都心直通が近づく相模鉄道では、相鉄グループが連携し、訪日外国人に「鉄道員(ぽっぽや)の業務」を体験してもらうことで、海外への認知度向上を図るべく、「インバウンドツアー 相模鉄道職業体験会」が2019年6月に2回開催された。第1弾は「駅係員体験会」である。

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JR東日本との相互直通運転による都心直通に、並々ならぬ気合が入る
 インバウンドとは、「インバウンドツーリズム」の略で、「外国人の訪日旅行」や「訪日旅行客」のこと。

インバウンドツアーのいきさつ

 相鉄ビルマネジメント営業統括部係長と横浜西口エリアマネジメントの事務局員を兼ねる前原洋平さんによると、グローバル教育機関EF Education Firstの日本法人(通称:EF)とコネクションができ、さらにNPO法人Connection of the Childrenの加藤功甫代表理事の尽力もあり、2018年からEF企画のインバウンドツアースケジュールに横浜が入ったという。

横浜駅周辺のインバウンドが都内に比べて、まだまだ弱く、“それをいかにして高めていこうか”ということで、去年(2018年)からツアーを実施しています」

 2018年は3、4、6、7月に実施し、横浜高島屋で着つけ、飲食店で焼き鳥を焼く体験をしたという。そして、2019年相模鉄道を舞台に、横浜駅で駅係員体験会、海老名市の厚木操車場で電車運転体験会を実施することになった。

feel “Big Station YOKOHAMA”

 駅係員体験会のテーマは「feel “Big Station YOKOHAMA”」。ねらいが2つあり、1つ目は駅係員の仕事体験を通じて「安全・正確・快適」な日本の鉄道がどのように運営されているのかを参加者が実感していただくこと。

 2つ目は相模鉄道のインバウンド向け施策を紹介し、「日本の鉄道は案内がわかりにくい」というイメージを少しでも払拭し、今後利用する際に役立てていただくことである。

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ツアー開始!!
 横浜高島屋玄関前で来日3日目のツアー参加者と合流し、相模鉄道横浜駅の駅長室へ。10時00分に第33代横浜駅長、臼井孝之管区長のあいさつから始まる。最初は英語を使い、途中から日本語へ。世界74言語に対応した通訳機「POCKETALK® W」(以下、ポケトーク)を使い、自動で英語に訳す。

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POCKETALK® W」を持つ手
 臼井管区長は、ポケトークの力を借りて、「私たち、横浜駅に所属する社員は74名です」「常時働いている社員は、25名となります。24時間の交代勤務です」「列車の安全、正確な運行管理」「駅施設の施設管理」などの言葉をポケトークで英訳した。

 一気にしゃべると、ポケトークが肉声についていけない恐れがあるのか、文章を“パーツ”ごとに分ける形で言葉を発した。臼井管区長のあいさつが終わると、各駅員の多くがポケトークを使わずにあいさつ。ときより参加者の笑いを誘い、和やかな雰囲気に。いよいよ職業体験に移る。

ツアー参加者による、発車合図体験

 参加者はA・B・C班に分かれ、メディアはA班に同行。合図体験は2・3番線の二俣川寄り9・10号車乗車口で行なわれる。帽子をかぶり、白手袋をはめ、駅員からレクチャーを受けたあと「乗降用ドアを閉じてもよい」「ドアよし」の合図を送る。無論、乗務員がシロートの指示に従うはずもなく、駅員が後ろに立ち、“公式”の合図を送る。

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乗降用ドア、ホームドアがまもなく閉まる
 10時30分発の特急海老名行きを例に挙げよう。発車時刻が近づき、駅員が安全確認後、赤い旗を振ると、乗降用ドアとホームドアが閉まる。参加者は旗を持っていないので片手を高々とあげる。

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安全の確認がとれ、まもなく発車
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流れる列車を目に焼きつける
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横浜を発車した特急海老名行き(報道公開終了後に撮影)
 すべてのドアが閉まったことを確認すると、駅員に続き参加者が片手をあげて合図を送り、列車は定刻通り発車。参加者は過ぎゆく列車を見つめていた。

