今回の電動バイクは原付扱い。濡らしたくない電気機器類を入れたトレーラーを牽引しているため、制限速度は時速25キロ
今回の電動バイクは原付扱い。濡らしたくない電気機器類を入れたトレーラーを牽引しているため、制限速度は時速25キロ

コンセントからの充電NG! 太陽光発電だけ! 過酷な「電動バイク0円旅」、折り返し地点へ向けひた走る男を悩ませるのは、なんと同じ道を走るドライバーの皆さん。お、遅くてごめんなさい......。

【前回までのあらすじ】

最近話題の電動バイクに、太陽光発電ソーラーパネルとポータブル電源を積み込んだら、電気代0円でどこまでも走れるんじゃね?

そんな軽い気持ちで始まった本企画。京都・三条大橋から東京・日本橋まで、江戸時代の大名が必死こいて参勤交代の道を歩んだ東海道五十三次(約500km)の完全制覇を目指し、出発した。

しかし、旅は序盤から想定外の連続。3日連続の雨でまったく充電できなかったり、西日本最大の難所である鈴鹿(すずか)峠では延々と続く上り坂、ダニの襲撃、ゲリラ豪雨の直撃......といったヘビー級の洗礼を受けまくったり。

それでも、疲労と心労で折れそうな心を奮い立たせ、どうにか峠越えに成功! やっと平坦(へいたん)な都市部の入り口、三重県の「関宿」に達したのだった。

■時速25キロはジャマですか(涙)

ここからしばらくは、海沿いを走る交通量の多い国道1号線。郊外や山間部は、「ここで電欠で止まったら、誰にも発見されず死んじゃう」という不安との孤独な戦いだったが、もうその心配はない。ただ残念ながら、ホッとひと息......とはいかなかった。

今回の旅は、防水の意味合いも含め、荷物の入ったトレーラーを電動バイクで牽引(けんいん)している。そのため、制限速度は時速25キロ。これがものすごく厳しいのだ。

曲がりくねった幅の狭い峠の旧道では、周囲のクルマのスピードも時速40キロそこそこ。ところが、市街地の国道は60キロも当たり前、バイパスなら70キロオーバーのクルマも珍しくない。

この速度差を体感的にいえば、立ち止まっている自分の30cm横を、50キロのクルマが通り過ぎるような恐怖感をしょっちゅう味わうことになるのだ。あのー皆さん、この区間の指定速度は時速50キロなんですけど......(涙)。

容赦なくスレスレの距離を猛スピードで通り過ぎるトラックや自家用車、こちらの進路に覆いかぶさるようにバス停に突っ込んでくる路線バス。定時運行の大切さはわかるけど、バスの運転手さん、本当にサイドミラー見てます?

その上、エンジンのない電動バイクは走行音がほぼゼロ。こちらに気づくのが遅れたほかのドライバーに、「うわっ、いたのかよ!?」と驚いた顔をされたのは一度や二度ではない。

今回使用した電動バイク「スーパーワーク」は、シャリシャリという疑似走行音が出る仕様になっているが、いっそ異常接近時には「ピピピ!」とわかりやすい警告音が出るようにしたほうがいいと思う。

せっかく峠が終わったのに、危険回避の急ブレーキや、信号でのストップ&ゴーが多く節電運転が難しい。三重県「亀山宿」「庄野宿」「石薬師(いしやくし)宿」とクリアし、四日市宿」の手前でついにバッテリー切れ寸前となった。

三重県亀山市の「亀山宿」。鎌倉時代につくられ、「粉蝶城」と称された美しい亀山城の城下町としてかつては栄えた。明治維新後の廃城令で取り壊されたが、現在も城跡が残っており、三重県の文化財(史跡)に指定されている
三重県亀山市の「亀山宿」。鎌倉時代につくられ、「粉蝶城」と称された美しい亀山城の城下町としてかつては栄えた。明治維新後の廃城令で取り壊されたが、現在も城跡が残っており、三重県の文化財(史跡)に指定されている

