アシックスのパタハラ疑惑、訴えた男性を批判する声も

アシックスを提訴した男性

 アシックスの男性社員(38)は6月28日、育休取得後に出向を命じられたり、嫌がらせを受けたりしたとして同社を提訴した。報道を受け、同社の対応は“パタハラ”に当たるのではないかという批判が高まった。

 一方で、男性の元には“育休を取りすぎではないか”といった非難も寄せられた。当事者の男性は、こうした批判をどう受け止めているのだろうか。

◆「過小な要求」はパワハラに該当する
 男性は、2011年に入社して以降、スポーツプロモーションや人材開発の仕事をしてきた。しかし2016年に育児休業から復帰した後は、子会社への出向を命じられ、物流倉庫での荷卸しや梱包といった仕事を与えられた。

 男性は不当な扱いを受けたと感じているが、インターネット上では“元の職場に戻れなくても仕方がないのでは”、“倉庫での仕事を見下しているのか”といった声も上がっている。

 しかしアシックスの男性に対する処遇は、パワハラに当たる可能性が高い。厚生労働省パワハラの6類型によると、「過小な要求」はパワハラに当たる。具体的には、「運転手なのに営業所の草むしりだけを命じられる」場合や「事務職なのに倉庫業務だけを命じられる」場合が該当する。

 男性の場合は、元々スポーツプロモーションや人材開発の業務を担当していた。それにもかかわらず、専門とは異なる倉庫での仕事を割り振られたことは、「過小な要求」に当てはまると思われる。

 また男性は、「倉庫での仕事も重要な仕事。決して見下しているわけでありません」と前置きしたうえで、こう話す。

「倉庫の業務から本社に戻ってきたとき、人事部長に『今日はおごるよ。復帰祝いだ』と言われました。このとき、やはり倉庫での仕事は懲罰的なものだったのだと感じました」

◆「誰もが制度を使えるような社会にした方がいい」
 男性は、2015年2月に長男が誕生したため、同年2月中旬から3月末までの1か月半と5月中旬から翌2016年6月中旬までの約1年間、育児休業を取得した。

 厚労省は、母親の出産後8週間以内に父親が育休を取得した場合は、一度職場復帰しても、再度取得できるとしている。男性はこの仕組みを利用していた。

「女性は産後、心身の回復に時間が掛かると聞きました。産後うつになる人も少なくないと聞き、妻のことが心配でした。そのため出産直後に育休を取りました。一度は職場復帰したものの、“ワンオペ”での育児は負担が大きかったため、再度育休を取得しました」

 男性は次男の誕生後、2018年3月から2019年4月まで2回目の育休を取得している。男性が2度に渡って約1年間の育休を取得したことに対し、“休みすぎでは”といった声も出ている。

「休みを取りすぎだと言われることもありますが、私たちには育休を取得する権利があります。制度を利用している人を批判していると、制度をどんどん使いづらくなってしまいます。

 制度を使った人を批判するのではなく、誰もが制度を使えるような社会になればいいと思います。『誰かが休むと、同じ職場の人が穴埋めをしなければならなくなる』と言われることもありますが、誰かが休めるだけの人を配置するのが経営者の仕事ではないでしょうか」

◆「退職するように無言のプレッシャーを掛けられている気がした」
 男性は、倉庫勤務から本社に戻った後、障がい者雇用に関する調べ物を業務として与えられた。その後、8か月ほど業務指示が一切なかったこともある。このときは「『退職しろ』と無言のプレッシャーを掛けられているような気がして、真綿で首を絞められているようだった」と話す。

 その後は、介護について調査したり、就業規則を英訳する仕事を与えられた。男性は「きちんとした業務を与えてほしい」と訴えているが、これも調査や英訳の仕事を軽視しているわけではない。「僕が2回目の育休を取得している間、この仕事には誰も手を付けていませんでした。つまりやる必要のない仕事なのだと思います」

 会社を辞めて転職すればいいのではないかという声も少なくない。しかし男性は、「泣き寝入りしたくありません。私がアシックスを提訴することで、男性が育休を取りにくい現状を変えたいと思っています」と話す。

 日本の男性の育休取得率は、2018年度に6.16%だった。一方、労働政策研究・研修機構の資料によると、ノルウェーでは90%、スウェーデンでは88.3%、ドイツでも27.8%となっている。

<取材・文/HBO取材班>

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