通勤定期券の出札・案内体験

 相鉄線定期券うりばへ移動し、まずは出札体験。参加者がお客役と駅員役の両方を体験する。お客役が横浜―平沼橋間の磁気式通勤定期券1か月(実際に購入すると3680円)を申し込み、駅員役が機械を操作して発券するのだ。記入台と機械に駅員を配置し、参加者にレクチャーする。

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磁気式定期券の発行に興味津々の参加者
 参加者のほとんどは機械を熱心に見入っており、スマホでビシバシ撮影。あとから操作する人にとっては、“予習”にもなったかもしれない。定期券は、無効を表す穴を2つ開けたあとプレゼント。記念にもなるし、「相模鉄道」「横浜」などの漢字がいついつまでも脳裏に焼きつくだろうか。

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これからの鉄道は、ポケトークが必須アイテムになりそうだ
 次は案内体験。参加者が「お客」となり、「この近くにお寿司屋さんはありますか?」などを英訳したカンペを1つ選択し、窓口の駅員に尋ねるもの。駅員は質問の内容によってポケトークの力を借りた。研修の一環にもなる。

外国人が、駅構内の放送体験

 ラストは駅長室の隣で、注意喚起などの放送体験を行なう。参加者は駅長室でレクチャーを受けたあと、隣へ移動する。

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定型文の英語放送を体験。後ろの参加者は熱心に目を通す
「これより、海外の留学生による放送研修を実施いたします」。

 駅員が駅構内の乗客などにことわりを入れたあと、まずは日本語で放送。そのあと、参加者が英語で放送する。放送文例は下記の通り。

携帯電話スマートフォンゲーム機を使用しながらの“ながら歩き”はおやめください」(歩きスマホ防止)「電車のドアが閉まり始めてからの駆け込み乗車はおやめください」(駆け込み乗車防止)
「相鉄では駅の警戒を強化しています。銃や刃物など、危険物の持ち込みは禁止されております。そのようなものを見かけましたら、駅係員までお申し出ください」(テロ警戒)
「相鉄ではすべてのお客様に安心して電車を御利用いただくため、お手伝いを必要とされるお客様に積極的にお声かけする『声かけサポート運動』を実施しています」(声かけサポート

 参加者が英語で丁寧に放送したあと、駅員から「OK」、「ベリーグッド」と拍手でたたえた。

日本の鉄道の印象は?

 体験を終え、参加者1人に色々ときいてみた。日本の鉄道の印象はどうか。

アメリカの鉄道は、車両やシステムなどが古い。日本は駅が新しいし、車両も含め綺麗。時間通りに運行されていることもいい。物足りない点も特にない。日本の安全システム(保安装置やホームドアを指しているらしい)をアメリカに持ち込んでほしい」

 横浜のイメージも「やっぱり列車」だったという。職業体験終了後、参加者らは再び駅長室に集まり、臼井管区長がポケトークを使い、締めのごあいさつ

日本の鉄道は、安全で正確に運行されていることを理解していただいたと思います。また、訪日外国人へのお客様の御案内についても、まだ充分ではありませんが、係員の語学学習を行なって、スキルアップに努め、通訳機(ポケトーク)の導入を図って、サービスの向上に努めています。

 これからもリピーターとして、何回でも来日していただいて、日本の素晴らしい観光地をめぐっていただいて、日本の文化にふれていただきたいと思います」

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ホームで集合写真を撮影。昼食後、次の目的地へ移動した
【取材協力:相模鉄道、相鉄ビジネスサービス、相鉄ビルマネジメント、コネクション・オブ・ザ・チルドレン、横浜観光コンベンション・ビューロ、横浜西口エリアマネジメント(順不同)】

<取材・文・撮影/岸田法眼>

【岸田法眼】

レイルウェイライター。「Yahoo! セカンドライフ」の選抜サポーターに抜擢され、2007年ライターデビュー。以降、ムック『鉄道のテクノロジー』(三栄書房)『鉄道ファン』(交友社)や、ウェブサイトWEBRONZA」(朝日新聞社)などに執筆。また、好角家の側面を持つ。著書に『波瀾万丈の車両』(アルファベータブックス刊)がある

ホームで集合写真を撮影。昼食後、次の目的地へ移動した