(花園 祐:ジャーナリスト)
オリンピックや消費税増税を控え、マンション市場がバブル期にも迫るような活況ぶりを呈しています。しかし、アパート・マンションの施工不良トラブルは相変わらず後を絶ちません。2005年には構造計算書偽造事件(いわゆる「姉歯事件」)が大きなニュースとなりましたが、最近もレオパレスや大和ハウス工業などの不適切施工が世の中を騒がせています。
今年(2019年)4月12日には、滋賀県大津市内にある欠陥マンションの瑕疵責任を巡る裁判で、建設会社に建物の解体再築費用の支払いを命じる第二審判決が下りました。同裁判は係争開始から既に約10年もの月日が流れています。しかし、この間、オーナーらへの補償はずっとなおざりにされてきました。日本では、欠陥住宅を巡る補償は消費者側が一方的に不利な立場に置かれているのが実状です。
そこで今回は、大津の欠陥マンション事例をモデルケースとして、欠陥住宅の消費者保護に関する現状と問題点を明らかにしたいと思います。
10年にも及んだ係争
件の欠陥マンションとは、滋賀県大津市内のマンション「大津京ステーションプレイス」のことです。これまでにさまざまなメディアに報じられていますので、係争内容をご存じの方も多くいるのではないかと思います。
時系列で追うと、同係争は、施主・売主であるデベロッパーの大覚(本社:滋賀県大津市)と、施工を請け負ったゼネコンの南海辰村建設(本社:大阪市)の間で2008年に施工契約が結ばれたことに端を発します。
翌2009年、南海辰村側は施工を完了したとして大覚へ工事代金の請求を行いました。しかし、施主検査時に施工不良が多々見つかったことから大覚側は支払いを保留し、手直し工事を要求しました。それに対して南海辰村側は、瑕疵は存在しないと主張して手直し工事を行わず、改めて支払いを請求し、2010年に工事代金を巡って大覚を提訴したのです。
2013年の第一審判決では南海辰村側の主張が受け入れられ、大覚に未払いの工事代金の支払いが命じられました。なお、第一審においては、大覚側が雇った弁護士が3年間の裁判中、主張や反論を一切しないといった不可解な弁護活動が見られたそうです。
地下駐車場がプールに?
では、大津京ステーションプレイスの施工不良とはどのようなものなのか。詳しく見ていくと、これが瑕疵でなければ何が瑕疵なのかと思うほど想像を絶する内容ばかりです。
いくつか紹介すると、最も視覚的にわかりやすいものとしては「漏水によってプールのようになってしまった地下駐車場」が挙げられるでしょう(下の写真)。
(* 配信先のサイトでこの記事をお読みの方はこちらで本記事の図表をご覧いただけます。
http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/56903)
基礎コンクリートがきちんと施工されなかったことから、多くのひび割れや打ち継ぎ不良の隙間から地下水が侵入し、場所によっては1メートル近くの高さの水が地下駐車場に溜まっているそうです。
また屋上でも防水処理に不備があるため、最上階の共用廊下と室内で滝のような雨漏りが起こり、カビが大量発生しています。このほか屋上には、設計上は存在しないはずの余分なコンクリートがなぜか約245トンも増し打ちされていたとのことです。
さらには鉄筋の数量が当初の設計から減らされていたり、コンクリートが簡単に剥離するなど、建物倒壊を招きかねない致命的な構造上の欠陥も多々発見されています。
2013年には、地上40メートルにある防風スクリーンガラスが、固定が不十分なため強風で吹き飛んで60メートル先のレストラン壁面に激突するなど、非常に危険な事態も発生しています。
(各施工不良の詳細については、大覚の訴訟専用サイトで参照することができます)
これほど数多くの瑕疵があるにもかかわらず、前述のとおり一審では施工側の瑕疵責任は認められませんでした。しかし大覚側の控訴以降、テレビ局をはじめとしたメディアがマンションの欠陥を取り上げたことで、同裁判は俄然注目されるようになります。
そして今年4月に下った第二審判決では、南海辰村側の瑕疵責任が認められ、南海辰村には約18.8億円の補償金と、これに付随する金利の支払いが命じられました(ただ同判決後、南海辰村側はすぐに上告を行ったため、裁判は今後第三審へと進むことになるかもしれません)。
欠陥住宅は掴ませた者勝ちなのか
上記の裁判経過を見ていて筆者は、その瑕疵内容のひどさもさることながら、瑕疵責任を巡る裁判が約10年に及ぶほど長期化している事実に驚きました。なぜ瑕疵が明らかなのにもかかわらず裁判が長期化するのか? 当事者である大覚へ尋ねたところ、「欠陥住宅を巡る日本の裁判の構造自体に問題がある」との回答が返ってきました。
大覚によると、欠陥住宅の補償を巡る裁判では、被害者側が瑕疵内容を立証しなければなりません。ただ、その調査は専門的な内容となるため、膨大な手間と時間と費用がかかります。また、そうした調査を経て証拠を集めたとしても、裁判官や弁護士らの多くは専門的建築知識がありません。そのため、裁判においては各証拠の意味や解釈について長い時間をかけて説明しなければならず、欠陥住宅を巡る裁判は必然的に長期化するそうです。
言うまでもなく、補償が確定するまでの間、欠陥住宅に住む入居者の負担は続くこととなります。大覚は同マンションの購入契約者に対し、売主としての責任から、全額返金による購入キャンセルに応じました。しかし、一部契約者および競売落札者は同マンションに居住し続けています。倒壊の恐れもある建物なので、大覚側としてはできるだけ早く裁判を決着させて、入居者に必要な対応を行いたいとしているものの、裁判の長期化や行政側の無関心もあって事はなかなか進められないのが現状だそうです。
これまで大覚は、同マンションの設計・施工段階で行政確認を行ってきた大津市に対し、入居者の救済や、構造計算書の調査を依頼してきました。しかし大津市側は「民事不介入」を盾にこれらの要請を拒否し、倒壊の危険性すらある同マンションを放置し続けています。
被害者は、補償を得るまでに多大な時間と労力を要することになるため、裁判自体を諦め、泣き寝入りする人も少なくないと聞きます。
「住宅の品質確保の促進等に関する法律(品確法)」で住宅は引き渡し後10年の間、瑕疵担保責任が引渡側(売主)に課せられています。しかし、引き渡し側が瑕疵を認めずに裁判へ持ち込んできた場合、個人が裁判に勝って補償を得るのは非常に困難でしょう。
こうした現状を見る限り、現状では欠陥住宅を掴ませる側が非常に有利な環境となっていると言わざるをえません。
今後、どうすれば欠陥住宅問題を防ぐことができるのでしょうか。大覚に意見を求めたところ、目下必要と思われる対策について以下の提言をまとめてくれました。ただし、「法規制や罰則を強化しても、手口がより巧妙化し、いたちごっこになる恐れもある」と言います。それを踏まえて、この問題には地道で継続的な対応が必要であるとの見方を強調していました。
住宅購入は人生の一大イベントとも言うべき取引であり、欠陥住宅を掴まされてしまった場合、被害は甚大なものとなります。ところが現状では、欠陥住宅への規制や対策は十分とは言えません。過去に何度も同様の事件が繰り返されている点を見るにつけ、もっと社会全体で対策を考えていく必要があるのではないかと強く感じる次第です。
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