アウェーで蔚山現代に3-0快勝 逆転突破を呼び込んだ入念な準備

 冷静と情熱の“大槻イズム”が逆転突破を導いた。浦和レッズは26日のAFCチャンピオンズリーグ(ACL)ラウンド16第2戦、蔚山現代(韓国)とのアウェーゲームに3-0で勝利。2戦合計スコアを4-2と逆転してベスト8進出を決めた。そこには大槻毅監督のピタリとはまった交代策と、選手たちの闘志に働きかけた言葉があった。

 浦和は19日のホーム第1戦で1-2の敗戦を喫した。大槻監督は昨季に暫定監督を務めた際には、公式戦6戦無敗でオズワルド・オリヴェイラ監督にバトンタッチし、その契約解除を受けて正式監督に就任してからの3試合目で、ついに初黒星を喫した試合でもあった。

 しかし、過去にクラブの分析担当も経験した冷静な指揮官は、1週間の準備期間で逆転突破に向けた入念な準備を施した。その一端が、勝ち抜くにはあと1点が必要だった後半30分の選手交代にあった。

 その時点で浦和はFW興梠慎三の先制点により1-0でリードし、2戦合計スコアは2-2となっていたが、アウェーゴールの差で敗退となる状況だった。すでに1枚目の交代カードとしてFW杉本健勇を同20分に送り込んでいた大槻監督は、初戦の出場停止から明けたMF長澤和輝をスタンバイさせた。そして、交代ボードに出た番号は「31番」のDF岩波拓也だった。

 長澤の投入後、浦和は4バックに変更。攻撃時にはDFマウリシオとDF槙野智章を最終ラインに残す、事実上2バックの超攻撃的な布陣となった。そして迎えた同35分、マウリシオが敵陣にできたスペースにドリブルで持ち出すと、アーリークロス。杉本に相手が引き付けられた背後で、興梠が突破条件を満たす2点目のゴールを決めた。

 試合後の大槻監督は「交代に関しては、運動量の担保、ゴール前に入って行く人数の担保、あとは我々の武器の種類を少し変えて相手にプレッシャーをかけたかった。長澤を入れた時に、システムを一度変えた。それを含めて選手と共有していたことなので、スムーズに実行してくれて良かった」と、準備段階で4バックへのシフトも想定した準備を進めていたことを明かした。

選手のハートに訴えかけた言葉 「いろいろな戦略や作戦があっても…」

 2戦トータルすれば勝ち越しの1点を決めると、大槻監督はDF森脇良太を投入して即座に3バックに戻した。そして、前掛かりになった蔚山の背後を突いた3点目も決め、突破を確実なものとした。

 それだけを切り取れば、交代策の勝利ということにもなるだろう。しかし、大槻監督はそうした戦略的な部分と同時に、選手に対して根源的な「戦い」の意志を注入していたことも明かしている。

「1戦目と2戦目の違いで言えば、2戦目は我々のほうがピッチにしっかりと立っていて、彼らのほうが倒れる回数が多かったと思う。試合前に『そこの回数でゲームが決まるんじゃねえか』と。いろいろな戦略や作戦、戦術はあるにしても、そういったところで上回らないと勝利は持ってこられないという話をした。その戦いも今日は上回れたと思うので、非常に選手たちのパフォーマンスを誇りに思っている」

 昨季の暫定監督時にはオールバックに決めた髪型から、“組長”や“アウトレイジ”といったワードも飛び交った。自身は「スイッチを入れたかった」と話していたスタイルだが、今季の正式監督就任時には「去年は僕のことを選手は知らなかったから、何をやっても良かった。今回、同じことをやっても鼻で笑われるだけ」と話し、そうした要素を強調しないできた。

 それでも、根本的なところにある緻密な戦略を冷静に練りつつ、最後は選手の闘志を呼び起こす情熱との“ハイブリッド型采配”であることは変わらない。180分の戦いでしっかりと勝利をものにした大槻監督率いる浦和は、敵地での完勝劇で2年ぶり3回目のアジア制覇へ向けて8強への切符を奪い取った。(轡田哲朗 / Tetsuro Kutsuwada)

FW興梠は2ゴールを挙げ、チームをベスト8進出に導いた【写真:Getty Images】