筆者の息子は知的障害のある自閉症児で、食物アレルギーがあります。自閉症が原因で命を落とすことはありませんが、食物アレルギーは、一時も気を抜くことができない“命に関わること”です。2012年12月、東京都調布市の小学校で、女児が給食で出された粉チーズ入りのチヂミを食べ、食物アレルギーによる「アナフィラキシーショック」で死亡する事故が起こっています。

 筆者は試食コーナーに置いてある食べ物や、子どもたちの集まりで配られるお菓子などに目を配り、常に緊張感を持って、ひやひやしながら子育てをしてきました。現在、息子は18歳ですが、アナフィラキシーショックを起こしたときに備え、自己注射薬を携帯しています。

義務と推奨の境目で危険にさらされる命

 総菜売り場やレストランでは、食物アレルギーの原因となる「エビ、カニ、小麦、ソバ、卵、乳、落花生」が表示されています。特定原材料の7品目として、表示することが義務化されているからです。

 さらに、表示が推奨されている「特定原材料に準ずるもの20品目」は「アワビ、イカ、イクラ、オレンジ、カシューナッツキウイフルーツ、 牛肉、クルミ、ゴマ、サケ、サバ、大豆、鶏肉、バナナ、豚肉、マツタケ、モモ、ヤマイモ、リンゴゼラチン」です。ただ、表記を推奨されているだけで法律で義務化されていないので、含まれていても表示されないことがあります。

 総菜売り場やファミリーレストランなどでは、「7品目」あるいは「20品目」以外のものは書かれていないことが多いです。例えば、落花生(ピーナツ)のことは触れられていても、表示義務のないアーモンドについては書かれていないケースがあります。全てのアレルギーの人に配慮した原材料表示は、現実的に難しいからです。

 息子は、表示の「義務と推奨の違い」「書かれていないものも入っている可能性がある」ことが理解できないでいます。表示義務のある落花生については「落花生が入っています」と書かれていれば「ナッツ類で入っているのは落花生だけ。アーモンドは入っていない」と勘違いしてしまうようです。親亡き後、一人で総菜を買い、外食をすることになったときに心配でなりません。

 しかし、周りの人全てに、食物アレルギーについて理解してもらうことは難しいとも思います。そこで、息子の将来に向けて「ナッツアレルギーがあります。アーモンドクルミピスタチオ、ヘーゼルナッツは入っていませんか」と書いた紙を持たせ、お店の人に見せる練習をしています。誤食事故を防ぐための「自分から危険を回避する練習」です。

食物アレルギーをめぐる誤解

 ある時、息子を若いヘルパーに預けたところ、「落花生=ピーナツ」と知らずに、ピーナツバターが入っているカレー弁当を買い与えてしまい、アナフィラキシーショックを起こしました。大学病院の救急外来に運ばれ、事なきを得ましたが、カレーにはコクを出すためにピーナツバターが使われていることがあるので注意が必要です。

 スナック菓子は使用している原材料の多くを表記しているので、「白か黒か」「全か無か」がはっきりと分かりやすくなっており、そうした意味では安心できる食べ物です。しかし、スナック菓子を手にしている息子の写真をブログに載せると、「スナック菓子や総菜を食べさせる親が悪い」「外食しなければよい」とバッシングを受けました。恐らく「外食や加工食品を食べさせているからアレルギーになる」という誤解があるのでしょう。

 食物アレルギーは、加工品や添加物というよりも食材そのものに反応します。例えば、小麦アレルギーのある人は、無農薬の小麦で手作りしたパンであっても、わずかでも口にするとアレルギー反応を起こします。パン店の前を通るだけで、小麦粉を吸って反応が起こる人もいます。

 また、米アレルギーの人は胚芽の部分に反応するので、玄米は避けなくてはならず、アレルギーの原因となる成分を除去した米「低アレルゲン米」を食べている人もいます。つまり、「自然なものであれば大丈夫」というわけではないのです。

より詳細な表があれば…

 食物アレルギーを持つ人たちのそれぞれが、どの食品に反応するのかは千差万別ですが、使用されている食品について全て表記することは、原材料の種類が多すぎて不可能だと思います。

 しかし、食物アレルギーの人にとっては命に関わることです。食品の原材料表記については「食物アレルギーをお持ちのお客さまへ。乳・卵・小麦・ソバ・落花生・エビ・カニの7品目以外は明記しておりません。店員にお尋ねください」と大きく掲示し、義務化されていない原材料についても、より詳細なアレルギー表を渡すなどの方法にしてほしいと思っています。

子育て本著者・講演家 立石美津子

アーモンドに食物アレルギーの表示義務はないが…