夏が近づいてきました。暑くなる時期に気を付けなければならないのが「熱中症」ですが、そのリスクは人間だけでなく、ペットにも存在します。特に、旅行や動物病院に連れていくときに役立つペットキャリーケースは、夏場は内部が高温になりやすく、ペットを危険にさらす恐れもあるようです。

 ネット上で「気を付けなきゃ」「どんな症状が出るの」「対策が知りたい」など、さまざまな声が上がっている「ペット熱中症」。その原因や対策について、獣医師の増田国充さんに聞きました。

キャリーケースや閉め切った室内で…

Q.ペット熱中症とは、どのようなものですか。

増田さん「体内を流れる血液は、栄養や酸素を運ぶ働きの他、車の冷却水と同じように体内で発生した熱を体表で冷却し、体内に熱がこもらないようにします。また、ヒトの場合は、汗をかくことによって気化熱で体温を下げています。

犬や猫は、汗をかける部分が足の裏のみでかなり限られてしまうため、主に呼吸の回数を増加させて体温を下げようとします。しかし、これらの方法でも体温が下がらず、体内に熱がこもって正常な体の機能が維持できなくなる状態を『熱中症』といいます。

軽度の場合は高体温の他、元気がなくなります。さらに、嘔吐(おうと)や意識がもうろうとする様子がみられ、重症になるとけいれんや内臓の機能障害を生じ、死に至ることがあります」

Q.ペット用のキャリーケースに熱がこもることで、熱中症になることはあるのですか。

増田さん「条件によっては、熱中症になってしまうことがあります。熱中症になりやすい条件は、単に気温の高さだけではありません。ヒトの場合も、湿度や風通しによって、『同じ気温なのに暑さの感じ方が異なる』ことがあると思います。いわゆる『体感温度』ですが、これが高いほど熱中症リスクが上がります。

一般的に、キャリーケースは通気性のよいものが少ないため、同じ温度であっても暑さを感じやすいのです。さらに、熱がこもるためケース内は高温になりやすくなります。ケースの形状や移動時間、動物の身体的特徴など、さまざまな要因が重なって熱中症を発症することは十分に想定されます。とりわけ、『1歳未満』『高齢』『持病がある』といった場合は、熱中症リスクが上がるので一層の注意が必要です」

Q.キャリーケースでの移動以外に、ペット熱中症になりやすいシチュエーションはありますか。

増田さん「閉め切った室内や車の中などに長時間いると、同様に熱中症となる危険があります。特に、動物の場合は連日真夏日となる8月はもちろん、急激な温度変化が生じやすい6~7月の時期にも多数発生します。暑さに体が慣れていないことや、『たまたまその日に気温が急激に高くなり、冷房を入れ忘れた』など飼い主による暑さ対策が万全でなかったことが原因となります。

また、言わずもがなですが、炎天下で地面の照り返しが強い条件で散歩をするのは、明らかに動物にとって大きな負担となります。夏場は、散歩の時間に十分な配慮が必要です」

Q.特に熱中症になりやすい動物は。

増田さん「汗をかけない犬や猫は、基本的に暑さが苦手です。品種によって異なりますが、もともと暑さに弱い犬種、特に寒い地域が原産の品種にとって日本の猛暑はかなり酷です。

一般的に、体が大きいほど体積当たりの体表面積が小さくなります。体表面積が小さいほど、皮膚から熱を放出することが難しくなります。『大型犬の方が暑がり』なのはこれに由来します。では、小型犬は問題ないかというとそうではありません。心臓病や高齢、その他の持病がある場合、体力や免疫力も低下するので、外部の変化に自分のコンディションを合わせづらくなり、結果として熱中症になる恐れがあります。

パグやフレンチブルドッグに代表される短頭種は、鼻の穴が狭いなど、もともと呼吸器に負担がかかりやすい構造をしています。暑さによって『ハアハア』という呼吸が続くと、熱交換が他の犬種に比べて劣る場合があります。つまり、熱中症リスクが高くなるということです」

保冷剤やミニ扇風機の活用を

Q.飼い主から見て、ペット熱中症を疑うべき異変や症状、病院に連れて行った方がよいと判断するための目安はありますか。

増田さん「『触ったとき、明らかに熱を持っている』『呼吸がハアハア速くなる“パンティング”の状態がいつも以上に速く、舌の色が通常よりも強い赤色になっている』『明らかにぐったりしている』、それに合わせて『嘔吐や下痢がある』場合、速やかに適切な処置が必要なため動物病院に連れていきましょう。病院に連絡する際、現在の様子を説明しておくとよいでしょう。当初はそこそこ元気があっても、容体が刻々と変化することがあり、油断は禁物です。心配な場合は自己判断せず、動物病院に相談することが重要です」

Q.室内・屋外でペット熱中症が疑われる場合、どのような対処をすべきでしょうか。

増田さん「重症であれば、すぐに動物病院に連れていかなくてはなりませんが、すぐに搬送するのが難しい場合、体温を下げることに気を配る必要があります。重要なのは、体の各部に酸素を供給する『動脈血』の温度を下げることです。これらの分布する首や頭部、脇、腰のあたりに、保冷剤や冷水で絞ったタオルなどを当てるようにしましょう。アルコールスプレーがあれば、体表に散布するのもよい方法です。そして、風通しのよい涼しい日陰に移動し、様子を確認しながら、飲み水が飲めるようであれば水分補給を行いましょう」

Q.夏場にどうしてもペットキャリーケースを使用する場合、気を付けるべきことは。

増田さん「熱がこもりやすい環境なので、体感温度が上がりにくい状況を作り出すように工夫したいところです。保冷剤をタオルにくるんだものを入れておく他、ハンディータイプ扇風機が手に入りやすくなりましたので、これを活用する方法もよいでしょう。いずれにしても、長時間ケースに入ったままというのは熱中症にかかるリスクを増大させます。適度にケースから出し、休憩と水分補給をまめに行うようにしましょう」

Q.ペット熱中症を防ぐために、夏場の日常生活やお出かけ時に飼い主が意識すべきことは何でしょうか。

増田さん「夏場は地表の温度が高く、その地表面に近いところで生活しているのが犬や猫です。こうした条件や、もともと暑さにそれほど強くないことなどから、動物は人間が思っている以上に暑さを感じます。『夏の昼間はお散歩を避けること』『屋外であれば日差しを遮る場所があること』『風通しがよいこと』『すぐに水分を取れること』を気にかけてあげましょう。

室内の場合は、閉め切った場所であれば冷房は必須になるでしょう。初夏や梅雨明けはいきなり猛暑となることがあり、うっかり冷房を入れ忘れて外出してしまうケースが多くみられます。普段から天気の動向に注目し、気温が上がりそうであれば、しっかりと暑さ対策を行うことが重要です」

オトナンサー編集部

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