黒板にチョークを使って絵を描く「黒板アート」。その高校生日本一を決める大会「日学・黒板アート甲子園2019」が開かれました。最優秀賞に輝いたのは、福島県立会津学鳳高等学校 美術部の5名の有志メンバー。黒板に描かれたとは思えない迫力のある「おせち」の絵はどのように作られたのでしょうか?

高校生の自由な発想が炸裂!? 「日学・黒板アート甲子園」とは

SNSでも話題となることが多い「黒板アート」。黒板とチョークという身近なアイテムで、キャンパスに描かれた絵のような繊細で奥行きのある絵が生み出されることに驚かされます。チョークなのでいずれは消えてしまうという儚さも魅力のひとつ。

「日学・黒板アート甲子園」は、高校生たちが自由な発想で描いた黒板アートを保存して伝達していこうという趣旨で、2015年に始まった大会です。作品は写真で応募し、最優秀賞や優秀賞の他、エリア賞も設けられています。Webサイトからは、過去の応募作品や受賞作品も見ることができます。

2019年大会で優勝したのは、華やかな「おせち」を描いた福島県立会津学鳳高等学校チームの皆さん。作品づくりで苦労した点や、今後の進路についてお話を伺いました。

最初はエリア賞狙いだったけれど、描いていくうちに……

――最優秀賞を受賞された感想をお聞かせください。

猪俣:素晴らしい賞をいただけてうれしいという思いと、信じられないという思いがあります。地元のテレビ局にも取り上げていただき、学校でも先生や友達から「おめでとう」と声をかけていただくのですが、まだ現実感が薄いですね。

長谷川:聞いたときは、ただただうれしかったです。強豪校がひしめく中、自分たちが頂点に立てたということは本当に信じられないのですが、努力へのご褒美なのかなと思いました。頑張ってよかったです。

佐藤:過去大会のレベルの高い入賞作品を見て、最初は「エリア賞に入れればいいな」くらいの気持ちでした。でも、描いていく中で苦労したり、自分との戦いに苦しんだりして、力を出し切ったという思いを最後は抱けました。それを評価していただけたことがうれしかったです。

鈴木:まだ実感が湧かないですね。私が担当したのは数の子やタコ、昆布巻きなど、見た目に地味なものが多かったので……。みんなで頑張って賞を獲れたことがよかったなと思います。

―― 大会に出場されたきっかけを教えてください。

佐藤:美術部の先輩が昨年、同大会に応募していて、その思いを受け継いだ形です。顧問の先生も勧めてくださり、美術部2年生の中で有志を募ったときに手を挙げたのが私たち5人でした。

猪俣:今日はいないのですが、同じ美術部2年の佐藤広大くんもメンバーの一人です。

会心のアイデアが降りてきて、みんなの心がひとつに

―― 最優秀賞に選ばれた一番の要因は何だと思いますか?

長谷川:先日表彰していただいたときに、構図とインパクトが決め手となり満場一致だったとおっしゃっていただきました。技術では過去の優勝校に比べてはるかに劣っているのですが、黒板を重箱に見立てて上から見た構図で描いたことが新しかったようです。視点を変えたことが勝利の要因だったのかもしれません。

こだわって作った構図
こだわって作った構図

―― 作品のモチーフはどのように決められましたか?

猪俣:「おせち」というテーマは長谷川さんが考えました。その案が出た瞬間、他の案が吹っ飛んで、みんなで「おせち! おせち!」と言って盛り上がりました(笑)。

長谷川:突然ひらめいたんです。お正月でもなかったのに(笑)。

佐藤:それから、おせちの伝統や決まりについて図書館で調べ、どうしたらインパクトを出せるかや、おいしそうに見える品目や配色などについて、みんなで提案し合いました。

黒板アートに欠かせない、小さな黒板消し
黒板アートに欠かせない、小さな黒板消し

―― 制作日数はどれくらいかかりましたか? これまでに黒板アートの経験は?

長谷川:春休みを利用して、1日約7時間×10日間で仕上げました。

猪俣:私たち全員、今回が初めての黒板アートだったので、苦労の連続でした。チョークを寝かせて使うと薄い色を出せ、立てて使うと濃い色を出せるのですが、筆とは使い勝手が全く違うので難しかったです。こすって色が消えてしまうことにも苦戦しました。カッターチョークを削って水で溶き、筆で色をつけることも初めての体験でした。

美味しそうに見えないもの、パッと見て何かわからないものは描き直し

―― 制作する際に一番努力したことは何ですか?

猪俣:自分がおいしそうと思えないと人にも思ってもらえないと思うので、「食べたい!」と思えるものを描こうと思いました。特に「煮しめ」は描く範囲が広くて、途中でつらくなったのですが……その気持ちでやり遂げました。

長谷川:質感を出すことを一番頑張りました。強豪校には美術科のある学校も多く、私たちには彼らのようなデッサンの基礎がないので、受賞できたのは奇跡のようなことだと思います。

佐藤:おいしさと彩りです。リアルさを追求しました。

鈴木:デザインですね。何度も描き直したものもあります。例えば「昆布巻き」は、最初は切った断面を上にした絵を描いたのですがピンと来なくて、かんぴょうを巻いた絵に描き直したら、かわいくて華やかな雰囲気になり、ひと目で「昆布巻き」とわかるようになりました。

佐藤:パッと見てすぐに何か分かるということは気にしていました。今日はいない佐藤くんが描いた「ごぼう」も、最初は「ごぼう」に見えなかったのですが、ごまを描き足すことで「ごぼう」らしくなりました。そうした苦労が一つひとつにありました。

長谷川:最後はみんなで、お互いの描いたものを手直ししたりして統一感を出しました。


―― 今後の進路や将来の夢について教えてください。

猪俣:私は将来、地元で働きたいので、地元の短大に進学し、商学や経済について学べればと考えています。素晴らしい賞をいただけたことを今後も生かしていきたいです。

長谷川:絵も好きなのですがそれ以上に今、語学を勉強したいという気持ちがあります。英語と韓国語に興味があり、東京の外国語大学への進学を目指しています。語学を好きという気持ちでは誰にも負けないつもりなので、その強い思いを持って受験を頑張りたいと思います。

佐藤:私は今回の経験を生かして、東京の美大に行きたいと考えています。5教科の勉強に加え、デッサンの練習を頑張っているところです。

鈴木:理系のクラスに在籍しているので、大学も理系に進みたいです。興味があるのは工学部薬学部です。



「おいしそうに見えるか」「パッと見てすぐに分かるか」と、見る人のことを考えながら細かな調整を重ねたことが勝利につながったようですね。料理の品目ごとに担当を分けつつも、最後はお互いに手直しをして完成させたというチームプレイも見事です。大会のWebサイトでは、今回の作品への講評の他、他チームの力作も紹介されているので、ぜひご覧ください。


profile福島県立会津学鳳高等学校 美術部
猪俣くるみ(2年)、長谷川藍(2年)、佐藤有珠(2年)、鈴木胡桃(2年)

日学・黒板アート甲子園
http://kokubanart.nichigaku.co.jp/