日本政府が韓国向けの輸出規制強化策を2019年7月1日に発表してから1週間。韓国では連日、最大のニュースになった。

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 韓国政府、日韓企業は対応策に追われたが、本当に影響が出るのはこれからだ。

 「出口」は見えず、一連の措置がどういうプラスマイナスの効果をもたらずのかも現時点では見通せない状況だ。

 2019年7月7日の日曜日夕方、サムスン電子の李在鎔(イ・ジェヨン=1968年生)副会長は東京に向かった。

文大統領は初めて発言、サムスン副会長は東京に

 韓国メディアによると「日本政府の措置への対応のために急遽決まった訪日で、個人的な人脈も使って対応策を練る」という。

 7月8日には、文在寅ムン・ジェイン1953年生)大統領が、青瓦台大統領府)での首席・補佐官会議でこの問題について初めて公式の席で発言した。

 日本の措置の撤回を求めると語ったが、その後、「対抗措置に正面から対応する悪循環は好ましくない」「外交的解決のために努力する」などと述べた。

 この1週間、最も素早く動いたのはもちろん韓国の半導体メーカーだった。日本で最初に報道があった6月30日は日曜日だったが、幹部が揃って緊急出社し対応に追われた。

 それから3日間ほどは「パニック状態だった」(韓国の半導体メーカー幹部)。

 とにかく日本政府による急な発表でいったい何が起きるのか分からない。7月1日に日本政府が措置を発表し、わずか3日後の7月4日に実施という「電撃措置」で、半導体の製造に欠かせない3品目の日本からの輸入がどうなるのか、その場合、生産にどのような影響が出るのか、全く分からなかったからだ。

 日本の取引先企業も驚愕した。韓国メーカーの担当者は、「連日会議。その間に、ずっと電話で情報収集と、問い合わせへの対応に追われた」という。

最初は「パニック状態」

 最初の措置が発動になる前日の7月3日まで、こうした「戦時状態」(韓国メーカー幹部)が続いた。

 だが、どういうわけか、「実際に措置が始まった7月4日から問い合わせが激減して平時に戻った」(日本の取引先)という。

 日韓双方の企業ともに詳細は明かさない。

 だが、ある日本企業の幹部は「中国で、『上に政策あれば下に対策あり』というが、ちょっとこれに似ているかな? もちろん、影響は不可避で双方ともに困っていることには変わりがないんだが・・・」と意味深長な言葉を吐いた。

 そもそも、韓国の半導体メーカーは、日本製の材料がどうしても必要だ。日本メーカーも大口取引先であるサムスン電子やSKハイニックスに売りたい。

 日本政府も「禁輸措置」をするわけではない。ということである程度の「対策」があったようではある。

 発表直後の虚を突かれたバタバタから徐々に落ち着いた対応策に変わってきたということのようだ。

 そんな中で、韓国の「キウム証券」が3日に出したリポートが関心を呼んだ。日本の輸出規制強化が韓国の半導体業界に対する影響を分析した内容だ。

メモリーより非メモリーに打撃

 それによると、「メモリーへの影響は中立的、非メモリー分野はネガティブ」などと分析した。

 メモリー分野については、「韓国製品の世界シェアがDRAM73%、NANDフラッシュメモリー46%で、韓国での量産に問題が発生して減産になった場合も、このマイナス効果を超える価格上昇効果が予測できる」。

 これと反対に非メモリーは、「打撃を受ける恐れがある。サムスン電子はEUV(極端紫外線)を使った半導体の量産を開始しようとしているがこの工程で使うフォトレジストを日本から全量調達する予定だ」からだという。

 サムスン電子は巨額の投資をして、AP(アプリケーションプロセッサー)など付加価値の高い非メモリー事業、特に、ファウンドリー事業の強化を掲げている。

 秋にもEUVラインでの量産開始を目指しており、ちょうどこのタイミングでの輸出規制強化ということで、半導体業界も証券市場も影響に注目している。

日本製品不買運動は?

 日本の措置が始まった4日と5日は、韓国メディアでも特に大きな報道が目立った。テレビやラジオのニュース番組、経済番組でもトップ級の扱いだった。

 筆者は、午前中のラジオの経済番組をよく聞くが、7月5日朝の番組の「記者座談会」の中で、1人が「日本に報復措置をすべきだ」として、特定の日本企業の名前を挙げて「不買運動」に言及したのには驚いた。

 この記者は、週明けの7月8日にはこの問題で淡々と事実解説だけをしていた。やはり「奇襲的な措置」に慌てて、興奮したのかもしれない。

 ネットでは日本製品の不買運動を主張する書き込みがあちこちにあった。一部小売団体が、日本製品を撤去するなどの動きはあった。

 一方で、冷静な対応を求める書き込みも少なくなく、7月6日と7日の週末、果たして日本製品に対する不買運動があったのか気になった。

 筆者は7月6日の土曜日、ソウル中心部の日本の衣料品チェーンの店に行って見た。がらがらで「すわっ!不買運動なのか?!」と驚いたが、この日のソウルは最高気温が36度に達し、そもそも外出客が少なかった。別の店もがらがらだった。

