Point
■観測史上最高の粒子エネルギーがチベット高原の天文台で記録された
■記録された高エネルギーの放射線は、地球から7000光年に位置する「かに星雲」から来ていると判明
■星雲の中心部に位置する「かにパルサー」により、高エネルギーの光子が作られていた
チベット高原の天文台「Tibet Air Shower Array」によって、観測史上最高の粒子シャワーが観測された。
その数値は500TeV(テラ電子ボルト)に達する。世界最大の粒子加速器「LHC(大型ハドロン衝突型加速器)」でも13TeVであるのを考えると、桁違いのエネルギーだ。
研究チームによると、およそ7000光年離れた「かに星雲」が光の放出源であることが特定されたという。
詳細な論文は「arXiv」上に掲載されている。
https://arxiv.org/pdf/1906.05521.pdf
観測に最適なチベット高原
Tibet Air Shower Arrayは、ユーラシア大陸の中央部に広がるチベット高原に位置している。チベット高原は世界最大級の高原で、高度は3500m〜5500mにも達し、「地球の屋根(Roof of the World)」とも呼ばれている。
宇宙から降ってくる粒子を観測するには、この高度が重要だ。高度が低すぎると、粒子が落ちてくる間に大気によってほとんど吸収されてしまうからだ。
その点チベット高原なら大気量も薄いため、観測には最適なのである。
高エネルギー光子シャワーの謎
設立以来、同天文台は超新星爆発や活動銀河核による放射線を数多く記録してきたが、一方でそれとは異なるミステリアスな放射線も観測している。それが高エネルギーの光子である。
今回、研究チームが天文台で観測された光子シャワーを分析した結果、その内の一つが観測史上最高の100TeVを記録していた。
しかし驚きも束の間。他のデータも調べてみると、なんとその数値をさらに上回る500TeVのエネルギーが確認されたのだ。まるでインフレが激しい少年マンガのようだ。
このエネルギーは専門家によると、1個のピンポン球が空から降ってくるときのエネルギーに匹敵するとのこと。ちなみにTeV(テラ電子ボルト)とは、1電子ボルトの1兆倍を意味している。
そして高エネルギー光子を数年にわたり調査した結果、その光源が「かに星雲」にあることを特定された。
「かに星雲」の中心に存在する強力なパルサー
かに星雲は地球からおよそ7000光年の距離に位置する天体で、1054年に起きたとされる超新星爆発の残骸からつくられた。この現象は、日本でも藤原定家が日記『明月記』に記録しているほどだ。
かに星雲を詳しく調査すると、中心部に「かにパルサー」と呼ばれる天体が高エネルギー光子を作り出していることが判明した。
かにパルサーは1秒間に30回転する中性子星で、電波からガンマ線にいたる多くの波長の電磁波を放っている。この放射が、高エネルギーの光子を作り出す鍵となるのだ。
研究チームによると、パルサーが発する高エネルギーの電子が低エネルギーの光子と衝突し散乱することで、光子をより高エネルギーのX線やガンマ線に変化させるという。
この現象を「逆コンプトン効果」と呼んでいる。こうして生じた高エネルギーの放射線が、地球へと達していたいうわけなのだ。
ピンポン球程度の衝撃とはいえ、チベット高原に訪ねた際は「かにパルサー」に注意かに〜。
投稿 観測史上最高、500TeVの高エネルギー放射線が地球に降ってきたぞ! 発生源はかに星雲 は ナゾロジー に最初に表示されました。
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