マンガ家・東村アキコが語る「スマホで読む」ことでひっくり返った業界の常識 から続く

 人気マンガ家東村アキコさんが『東京タラレバ娘』に続き、独身アラサー女子のリアリティを描いた作品が『偽装不倫』。主人公・鐘子(しょうこ)は30代の派遣社員。婚活に疲れ果て、ひとり旅に出かけた機内で年下のイケメンと出会う。「結婚している」と思わず嘘をつき偽りの不倫関係に翻弄されるラブストーリー

『偽装不倫』は現在「LINEマンガ」で連載中(毎週土曜日更新)。コミックでも出版されている(4巻まで発売中)ほか、日本テレビ系列の水曜22時枠で、杏さん主演の連ドラが放送中だ。まじめに生きているのになぜかうまくいかない……。そんなアラサー女子の内なる部分について東村さんに伺った。

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“諦めと悟り”独身アラサーある意味かわいそうな世代

 東村さん曰く「いまの20代の子たちと話していると、ネット社会で揉まれて育ったせいか比較的ドライで、恋愛に溺れたりしないみたいなんです。『東京タラレバ娘』の倫子は描き始めた当時33歳の人がモデルで、いまアラフォーの世代。“結婚できないのはいい男がいないから”と心のどこかで思っている人が多い」という。では、その中間世代の独身アラサーは?

「理想を持ちつつも、いい男を捕まえられないのは自分にも責任があると分かっているような、諦めと悟りを感じます。純粋に夢を見ることができない、ある意味かわいそうな世代」

 原作『偽装不倫』の主人公・鐘子は3年に及ぶ婚活をやめ、自分は結婚せずにひとりで生きていくのだろうと思った矢先に韓国人のジョバンヒと出会う。イケメンの年下にやさしくされ、動揺した鐘子は「自分にはダンナがいる」と嘘をつく。

「見栄を張っちゃったんですよね、とっさに。30、40代の女性なら経験あるんじゃないですか? 彼氏がいなくても『いる』って言っておいたほうがラクな状況だったりとか」

予定調和の日常からズレないとコトは起きない」

 このとっさの嘘が鐘子には効果的だった。

「完璧でぴしっとした状態のままだと、恋って生まれないと思うんです。嘘をついたことで鐘子のなかに“気の乱れ”みたいなのが生じて、隙が生まれたことで恋が始まった。結局、予定調和の日常からズレないとコトは起きない。彼氏とうまくいかないと男友達に愚痴っているうちにその相手と……とかも、磁場が乱れるからこそ」

 この作品は韓国のスマホマンガプラットホームで企画が立ち上がり、2017年に日本で、2018年に韓国で連載がスタート。東村さんはKポップ好きで、ソウルに何度も行っており、愛情表現豊かな韓国男子のリアルをジョバンヒ(ドラマ版では帰国子女日本人・伴野丈〈ばんの じょう〉と別設定になっている)に重ねた。

「韓国の男性と付き合ってる子たちに話を聞くと、彼らは靴紐がほどけたらすぐに結んでくれたり、スクランブル交差点の真ん中にいち早く走っていって“おいで”と女性を待ち構えて抱きしめたり、少女マンガみたいなことをふつうにするらしいんです。日本人男性とはマインドが全然違うんですよね。結婚すると亭主関白になることもあるみたいですが、恋人同士の時は愛情表現がとにかくドラマティック」

 ジョバンヒが「あなたがきれいで可愛いからだよ」と自然に鐘子にいう言葉もファンタジーではなく、現実として描いているという。

飛行機イケメンと隣同士になって恋が始まるなんてありえない、と言う人もいますが、私の友人にはソウルの焼肉屋で隣同士になってカップルになった子もいますからね。現実に起こりそうなことを物語に落とし込んでいます。主人公キャラクターを考えるときは、その人物の生まれ年をまず設定して、中学や高校のときに何が流行っていたか、何が好きだったのか、両親が今何歳なのかなど、国勢調査みたいなデータを集めていきます」

「アキコ先生分かってるわー」って思われたい(笑)

