あの人を狂おしいほどに惹きつけてやまない物質が一体どこからやってきたのか? そんな問いなど、7垓ドルもの価値がある黄金の小惑星を目の前にすればどこかへ吹き飛んでしまうに違いない。
1垓は10の20乗だから、1の下に0が20個つくわけで、7垓ドルを日本円に換算すると、えっと……よくわからん。
想像力が追いつかなくて、あんまりピンとこないのだが、そのべらぼうな金額がつけられた小惑星の名を「プシケ(16 Psyche)」という。
それを地球の人々全員に均等に分けたとすると、全員にもれなく100兆円をプレゼントできるほどだそうで、一生かかっても使いきれない価値であることだけは確かだ。
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21世紀のゴールドラッシュの舞台は宇宙
今、宇宙で天然資源を発掘しようというビジネスが過熱しつつある。
火星と木星のあいだにあるアステロイドベルトやおなじみの月などには貴重な資源が眠っていることがわかっており、各国ではこれらを狙って着々と準備が進められているのだ。
ターゲットとなるのはプシケだけではない。アステロイドベルトの中にある200メートルほどの小さな小惑星には、300億ドル(3兆2400億円)相当のプラチナが埋蔵されている可能性がある。
英アステロイド・マイニング・カンパニーの創業者、ミッチ・ハンター・スカリオン氏はメディアに対して、次の「ブーム」になることは間違いないと発言している。
「インフラを整備することができれば、可能性は無限です。小惑星ラッシュにチャレンジしようという大胆不敵な者たちは天文学的な富を稼ぐでしょう。」
まさに21世紀のゴールドラッシュだ。
宇宙での採掘は可能なのか?
はたして宇宙に浮かぶ金塊を採掘することは可能なのだろうか? なにしろ、プシケは地球から7億5000万キロの彼方にあるのだ。
王立天文学会の会長を務めるジョン・ザーネッキ教授の試算によれば、それができると証明するだけで25年、商業ベースで採掘を始めるには50年はかかるだろうという。
もちろん、経済的採算性と宇宙技術の進歩という前提条件をクリアした上でのことだ。
だが、宇宙の黄金採掘を虎視眈々と狙うユーロサン・マイニングのCEO、スコット・ムーア氏は、「どんなものでも同じで、宇宙の金採掘でさえインフラの問題でしかありません。いずれはできるようになるでしょう」と自信をのぞかせる。
アステロイドベルト、地球近傍天体、月
「(プシケは)宇宙の金発掘における聖杯のようなものかもしれませんが、この冒険はそこでは終わりません」とムーア氏はこの分野がこれから急成長するだろうことを断言する。
100万個以上の小惑星があるとされるアステロイドベルト以外にも、たとえば地球近傍天体がある。これらは地球の近くを通過するために、うまくいけば、そこから水などの資源を採掘することができる。
それから月だ。ここにも金やプラチナ族の金属からヘリウム3、水、レアメタルまで豊富な資源が眠っている。採掘を行うには重力が必要で、月には地球の6分の1の重力しかないが、科学者によると、それでも作業を行う上で十分だという。
世界の小惑星採掘市場
そう、じつはすでに小惑星採掘のグローバル市場が存在しており、アライド・マーケット・リサーチによると、2025年までに38億ドル(4100億円)に拡大すると見込まれている。
この試算は、現在進行形や将来的な宇宙ミッション、宇宙採掘技術への投資資金、宇宙で使える3Dプリント技術などを考慮したものだ。
今のところ、この市場で主要なのは宇宙船設計セグメントで、2017年度の総収益の5分の4を占めている。しかし2025年に大きな変化を迎えるとされる。官民からの投資資金が急増し、操業セグメントの複合年間成長率が2025年までに29パーセントを超えると見込まれるのだ。
「25年後か50年後になって、宇宙採掘事業が突然花開くとは思えないでしょうが、投資という点で見ればすでに始まっています。アステロイドベルトは市場の一側面に過ぎず、全体ではすでに数千億という市場規模です」とムーア氏は説明する。
事実、モルガン・スタンレーは、グローバルな宇宙経済は現在でも3500億ドル(37兆8000億円)と試算。2040年までには、2.7兆ドル(292兆円)と天文学的な規模になるという。
宇宙採掘一番乗りは誰か?
中国はこの競争で主導権を握ると明言している。主要な天然資源企業やテクノロジー系デベロッパーの手綱を握る同国にとっては有利なゲームだろう。
もちろん、アメリカだって無関心なわけではないが、その態度は対照的だ。中国が長期的な利益に照準を合わせた宇宙経済開発を追求する一方、NASAが主に行うのは宇宙探査や科学的ミッションなのだ。
ヨーロッパも参加している。たとえば、欧州宇宙機関は1月に、航空宇宙開発のジョイントベンチャーであるアリアングループと契約を交わした旨を発表。2025年に月での予備調査が行われる予定で、その念頭にあるのは、言わずもながの天然資源だ。
あの小さなルクセンブルクでさえ、2016年以降10社もの宇宙採掘企業が登録されている。それらは月や地球近傍の小惑星に照準を合わせる。
日本にはアイスペースというスタートアップがある。シリーズAの資金調達では、あのスペースXを超える100億円という宇宙開発分野における史上最高額を集めた期待の星で、2020年に月軌道、2021年に月面への着陸を計画している。
誰が一番乗りになるのかは神のみぞ知る、だ。はっきり言えるのは、凍てついた宇宙を熱くするほどに、今、宇宙開発競争が激しくヒートアップしているということだ。
References:oilprice/ written by hiroching / edited by parumo
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