「世界水泳カウントダウン連載」競泳開幕まであと14日―テレ朝Dが語る、中国・孫楊、“鉄の女”ホッスー

 五輪を超える規模で2年に1度行われる水泳の“世界一決定戦”、世界水泳(テレビ朝日系で独占中継)が12日に開幕する。なかでも、注目を集めるのは競泳だ。金メダルを獲得すれば、1年後の東京五輪出場が内定する今大会。「THE ANSWER」は競泳開幕の30日前からカウントダウン連載を行い、出場25選手のインタビューに加え、特別企画を織り交ぜながら大会を盛り上げる。

 週末は特別企画をお送りし、前週の寺川綾さんに続き、今週は競泳担当歴14年のテレビ朝日・菊岡大輔氏、同10年の坂井由里子氏の両ディレクターが日本のライバルを前後編で紹介。開幕まであと14日、第17回となる後編は、2人が取材した中国14億人の英雄・孫楊(ソン・ヨウ)、大橋悠依(イトマン東進)に立ちはだかる“鉄の女”ことカティンカ・ホッスー(ハンガリー)の強さの秘密を紐解く。

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――中国の孫楊は2016年リオ五輪男子200メートル自由形など、五輪、世界水泳で合計12個の金メダルを獲得。身長198センチリーチ212センチサイズは規格外。泳ぎの特徴は?

坂井「『2段ロケット』という例えをされるのですが、400メートルの場合、300メートルを超えた辺りから急にキックが入り出す。そこまでキックをあまり打ってないんですけど、ラスト50メートルになると急にストローク数が増えて、本当に後半型です。あそこまで極端な選手はいない。

 やっぱりストロークが強い。取材に行った日もウェートトレーニングをやっていて、確かに足がすごく細いのですが、腕は意外と筋肉がしっかりしていた。その日は上半身のウェートばかりしていて。片腕で棒を繰り返し軽々と挙げていて、よく見たら26キロだった。26キロは小学2年生くらい。細身に見えてやっぱり上半身はしっかりしている。

 中長距離でずっと世界のトップでやってきた選手。今のところ世界水泳は200、400、800、1500メートルまで本人は出場するつもりですが、コンディションを見て決めるようです。絶対に活躍する選手なので(中国まで)取材に行って間違いない選手でした」

――どんなキャラクター

坂井「非常にいい人というのが第一印象。今回、中国の水泳連盟と孫楊ご両親の協力のもと、日本メディアとしては初めて取材を受け入れてもらった。初めに挨拶をしたら『ありがとうございます』と日本語で返してくれました。ただ、中国のコーチには取材があると伝わっていなかったみたいで『なんで日本のメディアがいるんだ? プールに入って来ないでくれ』と言われました。でも、孫楊が『僕が話しておくから気にしなくていいよ。こっちで好きに撮って』と気遣ってくれた。日本人選手とも仲がいいようです。

 長い間、活躍していて、食事面にもすごく気を遣っている。その日の昼食も豆などを食べていて、お肉は控えるようにしていた。一番、ビックリしたのが27歳でお酒を一回も飲んだことないということ。お母さんが全部面倒を見ていて、マネジメントなどメディアの管理から、合宿も全て帯同している。真面目で水泳に懸けている印象でした。歌番組にも出ていて、本人もスイマーになれなかったら歌手になりたかったというくらい。お父さんが歌が好きで、テレサ・テンを昔から聞いていたと。女子のファンもすごく多い」

――父親が元バスケ選手で身長188センチ、母親が元バレーボール選手で173センチ

坂井「本人の身長は5歳で128センチだったそうです。平均身長を調べたら110センチくらいだった。地元の体育学校のスカウトが幼稚園にいい子いないか探しに行くと、『この奥でベッドから飛び出している子いるよ』と言われたそうです。それで水泳を始めたけど、やっぱり学校の勉強も大変で一度辞めたそうです。でも、コーチが両親のところに毎日通って『この子は絶対に水泳ですごい選手になるから』と連れてきたらしい。

 世界水泳では、もちろん金メダルを目指している。年齢も年齢なので、(選手としての)ゴールなども聞いてみましたが、『今はそういうことは考えない。もちろん東京五輪を目指しているし、今は自分が持っている世界記録を少しでも長く守り続けることが目標だ』と話していましたね」

テレ朝Dも圧巻の鋼の肉体「完全オフという概念がない」

――ホッスーはリオ五輪女子200メートル個人メドレー、400メートル個人メドレー100メートル背泳ぎで金メダル。今回の世界水泳では、女子400メートル個人メドレーで大橋のライバルとなる。

菊岡「これまで『ビートたけしスポーツ大将』などにも出演していただき、キッズスイマーと対決してもらったこともあったのですが、練習の取材は今年の5月が初めて。04年アテネ五輪から15歳で出場し、キャリアも長い。30歳で400メートル個人メドレーなど、これだけの種目でこれだけのタイムで泳いでいることはすごく驚異的。しかも、彼女の場合、連戦をものともしない。『鉄の女』と言われてますが、なんでそんなに強いんだろうと。先日(5月13日)の取材で気づかされました。

