注目の現役女子大生映画監督・松本花奈による、日々雑感エッセイ「松本花奈の恋でも恋でも進まない。」が、「DVD&動画配信でーた」で好評連載中。Movie Walkerの特別企画として、松本監督が”いま気になる人”に、質問を投げかけます。今回は連載第8回のテーマ “想像できない” について、サプライズプランナーの成江美里さんにお話を伺いました。

対談が行われたのはクルン・サイアム 吉祥寺店

松本「実はお会いするのは今日で2回目ですね」

成江「ですね。知り合ったキッカケもなかなかおもしろい感じでした」

松本「はい。ちょうど2週間くらい前にとある友人から久しぶりに連絡があり、家で鍋をするから遊びに来ないかと誘われ、お邪魔すると、10人くらい?でルームシェアをしているとのことでした。そこに成江さんも住まれていて。初めましての挨拶をしてから15分後くらいには一緒に鍋を食べていました」

成江「いろいろお互いの話をしている内に、年も近いということが分かったんです」

松本「あの時、聞ききれなかったこともたくさんあったので...今日はいろいろとお話出来ればと思います!」

成江「よろしくお願いします!」

■ 「サプライズの極意は、サプライズをゴールとしないこと」

松本「改めて成江さんのお仕事『サプライズプランナー』について教えていただけますか?」

成江「依頼者の伝えたい想いを”サプライズ"という形にして届けるお仕事です。伝えたい想いなど背景をヒアリングし、コンセプトを作りコンテンツに落とし込んでいきます。例えば以前ここのお店も使わせてもらったことがあるのですが、その時は大学を卒業かつ卒寮する先輩に向けて、いままでの感謝の気持ちを届けたいという後輩からの依頼でした。依頼者に話を聞いていくと、吉祥寺に先輩との思い出が詰まっているということが分かりました。卒業という節目でもあるので、これまでの思い出を振り返りつつ先輩にはいつでも戻ってこれる居場所があるということ感じてもらえるよう、思い出の地を巡るツアーをしてもらうプランを立てました。サプライズ決行当日、依頼者には先輩と駅で待ち合わせをして、ツアーの招待状を渡してもらいます」

松本「ちなみにその様子は成江さんたちも見ているんですか?」

成江「私たちプロデュースチームはグループに別れて、物陰からこっそりその様子を見て尾行したり、会場で装飾などの準備をしたり、ほかの協力者のアテンドなどをしています」

松本「すごい!まるで探偵のよう」

成江「そうですね(笑)。この地点で先輩は既にかなり驚いていたのですが、本番はまだまだここから。予定していたルートに乗っ取って井の頭公園など2人にとって思い出深い場所を辿ってもらい、これまでの日々を振り返ってもらいます。で、行く先々では写真を撮ってもらいました」

松本「ふむふむ」

成江「撮った写真は私たちにすぐに転送してもらいます。裏では同じ寮の仲間がPhotoshopでスタンバイしているので、届いた写真を即座に印刷してフォトアルバムを作っていきます。で、ツアー最後のスポットは、ターゲットとよく食べに来ていたというこのお店です。ターゲットが連れて来られ、お店の方にメニューを差し出されたと思いきや、それはさっき撮ったばかりの写真で作られた思い出巡りツアーのアルバムです。先輩の顔が『!?』となったところで依頼者が心を込めて用意したお手紙を読みます。そして最後の仕掛けは、店内の奥に隠れていた仲間の登場と、これまでの思い出の写真と一人一人からのメッセージが展示された空間のプレゼントです。想いが伝わったようで、涙を流して喜んでくれて無事に大成功でした」

松本「なんとすてきな。まだかまだかと待ち構えている仲間たちの様子も想像出来ますし、私が後輩にそんなことされたら泣いちゃうかも。でも自分でサプライズを企画しようとすると、途中でバレてしまったり、意外と喜ばれなくてガッカリしたり難しいなと思うことが多いのですが、成江さんの考えるサプライズの極意とは?」

成江「サプライズをゴールとしないこと、ですね。サプライズが最終地点なのではなくそれはあくまで手段であって、サプライズを通して相手に何を伝えたいのかをしっかり考え言語化すること。サプライズ後のターゲット仕掛け人が、さらに豊かな心でお互いを思いやって、より良い関係を築くことができ、人生が愛と幸せで満ちていく…自分が入ることでそこまで作ることが出来たら良いなと思ってやっています」

