Point
■現在、アメリカで凶悪犯罪を扱ったポッドキャスト「Obscura: A True Crime Podcast」が人気を博している
■「Obscura」以外でも犯罪を扱ったポッドキャストが流行しており、リスナーの大半を女性が占めるという
危険な香りに誘われてしまうのは人間の性か。
現在アメリカでは、「Obscura: A True Crime Podcast」というネットラジオが大変な人気を博している。
メインに扱っているのは、実際に起きた殺人や事故、失踪などの仄暗い凶悪事件だ。この流行の背景には何があるのだろうか。
犯罪を扱ったポッドキャストが米で流行
今年5月末だけでも、4万5千ダウンロードを記録している「Obscura」。これにはポッドキャストのホスト・制作を務めるジャスティン・ドローン氏(30)も驚きを隠せないようだ。
ドローン氏は1年前、医療学校を中退し、夜警のアルバイトをして日銭を稼いでいたが、今では月に50〜60万円の収益が出ているという。ファンからのメッセージもひっきりなしに届き、メールボックスがパンク寸前なのだそうだ。
ドローン氏が犯罪を扱うポッドキャストを始めたきっかけは夜警時代だ。
深夜の夜警は何も起こることがなく暇を持て余していたため、時間つぶしに殺人事件などを扱うポッドキャストを聴き、楽しんでいたという。そのときの経験が今につながっているそうだ。
実は現在、ドローン氏以外にも犯罪事件を扱うポッドキャストが増加しており、人気が高いジャンルとなっている。その証拠に今週のアメリカAppleポッドキャスト・トップ20の内、実に12が犯罪事件を扱うものだったのだ。
リスナーは女性が8割を占める
なぜ人はこれほどまで犯罪に惹かれてしまうのか。しかも視聴者の多くは女性が占めており、「Obscura」も80%が女性リスナーだという。
理由はいくつか考えられるが、一つは女性が犯罪事件の被害者となりやすいということだ。女性リスナーは、自分にも実際に起こる可能性のある体験を聞かずにはいられない…といった心理なのかもしれない。
また男性リスナーでも、恐怖体験を聞くことでアドレナリンが出て病みつきになったり、あるいは倫理・道徳に反する事件を聞いてストレスを発散したいという欲求が原因とも考えられる。
殺人鬼をアンチヒーローとして描かない
しかし一方で、こうした凶悪事件を扱う番組にはつきものの根本的な問題がある。それは「実際に誰かに降りかかった不幸な出来事をエンターテインメントとして一般に届けて良いのか」ということだ。
この問題についてドローン氏は「番組を作る際に一つの倫理的な決まりを自分で設けている」と話す。それは殺人鬼たちがエンターテインメントとして人気を持たないように報じるということだ。
これまでの歴史の中では、残念ながら冷酷な殺人鬼たちが社会のアンチヒーローとしてもてはやされてきた実例が存在する。例えば、ジャック・ザ・リッパーやチャールズ・マンソン、テッド・バンディなどがその代表例だ。彼らは映画や小説、ゲームの中で間違ったカルト的人気を持ってしまった。
ドローン氏は「彼らが犯した罪の詳細を知らずに大まかな報道イメージだけで捉えてしまうことが問題なのだ」と指摘する。
そのため「Obscura」では、殺人鬼たちがアンチヒーローとして受け入れられないように注意して制作を行っている。
例えば殺人鬼の巧妙な手口を事細かに描写しないこと、それから犯罪者に畏敬の念を抱かせないような語りをすることが重要視されているようだ。
殺人鬼を扱ったほとんどの小説・映像作品ではこの点を犯してしまっている。例えば、『羊たちの沈黙』のハンニバル・レクター博士などもその一つだろう。
こうしたこだわりによって、女性リスナーでも嫌悪感を抱かずに聴けるのだろう。間違いなく「Obsucura」の人気を支える骨子の一つだ。
ポッドキャストのエピソード一覧は、以下のリンクから視聴することができる(英語音声)。
投稿 アメリカで流行中の「凶悪犯罪ポッドキャスト」とは は ナゾロジー に最初に表示されました。
コメント