 まず驚いたのが、取材前日にホッスーの母国・ハンガリーで開催されたFINAチャンピオンズ・スイムシリーズという世界で上位4人しか出られない賞金レースがあり、そこで3種目をフルで泳いだ状態だったのですが、翌日朝7時過ぎにはプールに来ていた。日本の感覚で言えば、試合翌日は一日オフなんですよ。去年は五輪の中間年だったので、旅行などに行ったみたいですが、今は彼女の中で一日完全オフという概念がないらしい。そんな選手いるんだというのが、驚きでした。

 その時は陸トレがメインだったんですけど、大会翌日に朝からハードサーキットトレーニングをやっていた。タンクトップのような格好で、初めてまざまざと彼女の肉体を見ました。とにかく胸板が非常に厚い。お尻も大きくどっしりしていて、太ももなどもすごく太い。だけど、足先にかけて陸上選手のように細くなっている。負荷のかけ方もすごくて、重い器具も軽々と持ち上げる。その迫力に圧倒されました。

――今まで大きなケガは。

菊岡「聞いたことはないですね。普通の発想だとここまで筋肉をつけてしまうと、沈んでしまいそうですが、そこを凌駕するくらいパワーで押し切る。レース展開も、普通の人は最後にバテてしまうんですけど、そこをパワーテンポで押し切ってしまう。技術的に優れている部分もあると思いますが、最後まで体力が持続して水をかき続けられるところがすごい

 本人も話してましたが、『筋肉をつけすぎてあまり400メートル個人メドレーに向かないんじゃないかって昔は言われたこともあるけど、私にとっては400メートル個人メドレーは自分のために用意された種目だ』と。本人にとってはこだわりのある種目。いろんな種目で強い選手ですけどね。

 あとは食事面でも驚きました。ハードな練習の後でも大きなサラダボウルのみとか。ステーキなどは好きでよく食べるらしいのですが、炭水化物は一切食べないと言ってました。あれだけハードな練習をしていて、よく持つなと。そういう面も徹底してやっている。以前来日した時、いきなりステーキに連れて行ったんですよ。ステーキ好きというので。そしたら気に入って、今も来日すれば一人でふらっと食べに行くそうです」

「柔」の大橋か、「剛」のホッスーか、東京五輪メダル争いの行方

――大橋が上回るには。

菊岡「元々、大橋選手はどちらかというと水の抵抗の少ない、優しい泳ぎ、省エネで上手く400メートル個人メドレーを泳ぎ切るタイプでした。かなり線の細い選手だったけど、ここ2年くらいかけて全体的にパワーアップしてきましたね。ホッスーも意識する存在になってきています。意外と大橋選手のことを聞くと嫌がるというか、日本のメディアライバルのことを聞くとね……。

 ホッスーはバタフライと背泳ぎも単独種目でメダルを獲れるレベル。自由形もそうですけど、平泳ぎも遅くはないし、ほぼ穴がない状態です。

 一方、大橋選手は元々平泳ぎが苦手だったんですが、この1年でバイクトレーニングなどを取り入れたことで脚のかかりが良くなり、かなり速くなりました。個人メドレーで最初に泳ぐバタフライに関しても、バタフライ単体のレースに積極的に出場してきたことで、かなり強化されました。ホッスー相手に先行できる力は十分あります。

 大橋選手は、いかに前半から攻めたレースをして、300メートルを先行した状態でターンできるか。大橋選手も話していましたが、300メートルくらいまで並んでいても最後は力で押し切られてしまうと。おそらく、直前の高地トレーニングでそこを徹底的に磨いてきていると思う。最後に自由形でどれだけ粘れるかが大事になりそうです。

――泳ぎのスタイルは大橋が「柔」、ホッスーが「剛」というイメージ

菊岡「まさにそういう感じです。対照的。見る人も面白いと思います。背泳ぎのテンポ、腕の回すスピードなど全く違う。今年の元旦、大橋選手は初詣の際に『東京五輪の前に今年1回はホッスーに勝っておきたい』と言っていた。でも、ホッスーもそこは絶対勝たせないんですよ。どんなに小さな大会でも、必ず最後に勝つんです。

 そこは駆け引きなのかなという気がします。去年のW杯も、300メートルで大橋選手が少し前に出た。でも、最後はどうしても押し切られてしまう。ホッスー自身は35歳くらいまではトップでやっていきたいということは言っていました。東京五輪で終わりかなって勝手に予想していましたけど、そういう感じではないみたいですね」

――今大会の意味合いは。

坂井「以前、松田丈志さんと入江陵介選手が話していましたが、五輪前年は世界のレベルが上がり、急に新しい選手が出てきたりもする。世界ランキングはそのまま五輪につながり、それを五輪の年に大きく覆すのは非常に大変。それくらい五輪の前の年というのは重要だと話していました」

菊岡「今大会でメダルを獲るかどうかが、東京五輪メダルに近づく大きな指針になりますね」

(明日8日は選手インタビュー再開、松元克央が登場)

 ◆世界水泳、テレビ朝日系で連日中継 21日に開幕する競泳は、決勝をテレビ朝日系地上波AbemaTVで最終日まで8夜連続放送。予選はBS朝日AbemaTVで放送する。(THE ANSWER編集部)

代表チームのキャプテンを務める大橋悠依【写真:Getty Images】