三重県四日市市の「四日市宿」。江戸幕府の直轄領として代官所が置かれた宿場。写真は宿場近くの「日永の追分」(分岐点)の先にある「名残りの一本松」
三重県四日市市の「四日市宿」。江戸幕府の直轄領として代官所が置かれた宿場。写真は宿場近くの「日永の追分」(分岐点)の先にある「名残りの一本松」

■"名古屋走り"はマジで実在した(体感)

しかし困った。土地が余っている郊外や山間部では、どこでも気軽にソーラーパネルを広げて充電可能だったが、路側帯の狭い市街地の国道沿いでそんなマネをしていたら、命がいくつあっても足りない。

運よく駐車場の広いホームセンターでも発見できれば安心して充電できるが、地価の高い都市部になればなるほど、そんなスペースは減ってくる。

今回は太陽光発電のみという縛りがあるが、それを抜きにしても、充電スポットの確保という問題は電動バイクの普及に向けた一番大きな壁だと思う。EV(電気自動車)ならディーラー道の駅高速道路のSAなど各地に24時間利用可能な充電スポットがあるが、電動バイクはその整備が完全に遅れている。

普及のためにはまずホンダヤマハなど大手バイクメーカーが率先して、自社の販売店に充電スポットをつくるべきだろう。自動車より航続距離の短いバイクは、より頻繁に充電が必要なのだから。

ここから先、かつて七里(しちり)の渡しがあった「桑名宿」を越えて愛知県「宮宿」まで行くとなると、距離は約40km。フル充電が必要だ。しかし、今日はすでに日没。明日の日の出から充電できる場所を探してバイクを押しながらさまよい続け、ようやく駐車場が広く日当たりのよさそうなネットカフェを発見した。

近くのコンビニや24時間書店でひたすら時間をつぶし、夜明け直後の5時にソーラーパネルを広げてからネットカフェに入店。もちろん店の人には許可を得ているが、念のため電池切れ充電中! 連絡先090-××××-××××」と書いたホワイトボードをバイクにつるした。

都市部ではソーラーパネルを広げて充電できる場所を探すのがとにかく大変。バイクに電話番号を書いたホワイトボードをつるしておく
都市部ではソーラーパネルを広げて充電できる場所を探すのがとにかく大変。バイクに電話番号を書いたホワイトボードをつるしておく

ダニを気にせず安心して横になれるのはありがたいが(苦笑)、それにしても8時間の充電は長い......。6時間パック+延長2時間、マンガ『キングダム』を1巻~26巻まで読み終えたところでようやくフル充電が完了した。

国道1号線を走り始め、愛知県との県境に近づくにつれ、執拗(しつよう)なクルマの割り込みや幅寄せ運転が増える。こ、これが噂の"名古屋走り"なのか......!?

交通事故死者数が16年連続全国ワーストの愛知県。ドライバーのマナーの悪さが報道でもたびたび指摘されているが、確かに地元ドライバーの皆さんはどうも待つのが苦手らしい(苦笑)。

こちらのスピードが遅いのも事実だが、先頭で信号待ちしていても、その前にクルマの鼻先をグイグイ突っ込んでくる。スタートダッシュは譲れないのか、横の信号が黄色になるともうジワジワと交差点内に何台か進み始め、青信号でこちらが発車したときには、なぜか4台目になっていた。これでよく事故が起こらないものだ(いや、起こってるから事故死が多いんだけど)。

■うなぎで回復、快調に飛ばす(25キロで)

途中のニトリの駐車場で補充電を行ない、どうにか宮宿に到着。どうしてもひつまぶしを食べたかった名店「あつた蓬莱(ほうらい)軒」の行列に並び、待つこと20分、明治6年創業という老舗料亭の趣ある店内に案内される。や、やっとまともなメシだ......(感涙)。

疲れた体にうなぎの香りが染み渡る。テーブルにセットが届くやいなや、一気にひつまぶしを胃袋にかき込んでしまった。

「すみませーん、追加でうな丼くださーい!」

甘いタレがからんだふわふわのうなぎは、今も昔も旅人の疲れを癒やしてくれる。2杯分のうなぎライダーの充電も完了だ!