 知人は7月7日の日曜日に、日本の衣料品点や雑貨店を何件か回ってみたが「普段通りだった」という。

 だが、一方で、韓国で日本製の消費財を販売する企業の代表は「7月1日の週は、それ以前に比べて販売が3割減った。影響はあった。これが長引くのかどうか、とても気にしている」とも語っており、何の影響もなかったとは言えなかったようだ。

 今回の措置に対する韓国内の反応は実に様々だ。

 憤怒、不快感、対抗して報復すべきだとの意見もある。冷静に対応すべきだという意見も少なくない。韓国政府に対応を求める声もある。

 なかには、こんな反応も何人かから聞いた。

「半導体、自動車・・・韓国の大企業が急成長した一方で、産業構造上は日本に深く依存しているという厳然たる事実を広く分からせたという意味もある」

 韓国の中長期的な課題克服に着手すべきだという意見だ。

 日韓間の経済関係は深く長く、対抗措置は双方にマイナスだという意見もある。

世論調査では、7割近くが外交対応を支持

 7月3日世論調査会社、リアルメーターは、今回の日本政府の措置に対する対応策を問う世論調査を実施した。その結果は、以下の通りだった。

45.5%  国際法的対応(WTO=世界貿易機構=への提訴など)
24.4%  経済報復など全面対抗策(輸出入規制など)
22.0%  外交的な解決(韓国側が一部譲歩して)

 この結果をどう見るか?

 7割近くが国際法的な対応、外交的な解決を支持した。

 政府のこれまでの対日強硬姿勢に比べて、冷静な判断をしていることが分かる。

 さて、では、韓国政府はどう動いているのか?

 7月8日、午後に開いた青瓦台の首席秘書官、補佐官を集めた会議。文在寅ムン・ジェイン1953年生)大統領は「韓国企業に被害が実際に発生した場合、政府としても必要な措置を講じざるを得ない」と一瞬、報復措置を匂わせた。

 しかし、その直後に「だが、私はそういう事態を望んでいない」と引き取った。

 さらに、「日本の措置によって韓国企業の生産に影響が出る恐れがあり、また世界の供給網を危うくしかけない状況でもある」と述べたうえで、「日本側に措置の撤回と両国間の誠意ある協議を促したい」と語った。

 全体的には、強硬なトーンを抑えた形ではあるが、具体的な提案などはなかった。

韓国政府は連日会議、対策は?

 韓国政府は連日対策会議を開いている。

 6日には李洛淵(イ・ナギョン=1951年生)首相と洪楠基(ホン・ナムギ=1960年生)経済副首相兼企画財政長、康京和(カン・ギョンファ=1953年生)外相、成允模(ソン・ユンモ=1963年生)産業通商資源相が非公開で会合を開いた。

 また7日の日曜日には、洪楠基副首相と青瓦台大統領府)で経済政策全般の責任者を務める金尚祖(キム・サンジョ=1962年生)政策室長が主要財閥トップを集めて昼食会を開いた。

 出席メンバーや、やり取りの詳細な内容は非公開だが、鄭義宣(チョン・ウィソン=1970年生)現代自動車グループ首席総括副会長、崔泰源(チェ・テオン=1960年生)SKグループ会長、具光謨(ク・グァンモ=1978年生)LGグループ会長が出席した。

 「朝鮮日報」は訪日直前の李在鎔サムスン電子副会長も参加したと報じた。

 また、10日は、文在寅大統領が今度は、サムスン現代自動車、SK、LGだけでなく、30大グループの総帥を招いて懇談会を開く。

 財閥と距離を置いていた今の政権が、これだけ頻繁に財閥トップと接触するのは政権発足後初めてのことだ。それだけ今回の日本政府の措置の重大性を認識にしているとは言える。

 だが、では、すんなり解決に向かって動くのかといえば、全く先行きは見えない。

 日本政府の措置は、政府間の問題に端を発している。韓国政府首脳が韓国の大企業や財閥トップに会っても、日本政府の措置の影響や要望を聞くことはできても、解決策が出てくるわけではない。

 韓国の大企業の間からも「青瓦台や政府に呼ばれればいつでも行くが、解決策を早く示してもらわないと・・・」という声が聞こえる。

 これは日本側も同じだ。

 問題が長引いて、韓国企業と取り引きをしている日本企業に悪影響が出る懸念はある。不買運動や日本への旅行自粛などが広がる恐れもある。

 韓国紙デスクはこう嘆く。

「10日に財閥総帥を集めた懇談会で大統領が一定の方向を出す可能性と、何も決まらずに長期化し、日本が追加措置に踏み切ってさらに事態が悪化する両方の可能性がある。現時点で『出口』は全く見えない」

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