(舛添 要一:国際政治学者)

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 7月4日参議院選挙が公示され、21日の投票に向かって選挙戦が始まった。

 メディアでは、毎日のように党首間で討論が行われているが、テレビでのイメージは集票活動に大きな影響を与える。私も経験があるが、わずかの失言も許されない真剣勝負である。

過去の言動を批判され支持率下げたバイデン前副大統領

 最近行われたアメリカの民主党大統領候補によるテレビ討論で、本命のバイデン前副大統領は、過去の人種差別的言動が新人の女性のハリス候補の攻撃対象となり、大きくイメージを傷つけられた。CNNの支持率調査によれば、民主党支持者の間で、バイデン候補は22(-10)%と支持率を下げ、逆にハリス候補は17(+9)%と上昇で、対照的な結果となっている。

重み増すテレビ討論だがポピュリズムの要因にも

 イギリスでも保守党の党首選が行われているが、やはりテレビ討論がその行方を大きく左右している。いま行われている決選投票では、行儀の悪い変わり者であることで有名な本命候補のボリス・ジョンソン前外相と穏健派のハント外相との一騎打ちとなっているが、そこに至る過程で候補者たちの過去の不祥事が問題となってきた。

 政策のみならず、過去の履歴など候補者の人物を白日の下にさらけ出すテレビ討論が代表者の選択に大きな意味を持つのは、世界中の先進民主主義国で共通であり、そしてまたポピュリズムの一つの原因となっている。

 参議院選挙は、大統領候補指名選挙や党首選挙とは異なり、各党党首の人気投票ではないが、党首のパフォーマンスも重要であり、失言などで選挙戦の流れが大きく変わることがある。最近では、テレビなどのマスメディアのみならず、SNSもまた重みを増している。日本ではまだ、韓国、香港、台湾ほどにはSNSの政治動員力は大きくないが、じわじわと拡大しているようである。その好例が、山本太郎が旗揚げした「れいわ新撰組」で、ネットなどで呼びかけて2億円を超える寄付を集めている。

 各種世論調査では、若者の自民党支持が高い傾向にある。何が原因なのかは細かく分析してみる必要があるが、安定志向、保守化志向が強くなっているようだ。それには、バブル崩壊後、約30年にわたって続くデフレも影響している。

 10代、20代の若者は、デフレしか経験したことがなく、物価も変動がない。高度経済成長のときのように、給料も物価も上昇し躍動する社会とは無縁の人生を送ってきている。心理的にも、躍動とは対極の沈滞がムードとなってしまうが、それが安定志向につながっているのであろう。

 また、安倍首相は、若者に人気のある芸能人と共演したり、対談したりして、それをインスタグラムで発信する。若者は自分がファンである芸能人の情報をつねに得ているので、インスタなどのSNSの発信力は馬鹿にできない。タレントと安倍首相のツーショットの写真や動画を使う自民党が、上手にSNS を活用していることが分かる。これも若者の自民党支持を高めている要因かもしれない。野党は自民党ほどSNSを利用していない。

 政策については、安倍政権の政策が必ずしも順調に展開していないことを指摘しておきたい。

 典型は外交である。

北方領土、拉致問題で全く進展がない安倍外交

 参議院選までには、ロシアプーチン大統領との間で、いわゆる「二島返還論」で平和条約・北方領土問題を解決する予定であった。しかし、ロシア側の事情もあって、全く先の見通しが立たなくなっている。

 拉致問題も同様である。6月30日、三度目の米朝首脳会談が、急遽、板門店で開かれたが、日朝首脳会談については全く進展がない。これでは、拉致問題の解決は覚束ない。

 G20首脳会議はテレビの外交ショーとしては意味があったが、イラン情勢については議論すらしなかった。6月13日安倍首相テヘラン訪問中に、日本などのタンカー2隻が攻撃されたが、安倍外交がイラン情勢を緊張緩和に向かわせてはいない。

 G20は、保護貿易や地球温暖化問題については、トランプの我が儘を制止することができなかった。しかも、議長国として自由で公正な貿易をうたった日本が、その舌の根も乾かぬうちに、韓国に対して、元「徴用工」訴訟問題で、半導体製造などに不可欠な先端素材の輸出規制措置を発動している。G20では、日韓首脳会談も開かれず、両国関係は最悪の状態になりつつある。

 韓国への輸出規制措置については、日本政府は徴用工問題の報復措置ではないと説明したが、実際は問題解決に向けて動こうとしない韓国への報復である。政治・外交問題の解決のために、通商分野で規制することはふさわしくない。移民政策でメキシコに関税上乗せを示唆したトランプと五十歩百歩である。世界も、この安倍首相のトランプ流には驚いているが、ブーメラン効果で日本企業も損害を受ける。どのように収束するつもりなのか。

 参院選を前にして、安倍政権は、対外強硬の姿勢を見せると票が集まると考え、今回の措置をとったものと思われる。4日から、実際に規制措置が発動されているが、出口は全く見えていない。

 以上のように、安倍政権は外交成果をカードに使うことができない。その関連で、憲法改正も有権者の関心を引かない。なにより、改正をしなくても、航空母艦を保持することも、海外に自衛隊を派遣することも可能になっている。自衛隊を憲法に明記しなければ、外交を展開できない状況ではなくなっているのである。

世論調査を見る限り「政権交代」は・・・

 国民の関心は内政、つまり経済と社会保障である。年金では老後2000万円が不足するという問題が浮上したが、そのことは国民が既に知っていることであり、12年前に自民党を惨敗させた年金記録問題とは違う。しかし、老後の生活不安を再認識させたことは、政権与党には不利になっている。

 景気については米中貿易摩擦の影響で、世界経済全体が縮小しており、日本経済にも悪影響を及ぼしている。そのような中で、消費税増税を予定通りに実行した場合には景気が悪化する危険性がある。この点は、与野党で対立する争点であるが、野党には社会保障財源をどこに求めるかを明示することが求められている。

 直近の世論調査、①NHK世論調査(6月28〜30日)、②日経新聞世論調査(28~30日)、③読売新聞NNN世論調査(29~30日調査)によれば、安倍内閣支持率は、①45(+3)%、②56(+1) %、③53(−2)%、不支持率は、①31(−3)%、②36(±0)%、③36(+4)%である。また、参院選比例投票先は、②自民44%、立憲14%、公明6%、維新6%、共産4%、社民2%、国民1%。未定18%、③自民40%、立憲10%、維新6%、公明5%、共産4%、国民2%、社民2%、未定23%である。

 これらの調査結果を見ると、政権交代が起こることは予測しがたい。それが、参院選が盛り上がらない理由かもしれない。

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