愛知県名古屋市熱田区の「宮宿」。かつて伊勢湾を海路でつないだ「七里の渡し」の東側に当たり、五十三次でも最大の宿場だった。現在は「あつた蓬莱軒」のひつまぶしが有名
愛知県名古屋市熱田区の「宮宿」。かつて伊勢湾を海路でつないだ「七里の渡し」の東側に当たり、五十三次でも最大の宿場だった。現在は「あつた蓬莱軒」のひつまぶしが有名

次の「鳴海(なるみ)宿」でこの日は走行終了となり、翌朝5時、例によって日の出とともに充電開始。午後1時にフル充電状態でバイクをスタートさせ、「池鯉鮒(ちりゅう)宿」「岡崎宿」「藤川宿」と進んだところで遅い昼食。「道の駅藤川宿」で、しらす丼のセットと地元キャラを起用した「オカザえもんさいダー」をいただいた。普通のサイダーだったけど。

愛知県岡崎市の「藤川宿」。脇本陣門・石垣・家並みが残っており、道の駅や資料館が整備され、国土交通省により「歴史国道」にも選定されている。徳川家康公生誕の地としても有名
愛知県岡崎市の「藤川宿」。脇本陣門・石垣・家並みが残っており、道の駅や資料館が整備され、国土交通省により「歴史国道」にも選定されている。徳川家康公生誕の地としても有名

 「道の駅 藤川宿」で食べたしらす丼。とれたての釜揚げしらすがおいしくないわけがない。土産物も充実しておりオススメの休憩スポット
道の駅 藤川宿」で食べたしらす丼。とれたての釜揚げしらすがおいしくないわけがない。土産物も充実しておりオススメの休憩スポット

2時間の補充電を終え、もうひと走りして「赤坂宿」に到着。今日はここまでだ。

翌日の夜明けから充電完了まで、赤坂宿を散策する。なんと2015年まで営業していたという本陣の「大橋屋」は、修復された建物を無料で内覧できる。間口が狭く奥行きが広い典型的な当時の宿場町の宿のスタイル。

多くの宿場町では焼失や老朽化により本陣跡などの石碑しか残っていないなか、これは貴重な民俗資料だ。例えば天井や敷居の低さひとつとっても、当時の人々の身長をうかがい知ることができる。

天気は快晴、昼過ぎにスタート! 「御油(ごゆ)宿」「吉田宿」「二川(ふたがわ)宿」とクリアして県境を越え、静岡県に突入。さらに「白須賀(しらすか)宿」「新居(あらい)宿」「舞坂(まいさか)宿」浜名湖沿岸を進んで、「浜松宿」に到着した。距離でいえば、いよいよ旅の折り返し点だ。

静岡県浜松市の「浜松宿」。かつて浜松城の城下町として繁栄し、距離的にちょうど東海道五十三次の中間地点に当たる大きな宿場町でもあった。現在も県内最大の都市・浜松市の中心街
静岡県浜松市の「浜松宿」。かつて浜松城の城下町として繁栄し、距離的にちょうど東海道五十三次の中間地点に当たる大きな宿場町でもあった。現在も県内最大の都市・浜松市の中心街

充電できそうなネットカフェを見つけ、夜明けとともにパネルをセットして入店。『キングダム』の続き、27巻~最新の54巻まで読破できた。今なら中華を余裕で統一できそうな気がする。

しかし、この先には大井川、そして箱根の山越えという大きな難所が待つ。しかも明日の天気予報は「くもりのち雨」。なんだかイヤな予感が......。

■次回「第5回 静岡・見附宿⇒ 神奈川・箱根宿」は7月20日(土)配信予定

取材・文・撮影・孤軍奮闘/近兼拓史

今回の電動バイクは原付扱い。濡らしたくない電気機器類を入れたトレーラーを牽引しているため、制限速度は時速25キロ