地震に台風、集中豪雨、火山噴火、豪雪……。日本では毎年、各地で自然災害が多発しています。誰も無縁ではないのですが、防災の知識や避難時の行動を学ぶ機会は限られています。でも、最近では防災を遊びながら楽しく学べる「防災ゲーム」が増えているというではありませんか。専門家にオススメを聞くとともに、実際に子どもと一緒にチャレンジしてみました。
災害の教訓、防災の知見が「防災ゲーム」に反映されている

今回、防災ゲームについて教わったのは、災害支援・防災教育コーディネーター、社会福祉士である宮崎賢哉さん。一般社団法人防災教育普及協会で教育事業部長を務めるほか、東京都六本木高校で「防災学」の講師をするなど、防災と教育に関するスペシャリストです。

防災ゲームについて分かりやすく教えてくれた宮崎さん。「防災ゲーム」の使い方、選び方についてもレクチャーしてくれました(写真撮影/片山貴博)

「僕が知る限りでも、日本には50種類以上の防災ゲームや教材があります。制作しているのは、国交省気象庁などの官公庁、地方自治体NPO法人、大学や研究機関、民間企業、学生団体などさまざま。販売されているものもあれば、ダウンロードして無償で利用できるものもありますが、それぞれの防災ゲームに制作者の防災に対する強い思いや願いが込められているのは、共通しています」と解説します。

宮崎さんによると、防災ゲームが広く知られるきっかけとなったのは、1995年阪神・淡路大震災。被災した自治体の職員に対する調査をもとに、災害時に発生した状況判断を疑似体験できるゲームがつくられました。さらに東日本大震災以降、防災に関わる人が増えたことで、防災ゲームや教材の種類も増えていき、近年では風水害が多発していることを受け、水害や土砂災害について学べるゲームも増えているそう。

「今の大人世代は、防災教育といっても地震や火災を想定した避難訓練をする程度でした。ただ、大きな災害が発生するとその度に、さまざまな教訓、知見が積み重なっていき、今ではそれらの『命を守るための行動』や『平時の備えのポイント』が共有され、防災ゲームや教材で気軽に学べるようになっています」(宮崎さん)

日本は歴史的に繰り返し大きな災害に見舞われ、多くの人命が失われてきました。その教訓から学び、知見の結集を私たちにとって身近なものにしたのが「防災ゲーム」といえます。

防災カードゲームクロスロード」では、「わが家に3日間分の保存食と水の準備があります。しかし、避難所では多くの家族が保存食や水を持っていません。あなたはその保存食をみんなに分け与えますか?」といった設問が続き、答えに悩んでしまう(写真撮影/片山貴博)

幼児にも分かりやすい「ぼうさいダック」や「このつぎなにがおきるかな?」を体験

今回は、映画『シン・ゴジラ』にもオペレーションルームとして登場した東京臨海広域防災公園の「そなエリア東京」を訪問。ここでは複数の防災ゲームが展示されているだけでなく、実際に体験もできます。

そなエリア東京の防災ゲームの体験コーナー。ぜひ時間に余裕をもって来て、ゲームも体験してほしいです(写真撮影/片山貴博)

あまたある防災ゲームのなかで、まず宮崎さんがオススメしてくれたのが「ぼうさいダック」。“災害が起きたとき”と”命を守るためにとるべき行動”がワンセットカードの表裏にイラストで描かれています。

例えば、「地震が起きたときはどうする?」と聞かれたら、プレーヤーはしゃがんで、頭を守る動作をします。その後はかわいいアヒルイラストを見ながら、「そうだね、まずは頭を守ろう」と答え合わせをしていきます。幼い子どもでも理解できる内容なので、導入の「防災ゲーム」としてとりかかりやすいのが魅力です。ちなみに、わが家の小学1年生と1歳の子どもにもこの「ぼうさいダック」は好評でした。「災害が起きたシーン」と「命を守る動作」がワンセットシンプルなので、分かりやすいのがよいのでしょう。

大きなカードトランプ大の2種類あり、イベントの人数や目的に応じて使い分けられるようになっています(写真撮影/片山貴博)

これは地震が起きたときに頭を守る、という行動の例です。カードは自然災害だけでなく盗難時、不審者に声をかけられたときなどの対応もあり、日常の危険からも身を守る方法を学べます(写真撮影/片山貴博)

次にオススメしていただいたのが、国土交通省が公開している防災教育教材「このつぎなにがおきるかな?」です。対象年齢は小学校からで「すいがい編(29枚)」と「つなみ編(29枚)」がありましたが、今年から「どしゃさいがい編(29枚)」が加わりました。

