今まで大家業をしてきたなかで一番辛かった仕事は、「漏水トラブル」。
水漏れ自体は「築古マンションあるある」な話ですが、いざ自分が大家として経験してみるとすごく大変な実務だったのです。
ここからは数回にわたり、「水漏れトラブル」について紹介します。
今回は、漏水トラブル発生から入居者さんの部屋に立ち入らせてもらう許可をいただくまでの経緯について。
あわせて「どんな場合なら大家さんは無許可で入居者さんの部屋に立ち入ることが許されるか」についてもお伝えできたらと思います。
夜中に電話が…漏水発生!
12月の半ばの寒い日のこと。
友人との忘年会の帰り、いい気分で電車に乗っていると携帯電話に入居者さんからの着信が。時間は夜の11時にならんとする頃。
こんな時間に電話ということは、100%トラブルに間違いありません。
逸る気持ちを抑えて次の駅で降り、折り返しで電話をすると…
「今、家に帰ってきたら、キッチンとリビングがビショ濡れになっていて…」
と、電話越しにも困惑した様子が伝わってきます。
漏水トラブルがついにうちでも…と動揺したのを覚えています。普通に考えれば、真上の部屋から水が出たと考えるのが妥当です。
すぐに上階の入居者さんに連絡を取ったのですが、電話はつながりません。仕方なく再び電車に乗って帰宅し、すぐに漏水の被害に遭ったお部屋に向かいました。
現場を確認
水浸しだった床はすでに掃除が済んでいましたが、天井から流れた水の跡が見て取れます。
水を吸って膨張したせいで、壁の木材にもスキマができてしまいました。
天井のダウンライトも故障してつきません…。
結構な被害です。こちらの入居者さんは、まだお住まいになって1年くらいのご夫婦。
せっかく綺麗にリノベーションされた部屋を選んだのに、こんなことになってしまったわけで。大家としては平謝りするしかありません。
こちらのご夫婦とは何度か会食をしたり、親しくさせて頂いていたこともあり、不満をぶつけられたり怒られたりということはありませんでした。
それどころか「大家さんも年の瀬に大変ですね」なんていう言葉までかけていただき、本当にありがたかったです。
一方、上の階の入居者さんから折り返しの電話はなし。
時間はすでに深夜の12時を回っていますから無理はできません。
明日の朝いちばんでもう一度連絡を取るしかないでしょう。
もやもやした気持ちで布団に入りましたが、ふと思いました。
「今夜、また漏水があったらどうしよう」
原因も何もわからない状態ですから、当然、悪い可能性を考えてしまいます。
その晩の眠りはすごく浅かったのを覚えています。
大家が自己判断で部屋に立ち入れるのは「緊急事態」のときだけ
翌朝。
幸い、二度目の漏水は起きませんでした。
水が出たと思わしき部屋の入居者さんに電話します。
大事なのは、この時点では原因はわからないので、相手に過失があるような言い方にならないように気をつけること。
気持ちを落ち着けて電話しましたが、またも不通。
何か緊急事態が起こっていると察していただけたのか、ほどなく折り返しの電話がかかってきました。
声色からすでに「こんな朝から何なんだよ」という不満感がビシバシ伝わってきます。
胃が痛くなりますが、聞くべきことを聞かねばなりません。
「実は、下の階に漏水があったのですが、なにか心当たりはございませんか?」
が、ひとこと「ないですね」という、つれない返事。
しかし、トラブルが起きている以上、ひるむわけにもいきません。
「たいへん申し訳ないのですが、お部屋の水回りを確認させていただきたいのですが…」
正直、ダメ元のお願いでした。
hinooto / PIXTA(ピクスタ)
既に心の中では断られた場合にどう説得しようか悩んでいたのですが、意外にも「留守のあいだに勝手に入ってくれていいです」とOKの返事。
こちらの入居者さんが自分の空間を守ることに固執しないタイプだったのは、本当に助かりました。
一般的に言って、賃貸マンションの室内は入居者さんのプライベートな場所。
いくらオーナーであろうと管理人であろうと、入居者さんの許可なしに室内に立ち入ることはできません。
許されるのは「マンション全体の保全に関わる緊急事態」が発生したとき。
いちばんわかりやすいのがガス漏れや火事のケースで、漏水は判断が難しいところです。
天井から滝のように水が流れ出ているという状態なら、緊急事態に該当するでしょう。
今回のように一時的に水が漏れ出たという程度では、入居者さんの許可なしで入室するのは難しいような気がします。
大家が勝手に部屋に入ってトラブルになった例
このへんの判断を見誤るとトラブルに発展することもあります。
先代の大家時代に、こんなトラブルがありました。
たまたま近所の見回りにきた警察官が、うちのマンションの一室から変な臭いがしていることに気づきました。
火の不始末の可能性を感じた警察官は、大家に連絡し中に入って確認するよう要請。
マスターキーでカギを開け、大家と警察官で中を確認したものの、特に何も起こっていませんでした。
臭いの原因は、入居者の方が出かける前に焼いた魚の臭いが残っていたとのことでした。
火事じゃなくてよかったねと胸をなで下ろしましたが、トラブルはこの後。
自分の留守中に無断で部屋に入ったことを知って、入居者の方が激怒したのです。まあ、その気持ちもわかりますよね。
ただ魚を焼いた臭いが残っていたくらいで勝手に部屋に入られてしまっては、賃貸契約もプライバシーもあったものじゃありません。
たとえ警察官と一緒でも、部屋に入る前に入居者さんに連絡して許可を取るのが筋。
ところが、警察官に命令され火事の可能性という緊急事態への驚きから、適切な手続きを踏まずに部屋に入ってしまったのです。
同情の余地はあるものの、これは大家が悪いと言わざるをえません。
プライバシーや権利についての感覚がアップデートされていない年配の方が管理している築古物件では「悪気はないが、勝手に部屋に入る」というのは、よく聞く話。
自主管理物件にお住まいの方は、気をつけてください。
警備システムは大家や管理会社からも守ってくれる?
実は、この種のトラブルを防止するために有用なのが警備システム。
一般的には空き巣の防止や通報に有効だという印象の警備システムですが、実は入居者さんの留守中のプライベートを守る効果もあります。
警備システムが作動した状態だと、マスターキーを持った大家さんや不動産管理会社であっても部屋に入れば警報が鳴ってしまいます。
残念ながら、大家さんや管理会社が必ずしも信用できないというのが今のご時世。
ちょっと前には、某不動産会社の社員が合鍵を使って女性の入居者の部屋に侵入したなんていう事件もありましたよね。
なるべく入居者さんと信頼関係を築きたい僕としては苦々しいところもありますが、たとえ大家さんが相手でも用心するに越したことはありません。
自身も、入居者さんにはできるかぎり警備システムを使用するようにお願いしています。
大家的に「留守中に勝手に部屋に入られるかも」という疑念や誤解を招かないで済みます。
さて、次回は漏水が起こった原因を探ります。
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