「金持ち老人から金を奪い取る毎日に、俺の心は1mmも痛まない」

杉野遥亮主演のドラマ『スカム』MBSTBS系)が7月2日(火)深夜からスタートした。監督は、映画『全員死刑』2017年)の小林勇貴。原案は、ルポライター鈴木大介が振り込め詐欺を生業として活きる若者たちの姿を書き記した『老人喰い:高齢者を狙う詐欺の正体』ちくま新書/筑摩書房)だ。

1話あらすじ
舞台は2009年、草野誠実(杉野遥亮)はリーマンショックの影響で新卒切りに遭い、不動産営業の仕事を失ってしまう。

貯金も底をついた頃、父親のがんが発覚。保険がきかない先進医療はお金がなければ受けられず、延命治療かがんを患った眼球を摘出するかを迫られる。また、家には大学の教育ローンの督促状が届いていた。

再就職が上手くいかない焦りから、誠実は友人の田中祥太郎(戸塚純貴)に誘われて振り込め詐欺の「出し子」に手を出してしまう。報酬は、引き出した金額の10%だ。慌ててしまい上手くATMの操作ができない誠実。渡されたキャッシュカードを使ってなんとか現金の引き出しに成功した。しかし、祥太郎のほうが警察に見つかってしまう。

誠実は祥太郎を助けて逃げようとする。だが、祥太郎は金を持ってひとりで逃げてしまった。詐欺グループに目をつけられた誠実は、ただ金を引き出す「出し子」よりもさらに深く振り込め詐欺に関わることになっていく。

普通の若者がすがる「振り込め詐欺」の実態
ドラマは、振り込め詐欺でよく使われる「三役系シナリオ」のうちのひとつ「テッケイ」(鉄道警察)から始まった。誠実が鉄道警察、清宮(前野朋哉)が痴漢をしてしまった息子、もうひとりが痴漢被害者の父親を演じる。

息子役はただオロオロしているだけで良く、怒りで興奮している父親役と冷静で優しい口調の鉄道警察役が、電話越しに代わる代わる老人に話しかける。

絶体絶命ピンチと救いの手を同時に投げかけることで、むしろターゲットの側から「お金を払わせてください。なんとか息子を助けてやってください」とお願いするような場面に持ち込むのが、この三役の妙技と言える。〉
鈴木大介『老人喰い:高齢者を狙う詐欺の正体』ちくま新書/筑摩書房 p.38-39)

原案書籍の第1章で紹介されている、振り込め詐欺の象徴的な手口。振り込め詐欺の実態を見せて啓蒙や注意喚起をするドラマではないことが、誠実のモノローグ明らかになる。

誠実「金持ち老人から金を奪い取る毎日に、俺の心は1mmも痛まない」

振り込め詐欺に何の罪の意識もない。しかし、誠実は極悪人でも心ない人間でもないということが、第1話をまるまる使って描かれた。

愚痴を言いたくなったら、友達と安居酒屋に集まる。父親のがんを治してあげられないことで涙を流す。自分の学費は学生ローンを使って自分で払い続けている。振り込め詐欺に対して「やってはいけないこと」という意識がちゃんとある。誠実は、一般的な若者だ。

老人が憎い。世の中が憎い。金持ちが憎い。誠実が振り込め詐欺を始めたのは、そんな気持ちからではなかった。お金がなくて、再就職もできなくて、家族や自分の生活を守りたくて、目の前にあったものについすがってしまったという形。

誠実が特別に巻き込まれ体質というわけではない。原案本の『老人喰い』には、誠実と同じように、お金や仕事がなくて明日の生活も危うい人たちが「振り込め詐欺の“仕事”」にすがってしまう様子やいきさつが記されている。

状況を受け入れていく杉野遥亮の黒い瞳
ニュースやワイドショーは、振り込め詐欺はどんな理由があっても絶対に許されないと強く主張する。一方で、ドキュメンタリードラマ、ルポは、振り込め詐欺に関わる若者たちの人生にまで目を向ける。

2019年3月23日(土)には、中村蒼主演ドラマNHKスペシャル『詐欺の子』が放送された。振り込め詐欺を「老人の『死に金』を社会に還元する義挙」だと信じていた主人公が、裁判を傍聴し被害者や家族の人生を壊していたことに気がついていく。本作は、未公開シーンを加えた特別編が後日放送されるほど反響を呼んだ。

ルポでは、『スカム』の原案である鈴木大介の『老人喰い』や『振り込め犯罪結社 200億円詐欺市場に生きる人々』(宝島社)をはじめ、NHKスペシャル職業“詐欺”取材班による『職業“振り込め詐欺”』(ディスカヴァー携書)などが出版されている。

振り込め詐欺は組織的であり功名で「騙されるほうが悪い」とは言えないほど発展しているということ。そして、若者の貧困と振り込め詐欺のプレイヤーがいなくならないことは、密接に関係していることが指摘されている。

祥太郎「誰も助けてくんねえなら、自分で何とかするしかないだろ。ちょっとヤバくても。そうだろ?」

詐欺に関わることに戸惑う誠実に、祥太郎は強く言った。ドラマの中では「自己責任」という言葉も飛び出していた。彼らは、「自分で何とかしなければ」という意識に追い詰められていく。

また、公式サイトキャスト一覧を見ると、警察役や被害者役の登場人物が掲載されていなかった。『詐欺の子』の主人公は、被害者と出会うことで自分のしてきたことを見つめ直した。詐欺を思い直すチャンスとしての「被害者や警察との出会い」がないのであれば、誠実たちはどこに向かって行くのか。監督の小林勇貴と脚本の継田淳が用意する結末が楽しみだ。

誠実を演じる杉野遥亮は、ドラマミストレス 女たちの秘密』(NHK総合)や『花にけだもの』(フジテレビ系)、映画『居眠り磐音』など活躍の場を広げている。深い黒色の瞳が印象的で、『ミストレス』ではその瞳を活かし、何を考えているのか掴み切れない不穏な青年の役を好演していた。

その杉野の瞳が、今回の『スカム』にもハマっている。誠実は、環境に追い詰められ人に追い詰められ、詐欺の世界に入り込んでいく。何でも素直に吸収してしまいそうに真っ黒な杉野の瞳は、状況を受け入れていく誠実の生きる力を示しているように感じられるのだ。

詐欺そのものが良いか悪いかという視点から一歩引いて、一度詐欺に関わってしまった「普通の若者」がどう生きていくのかを『スカム』と杉野の演技を通して見守ってみたい。

本作を見逃した場合は、Netflixのみの独占配信で見ることができる。
(むらたえりか

見逃し配信:Netflix

ドラマイズム『スカム』
2019年7月2日(火)深夜1時28分スタート
出演:杉野遥亮、前野朋哉、山本舞香、戸塚純貴、福山翔大、水間ロン、若林拓也、華村あすか、柳俊太郎、山中崇、和田正人、西田尚美、杉本哲太、大谷亮平、ほか
監督:小林勇貴
脚本:継田淳
原案:鈴木大介『老人喰い:高齢者を狙う詐欺の正体』ちくま新書/筑摩書房)
制作プロダクションROBOT
製作:「スカム」製作委員会MBS

MBS番組HP https://www.mbs.jp/drama-scams/
ツイッター https://twitter.com/scam_0630

イラスト/たけだあや