~。青春時代はどんな映画を?

古市 中学生の頃は、『バトル・ロワイアル』(2000年)がすごく流行っていましたね。僕は映画化される前に単行本で読んでいたんですが、うっかり先生に貸したらショックを受けてましたね。

――ははは! それは面白いからすすめたんですか?(笑)

古市 貸してみたらどんな感想になるのかなって(笑)。ほかには『アンドリューNDR114』(99年)という作品も好きでしたね。近未来を舞台にした映画で、その世界ではロボットが「一家に一台」みたいな状況なんです。

でも、ロボットがだんだん人間っぽくなりすぎて、仲のいい人が死んだりするうちに、永遠の寿命の儚さを感じるようになり、最後には死を望む。ロボットの悲しさを描いた映画だと思います。

――哲学的な作品ですね。

古市 ほかには主人公がワケなく死ぬ映画も好きですね。『君の膵臓をたべたい』(17年)とか、さだまさしの『アントキノイノチ』(11年)とか。

――どうしてお好きなんです?

古市 だって、現実ってそうじゃないですか。映画だと登場人物は理由があって死ぬことが多いし、ストーリーとしてはそのほうが感動するんだろうけど、現実世界ではある日突然、死ぬってことも多いですから。

――さて、最後に新刊のお話を。

古市 『週刊新潮』で連載していたものをまとめたエッセイなのでどこからでも読みやすいと思います。あと週刊誌なので原稿料が高くて、僕もけっこう本気で書いている(笑)。本気度がほかの作品よりも高いかも。

――本当に古市さんならではの視点で書かれていますよね。いろんなことに興味があって、すべてにコミットするんだけど、自分の中には入れていないみたいな。

古市 どこにでも顔を出すけど、文句を言っちゃうタイプですからね(笑)。ライブとか行っても文句ばっかり言って帰ってくるんで。

――ちなみに、自分の作品に対して何か言われるのは気になりますか?

古市 全然平気ですね。「そういう見方があるんだ」って発見になることもあるし、逆に「ここまで書いたのにわかんないんだ」ってにやにやすることもあるし。でも、感想を読むのは好きですね。あまりにも変な感想とか批判が来ても、ミュートとかブロックすればいいだけですから。

――それができない人もいますよね。

古市 見城さん(※見城徹/けんじょう・とおる。幻冬舎社長)の話をしたいんですか?

――話題になりましたからね(笑)。

古市 僕はもうツイッターを10年くらいやっているんです。その間には不用意な発言で炎上したこともたくさんありました。でも次第に付き合い方がわかっていく。だから見城さんにも、あと10年くらいはツイッターをしてほしかったです。

――耐えて頑張ってくれと。

古市 見城さんの件に限らず、炎上というのは仕方がないと思うんです。みんなの意見や主義主張が違うのは当たり前で、民主主義社会において避けては通れないものです。ただ炎上の付き合い方には、いろいろテクニックがありますよね。

たとえば「無視」。本人としては大炎上だけど、その話題に興味がない人からしたら何でもないという場合も多い。だからいろいろな人の意見にいちいち反論する必要はないと思うんです。

僕が書いた文章について百田尚樹さんにツイッターで批判されたことがあるんですけど、無視しました。強引な意見だと思ったけど、まあそれも百田さんらしいなと思って。

そうしたら、第三者が勝手に言い返してくれたんです。どんな意見を言っても、絶対に味方もいるし、アンチもいる。自分が間違ったことをしていないと信じているなら、それくらい達観してもいいんじゃないですかね。

――表に出なくなる、みたいなことも言われていますよね。実際どうなのかはわかりませんけど、昔から0か100みたいな方でしたもんね。

古市 でも、意外とファンも多いんですよね。僕の友達にも、見城さんのSNSをずっと見てる人がいます。彼は毎日のファッションもすごいチェックしてるそうです。

――徹のファッションチェック(笑)

古市 インスタメインでSNS再開したらいいのに。ちなみに、とあるパーティーで一瞬だけ見城さんと話したんですが、けっこう落ち込んでいたことをお伝えしておきます(笑)。

古市憲寿(ふるいち・のりとし)
1985年生まれ。社会学者。慶應義塾大学SFC研究所上席所員。著書に『絶望の国の幸福な若者たち』『平成くん、さようなら』『誰の味方でもありません』など

構成/テクモトテク 撮影/山上徳幸

社会学者の古市憲寿氏(左)とバラエティプロデューサーの角田陽一郎氏。古市氏が影響を受けた映画とは?