 情報は登場人物の世代に近いアシスタントや友人知人から得ることが多いという。食事に一緒に出かけ、注文するメニューや服装、振る舞いのクセに注目したり、流行っているものの話を聞いてリサーチ。

「一番見ているのは、お金の使い方。金銭感覚にズレがないように心がけています。私がなぜリアリティを大事にしているかというと、読者から共感を得たいからではなく、『アキコ先生分かってるわー』って思われたいんです(笑)。そんな店は行かない、こんな服は着ないと読者が感じないように意識しています」

『偽装不倫』はドラマ化され、現在夏クールの連ドラで放送中だ。

「鐘子さんを映像化するなら杏さんだろうなと思って描いていたんです。アシスタントにも話していました。杏さんは好きな女優さん。歴史オタクだったりと、いい意味で変わっているところが素敵です。主役が杏さんに決まったと聞いたときは本当にうれしくて。アシスタントからは『先生、超能力者ですか?』と言われました、予言が的中したので(笑)

 きれいだけど浮ついたところがなくまじめ。杏さんの佇まいが鐘子とシンクロする。相手役のイケメンは宮沢氷魚(ひお)さん。ドラマでは韓国人ではなく、世界を飛び回る福岡出身のカメラマンという設定だ。

「異国味あって、彗星のごとく現れて『この子は誰なの!?』となるようなイケメンがいいなあと思っていたので、宮沢さんはぴったりでした。彼はTHE BOOM宮沢和史さんの息子さんで、クォーターの美男子ですが、雑誌のモデルをしている頃から透明感があってミステリアスで素敵だなぁと、ずっと気になっていました」

 鐘子の姉・葉子役は仲間由紀恵さん。葉子はエリート商社マンで自分の両親との同居も受け入れる理想的な夫がいるにもかかわらず、若いプロボクサーと不倫をする。

出会って、恋をして、結婚する。それだけなのに……

「条件だけで男の人を選んだらラクだけど、味気ない毎日の連続かもしれない。それよりも私は一緒にいて楽しい人といたいと思うタイプ。だから、婚活パーティなどで条件優先を追求した先にある結婚って何だろう? という疑問を葉子に重ねている部分はありますね」

 出会って、恋をして、結婚する。そのシンプルな道筋を妨げるものは何なのか。

「“自信のなさ”なのかもしれないですね。『東京タラレバ娘』スピンオフのお悩み相談マンガ『タラレBar』などでもずっと言っていますが、一緒にいたら楽しそうな人ってモテるんです。おとなしそうに見えても黙々と仕事に取り組んでいたり、何かに夢中になったりしている女性は追いかけたくなる。逆に自分に自信がない人はつまらないと思われてしまう」

 そして「色気」も大切にしてほしいという。

「おろそかにしちゃいけないと思うんです、色っぽさ。鐘子は男性好みの女らしい格好を毛嫌いしていますが、思いきって藤あや子さんみたいな色気を目指してみてもいいんじゃないかと。きっと藤さんとお酒を飲んだら、女の私でもひれ伏してしまいますもん。昔の日本映画の女優のようなたおやかさ、品のある色香はこの世の宝ですよね。好きな人も振り向いてくれますよ。悲しい恋になったとしても、それがまた色香に昇華するからいいんです」

 とはいえ、30年近く生きてきて、いまさら自分を変えるのは難しい?

「たとえば外国に行って外国の言葉とか喋ってると、自分のキャラが変わって率直になれたりしませんか? そんな感覚で、ちょっとキャラ変してみるとか。変わることを怖がらないでほしい」

 嘘から始まった恋で鐘子の世界が変わるのか。こじらせ女子が幸せをどう掴むかを楽しみたい。

ドラマ「偽装不倫」日本テレビ系 毎週水曜夜10時放送中
出演:杏 宮沢氷魚 瀬戸利樹 谷原章介 仲間由紀恵 ほか

LINEマンガ「偽装不倫」

毎週土曜連載中

 

 

(梅崎 なつこ)

日テレ系ドラマ「偽装不倫」より杏と宮沢氷魚 ©日本テレビ