違和感しかない。中日ドラゴンズの〝お前騒動〟である。

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 1日に中日の公式応援団が2014年シーズンからここまでチャンス時に流していた応援歌サウスポー」を自粛するとSNS上で発表。ピンクレディーのヒット曲「サウスポー」の替え歌で「お前が打たなきゃ誰が打つ」の歌詞の中に「お前」があることを与田剛監督が問題視し、球団を通じて変更を要請したことが発端となった。

ワイドショーまで取り上げる騒動に

「『お前』という言葉を子どもたちが歌うのは、教育上良くないのではないか」というのが、そもそもの与田監督の持論。これを指揮官自らが事実上の強権発動により、せっかく竜党の間に浸透していたお馴染みの〝チャンステーマ〟を封印させてしまったことで大きな騒動へと発展した。

 案の定、ネットは大炎上である。そのほとんどが与田監督に対するバッシングだ。しかもスポーツニュースだけでなく、テレビのワイドショーでも取り上げられ〝お前騒動〟は沈静化する兆しが見られない。

 さらにマズかったのは与田監督の苦しい弁明だ。

 2日に東京ドームで行われた巨人戦の試合前にはメディアの前で困惑の表情を浮かべながら、「僕は単純に『お前』という表現よりは名前の方にしてもらえませんかというのが事の発端なので。シンプルにそこだけです。他球団でも野球界の現場の人間は『お前』より名前がいいと思っている人が多い。応援を自粛してくれとか、やめてほしいとも言っていない。応援団の方々をリスペクトしているし、否定しているわけではない」などと〝逃げ口上〟に終始し、騒動の火消しを図った。しかし、それも完全に裏目に出てしまったようである。

 この弁明にもツッコミどころはとにかく満載。特に「他球団でも野球界の現場の人間は『お前』より名前がいいと思っている人が多い」との発言には球界内からも数多くの異論が噴出している。セ・リーグの某球団関係者も次のように言い切った。

「監督という立場にある人が応援歌にクレームをつけたケースなんて過去に聞いたことがない。ファンの人たちが一生懸命になって応援してくれていることを考えれば、歌詞がどうこうなんて思うはずはなく感謝の念しか浮かばないはず。

 しかも『お前』というフレーズだってファンが誹謗中傷まがいの罵声を浴びせるために歌っているわけではなく、リスペクトの姿勢から用いられているのは誰だって理解できますよ。

 中日以外の球団でも応援歌に『お前』は数多く使われているが、名前のほうがいいと大真面目に思っている選手なんてまずいない。もう明らかに今回の一件は、与田監督の暴走だったと思う」

応援歌にイチャモンつけている場合か

 与田監督のミスとして1つはシーズン真っ只中に、自分のエゴを貫いてしまったことが挙げられる。百歩譲ってシーズンオフならば、まだ少しは救われたかもしれない。

 しかしながら3日現在の中日は借金8の5位と低迷中であり、現場を預かる指揮官ならば自軍の浮上策に腐心していなければならないはずだろう。Bクラスに沈む惨たんたる状況下でスタンドにいる応援団応援歌の歌詞にイチャモンをつけているヒマがあるのであれば、もっとチームを強くする手段に関して考えるべきである。

 繰り返すようだが、現在の中日はとにかく弱い。交流戦終盤からリーグ再開直後までチームは5連勝を飾ったが、冷静に振り返ってみれば、その6月は10勝12敗と結局のところ負け越している。一刻も早い再建が望まれているにもかかわらず指揮官の視点はどちらかというとチーム内でなく、応援歌に目を向けられている――とあっては選手たちの士気もガクッとダウンしてしまいそうな気配だ。まったくもって情けない限りである。

 そして今回の〝お前騒動〟でふと考えさせられたのは、中日球団の対応のマズさだ。

 与田監督から「お前」の自粛を求める提案があった際、どうして球団側はそれをスンナリと受け入れて応援団側にアプローチしてしまったのか。別に監督の意見が絶対ではない。今の世の中でどのような動きをすれば歓迎され、あるいは逆に反発を招いてハレーションが起きてしまうのか。そういうアンテナを張れず球団はしっかりと把握出来ていないから与田監督の提案にそのまま乗っかってしまい、今回のような騒動が起こってしまったのだろう。要するにまるでビジョンがないのだ。球団として描いている明確なコンセプトがあれば、与田監督の提案に「NO」と言えただろうし、戒めることも出来たはずである。

ペナントレースの結果で名誉挽回を

 中日の球団関係者は「そう指摘されても確かに仕方がない」と苦笑いを浮かべると、白井文吾オーナーの言動について注目すべきことを打ち明けた。

「3日のオーナー会議後、中日の白井オーナーは報道陣から〝お前騒動〟について問われ『(与田)監督はそう思うでしょう。普通の言葉を使わなくちゃな』などと発言して、各メディアの報道でも白井オーナーが与田監督を擁護するかのような流れで報じられている。

 だが、実を言うと白井オーナーは『〝お前〟っていうのは選手について言っているんだから。世の中、一般、そういう風潮があるんだから、そこだけ〝けしからん〟と言ったって誰も納得せんわな』とも発言しているそうだ。球団の最高権力者という立場上、白井オーナーは与田監督を突き放すことはせず表向きでは一定の理解を示すような姿勢を努めて見せようとしたものの、本音としては〝そんなことにいちいち噛み付かず、きちんと空気を読んでもっとチームのことを考えろ〟と思っているのではないか。

 指摘されたようにウチの球団は全体的にいまひとつビジョンが見えにくくコンセプトも不透明だが、白井オーナーはやはり別格。何だかんだと言っても、きちんと物事を見られている。そういう意味でも、やはり与田監督は今回の一件で大きくポイントを下げてしまったと言わざるを得ない」

 自らの失言と暴走により、悪い意味において渦中の人となってしまった与田監督。名誉挽回を果たすためには、間もなく折り返しを迎える残りのペナントレースで、今度こそ野球に集中し、上位浮上を狙うしかない。

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