このゲームは、例えばすいがい編では「大雨がふると」「自分の家が洪水に」「巻き込まれてしまうよ」「そうならないために、調べておこう」という流れが1セットになって、描かれています。これを時系列として正しく並べ替える、かるたのように札をとるなど、遊び方をアレンジして、繰り返し遊べます。

「津波や水害、土砂災害といった災害は、大雨が降る~小石が落ちて来る~がけ崩れといった、おおよその”順番”があり、時系列で被害が発生します。このゲームで教材の名前どおり”このつぎなにがおきるかな”を学ぶことで、被害を予想し、適切な安全行動がとれるようになります」(宮崎さん)

取材当日はバラバラにしたカードを災害の前触れの順番に並べかえて遊んだが、かるたのように札を取る遊びや、ババ抜きのような遊び方もできる(写真撮影/片山貴博)

「このつぎなにがおきるかな?」は名刺サイズはがきサイズなどでダウンロード可能。家庭や学校でも利用しやすい(写真撮影/片山貴博)

土砂災害前に小石が落ちてくることや、避難先も水につかって食料が尽きてしまうことがあるなど、大人でも知らないことがたくさんあり、「えっ、そうなの? どうしよう……」の連続でした。大人はゲームとして楽しんだあと、「対策を考えなきゃ」と真剣になって考えこんでしまいます。ただ、わが家の小学1年生には、言葉や時系列の理解が難しいようでした。小学校低学年くらいの子どもには、大人も一緒に学びながらフォローすることが必要かなと感じました。

子どもから「買って!」と言われるほど好評な「なまずの学校」

最後にオススメいただいたのが、「なまずの学校」というカードゲームです。紙芝居形式でお題が出されるので、手持ちのカードで対策を考え、答えが当たったら報酬として通貨の「ナマーズ」がもらえるというもの。

例えば「血を出している人がいます。傷口を押さえるのに使えそうなものを出してください」といったお題では、筆者は身近にある「ネクタイ」で止血ができると思い、カードを出しました。身近に手に入りやすいという点で正解ではありましたが、衛生面で気をつけなければいけないということで、60ナマーズでした。ガーゼやほうたい、三角巾カードを出しても正解ですが、災害時には不足すると考えられるため、それぞれ70ナマーズ。最も高得点なのは携帯しやすく使い勝手のよい大判のハンカチで90ナマーズ、となっています。答えはひとつだけでなく、より汎用性があるもの、身近に活用できるものが高得点になります。

お題に対して、配られたカードで対応策を考え、当てるという「なまずの学校」(写真撮影/片山貴博)

答えはひとつだけでなく、複数あり、「こんなものが活用できるんだ!」という驚きと発見があります(写真撮影/片山貴博)

大人でも自分の推理が当たって正解し、報酬の通貨がもらえるとうれしいもの。お題の全18問のなかには、他の人の持つカードを活用して困難に立ち向かう「協力問題」があり、人と力を合わせて災害を生き延びる方法を考えられます。

また、大人でも子どもでも、また個人でもグループでも遊べるので、学校だけでなく、町内会・マンション管理組合などでも活用できると思いました。シンプルに、ゲームとして楽しいだけでなく、対応策に使うアイテムについて、カードには「災害救助セットに入っているよ」「コンビニにあるよ」「ホームセンターにあるよ」といった、日常生活でも役立つ情報が書かれているので、自然と知識が深まります。

なまずの学校を楽しんだあとに、備蓄していた乾パンとパンを試食。「震災が起きたら3日間、乾パンで過ごすの? 無理ー!」と驚いていました(写真撮影/嘉屋恭子)

こちらもわが家で子どもと「なまずの学校」にチャレンジしたところ大好評で、「これ、買ってほしい」とねだられるほどでした。また、偶然にも新潟~山形で地震が発生したこともあり、ニュースと関連づけて体験できたため、「大判ハンカチ・ガムテープが役立つな」などと実感していたよう。あわせて、備蓄していた缶詰めの「乾パン」「パンの缶詰」も試食。ゲームをきっかけに親子での会話が盛り上がりました。

防災の知識は単に覚えるもの、知るだけものではなく、自分で考える、体を動かすなどのアクションがあると、より深く記憶されるように思います。また、頭を隠すにしても「どうして」などの理由が分かると、忘れにくくなります。今回の防災ゲームはいずれも知識と行動がともなっていて、記憶に残りやすく感じました。防災というとどうしても、きちんと備えなければという義務感から身構えてしまいますが、「まずは楽しんでみよう」という気軽さで親子や友人とぜひ一度、チャレンジしてほしいなと思います。

●取材協力
一般社団法人防災教育普及協会
東京臨海広域防災公園
国土交通省「防災教育ポータル」
(嘉屋 恭子)
(写真撮影/片山貴博)