6月末、横浜F・マリノスの公式Twitterアップした1枚の画像が、SNS上でにわかに話題となった。

 その画像は、横浜FMが7月13日に控える浦和レッズとのホームゲームに向けて、PRの一環としてアップしたものだ。

HEAT UP!”という力強いキャッチコピーに加え、年間テーマの「横浜沸騰」を象徴する赤と青のビジュアル、そして横浜FMのアンジェ・ポステコグルー監督と浦和の大槻毅監督の鬼気迫る表情が印象的なビジュアル。来る熱戦に向けてファンの士気高揚に一役買うであろう仕上がりだが、これが思わぬ形で注目を浴びることとなる。

「これ、ボスが組長仕留めちゃってね?」

“ボス”とは横浜FMのアンジェ・ポステコグルー監督の、“組長”とは浦和の大槻毅監督の異名だ。強面の風貌にマッチした二つ名を持った両指揮官が向き合い、“ボス”が右手を突き出し、“組長”から赤い何かが飛び出す。「仕留めちゃってる」ように見える気持ちも分からなくはない。

◆ボスがボスたる所以とは

 そもそも、二人の別名の由来は何なのか。

 “ボス”というネーミングは、2018年の監督就任当初に「私のことはボスと呼んでくれ」と選手たちに伝えたことに始まる。厳めしい風貌からしても“ボス感”はあるが、ボスがボスたる所以はそのキャラクターにも表れている。

「監督は『このチームファミリーだ』といつも言ってる。まさにボスって感じ」とは、今シーズンから横浜FMでプレーする三好康児の弁。時には厳しく接し、時には助け合う空気をポステコグルー監督がチームに浸透させているという。

一方で、ボス自身は選手と頻繁にコミュニケーションを取るタイプでないと多くの選手が認める。だが、彼らがそれをネガティブに捉えている様子はない。中心選手の一人である仲川輝人は「練習でのパフォーマンスをじっくり見て、しっかりと試合でチャンスを与えてくれる。そのおかげもあって、選手たちは誰もがいつ試合に出てもいいような準備ができている」とボスへの信頼を語る。

 もちろん、指導力に対しての評価も高い。李忠成は「今のマリノスはすごく攻撃的で、日本で一番推進力のあるチーム。その中で守備もキッチリできるし、ポゼッションのやり方も浸透させている」とその手腕に舌を巻く。また、戦術が浸透した要因を「(ボスは)やろうとしていることが全くぶれず、目標がはっきりしている。選手としてもやるべきことが分かりやすく、プレーしやすい」と語った。仲川と同様に「この監督と心中できると思わせてくれる」と話すほど、ボスへの忠誠心が強い。

 寡黙ながら選手一人ひとりをつぶさに見守り、決してぶれない筋の通った姿勢でチームを導く。ファミリーの長としての振る舞いを地でいくポステコグルー監督は、まさしく“ボス”そのものだ。

◆組長・大槻毅監督が持つ二つの顔

 一方、大槻監督の“組長”という愛称は、2018年に暫定監督として浦和を率いた際についたもの。オールバックのヘアスタイルや背広姿、眼鏡越しの鋭い眼光といったビジュアルから、サポーターの間で定着した。

 そんな組長は熱い指導で選手を盛り立てるモチベーターの表情と、相手チームの戦術を冷静に読み解く分析家の表情を併せ持った指揮官だ。浦和の選手から伝え聞こえる親分肌な気質や、タッチライン際で見せる激しい所作から情熱的な一面ばかりが注目されがちだが、浦和時代に指導を受けた李に言わせれば「あの人は戦術面のほうがすごい」。

「分析が細かいし、攻めも守りもすごく整理されている監督。途中からチームを率いるのは本当に難しいけど、成績がそのすごさを物語っている」

 2018年に暫定監督として浦和を率いた際は、公式戦6試合を4勝2分と無敗で切り抜けた。また、今シーズン5月29日に就任して以来、公式戦7試合を4勝1分2敗と勝ち越している。低迷したチームを2年連続で立て直しているだけに、大槻監督の指揮官としての能力は確かなものと言えるだろう。李も「すごく手ごわい相手になる」と古巣との激戦を予感している。

◆攻める横浜FMと守る浦和

 横浜FMと浦和の一戦は、“ボスvs組長”という構図に荒々しい試合展開をイメージしがちだが、両指揮官キャラクターを考えると、実際は緻密な戦術がぶつかり合う頭脳戦になりそうだ。

 就任2年目とあって攻撃的なサッカーチームに染みわたり、リーグ戦で上位を争っている横浜FM。序盤戦の低迷により、シーズン途中から大槻監督がチームを率いることになった浦和。両チームの状況を考えると、ボールを支配して攻め込む横浜FMと守備をベースカウンターセットプレーからゴールを狙う浦和、という試合展開が予想される。

 注目は横浜FMの強力攻撃陣と国内屈指のタレントが揃う浦和守備陣の対決だ。横浜FMには得点ランク上位に名を連ねるエジガル・ジュニオ、マルコス・ジュニオール、仲川に加え、日本代表としてコパ・アメリカ2019で活躍した三好、生え抜きの俊足アタッカー遠藤渓太といった個性豊かな面々が前線に並ぶ。彼らの個の能力とコンビネーションを融合させた攻撃により、横浜FMはリーグトップの得点数を誇っている。その中でも三好は「(コパ・アメリカを)経験できた選手は少ないので、違いを出さないといけない。A代表に呼ばれ続けるためにはまだまだ結果が足りない」と闘志を燃やしている

一方で浦和のDFラインを担うのは槙野智章や鈴木大輔、岩波拓也といった年代別を含む日本代表経験者に加え、元U-17ブラジル代表のマウリシオなどの実力者。さらに元日本代表の西川周作が守護神としてゴールマウスを守っており、ゴールを奪うのは容易ではない。同時に、彼らは精度の高いフィードキックも持ち味としており、カウンター時にはDFとの駆け引きに優れた興梠慎三や武藤雄樹が、横浜FMのハイラインの裏を狙う。特にエースの興梠は前節ベガルタ仙台戦でも最終ラインの背後を取る動きから決勝点を挙げており、「ホームで負けているので(第6節0-3で横浜FMが勝利)、その借りを返したい」とリベンジに懸ける思いも強い。

◆カギを握るのは古巣戦に燃えるジョーカーたち

 試合が膠着してきた時は、両指揮官の用兵術、特に交代カードの切り方にも注目だ。古巣戦となる横浜FMの李は「対戦はすごく楽しみ」と燃えている。レギュラーポジションはつかめていないが、「5年いたチームだし、選手もほとんど知ってる」と浦和の選手たちの癖を知り尽くしているだけに、決定的な仕事をする“ジョーカー”になりそうだ。かつては浦和の切り札として活躍した李。その勝負強さを知る浦和のファンにとっては恐ろしい存在になるだろう。

 一方で浦和の山中亮輔とマルティノスも横浜FMとの一戦は古巣戦となる。彼らも絶対的なレギュラーではないが、セットプレーの名手である山中と圧倒的なスピードが武器のマルティノスは、守備をベースワンチャンスを狙うであろう浦和にとって重要な存在になりうる。

 注目の一戦はどのような結末を迎えるのか。舞台は日産スタジアム。キックオフ7月13日19時。ボスが「仕留めちゃう」のか、それとも組長が敵地での“抗争”を制するのか。SNSで見せた以上に盛り上がるゲームを両指揮官と選手たちに期待したい。

取材・文=峯嵜俊太郎

横浜FMの“ボス”と浦和の“組長”が日産スタジアムで相見える[写真]=金田慎平、兼子愼一郎