松本「それは映画にも共通していることかもしれないです。ただ映画を観てもらうことが目的なのではなく、劇場を出た後になにが変わるか。そこに本質が詰まっていると考えます」

■ 「皆の心の中に必ず『愛』は存在している」

松本「そもそも成江さんが今の活動をやられることになったキッカケはなんだったんですか?」

成江「それはですね、ちょっと長くなるんです(笑)」

松本「お。そしたらちょうど注文したナシゴレンと空芯菜がきたので、食べながらゆっくり話しましょう(笑)」

成江「いただきます!…美味しい!…えっとですね、まず元々中学生くらいから友達の誕生日などでサプライズをして感動させることは大好きだったんです。たった1人の笑顔のためにみんなで力を合わせて作っていくことに楽しさや真の心の豊かさというものを感じていて…。といっても当時は本当に人並みというか、それを職業にしようなんてことは全く考えていませんでした。で、大学に上がる時もまだやりたい事が見つかっていなくて、だから大学生活はやりたいことを見つける時間にしよう、じゃあとりあえず就職先の選択が幅広い経済学部だ、という思考で入学しました。ただ、入学してすぐにその思考が良くなかったことに気づきました。大学は本当はやりたい事を実現させる知識や力を身につける場所でした。大学に行くことで何かが変わる、というわけでもなくて、自分次第であると。なんて意志の弱い、消極的な考えだったんだろうと、反省しました。それですぐに関心のない分野を学びに授業に出る価値を感じられなくなり、あまり行かなくなってしまったんです」

松本「なるほど。それが18歳くらいの時ですよね」

成江「はい。しばらくはスターバックスアルバイトをしながら、やりたいことを見つける為に本を読み漁ったり、気になる活動をしている人を見つけては何処へでも会いに行ったり、イベントやインターンシップに参加したりして過ごしていました。とにかく、この命をなんのために使いたいのか、どんな軸を持ってどんな人生を生きていきたいのかを探求し続ける毎日でした。で、20歳になる時に母からある大きな告白がありました」

松本「告白っていうのは?」

成江「この活動を始める一つのキッカケになったのですが、ある日母が、実は父とは私が小学生の時に離婚していたのだと告白してくれたんです。父は1階で自営業をしていたのですが、確かにある時突然、父がそこで寝泊りを始めて、母と私たち子どもだけ2、3階で暮らすようになりました。両親の仲が悪いことは知っていましたが、よく家族旅行や食事にも連れて行ってくれていたので、近い別居をしているだけなんだと思っていました。離婚していたとは、気付けませんでした。私たち娘3人が離婚は嫌だと言っていたから、当初は悲しませないようにと母はずっと我慢して頑張ってくれていたそうです。でも精神的に本当に辛いところまで落ちてしまったので離婚を決意したみたいで…。でもそんな背景を隠して、私たちの前では一切涙を流さず、朝早くから夜遅くまで娘3人を養うために必死で働いてくれて。反抗期の長かった私が、心身共に疲れている母に追い討ちをかけるように困らせても、とにかく優しい完璧なお母さんでいてくれていました。経済的に苦しい状態だったのに私立高校に行きたいなんて言い出す私でも応援してくれたり、更にお父さんのことも大好きな私たちのために、お父さんを交えて出掛けたりもしてくれていました。だから、そんな事実を知ってから数日、涙が止まらなくて…。悲しさと寂しさと、感動の涙でした。ずっと向けられていた深い愛に気付き、こんなにも、ただただ真っ直ぐに人を想いやり、人のために人を動かせてしまう愛情というものが、なんてすばらしく偉大なんだ…と感動しました。それがキッカケで『愛』について考えるようになりました」

松本「そうだったんですね。『愛』とはなにか。とてもシンプルだけど、とても大事なものだからゆえに難しい問いだと思います」

----

後編では、成江さんと松本監督の今後の目標から、まさかのサプライズまで!?

●成江美里

1994年生まれ。和歌山県出身。2018年に株式会社スペサンが運営するサプライズプロデュースチーム「サプライズホリック」に参画。チームメンバーとして様々なサプライズの企画から当日施工までを手掛ける。現在は写真展やオリジナルブックのおくりものプロデュースチーム「ハモン」にて広報などに携わる。ウェディングなどライフイベントの分野でも活動中。(Movie Walker・取材・文/松本花奈)

松本花奈監督と成江美里が「サプライズ」をテーマに語り尽くす!