オフサイド、ゴールと判定が二転三転 横浜FM対浦和で起きた判定を巡る混乱

 10分間近くも観客は蚊帳の外だった。

 J1リーグ第19節の横浜F・マリノス浦和レッズ、後半14分のシーンである。左サイドからペナルティーエリア内に侵入した遠藤渓太の速いクロスに、仲川輝人が合わせに行き、その前で必死にカバーに戻った浦和の宇賀神友弥が対応する。結果的にボールはゴールネットを揺するのだが、率直にビデオで見直しても、最終的にボールが当たったのが仲川なのか、宇賀神なのかは判別が困難だった。

 ただし仲川なら明らかにオフサイド、しかもハンドのようにも見え、宇賀神ならオウンゴールになる。松尾一主審は、最初はゴールの判定を下したが、しばらくして浦和のFKに覆し、再びゴールの判定に戻るという前代未聞の混乱を招いた。

 1986年メキシコワールドカップで、イングランドのGKピーター・シルトンに競り勝つ形で奪ったディエゴ・マラドーナが、ジャンプして拳で押し込んだゴールは「神の手」によるものと伝説化されたが、横浜FM対浦和のこのシーンも“神”でもなければ正確な判定は不可能だったに違いない。実際、試合後に3-1で勝利したアンジェ・ポステコグルー監督は、松尾主審とのやり取りについては「個人的なものだから」と言明を避け、「レフェリーは難しい仕事を強いられた」とコメントするに止めた。

 一方、浦和の大槻毅監督は、明らかに怒りを溜め込み、だからこそ敢えて多くを語らないように努めている様子だった。

「僕が喋ると僕の主観になる。ピッチ上のことは、テレビを見て判断するのではないので、コメントを控えさせて頂きます」

 さらに会見場を後にする時には、「質問にきちんと答えずすいませんでした」と残した。

 結局重要なポイントは、大槻監督のコメントから滲み出ていた。約10分間も両軍が入り乱れての抗議が続けば、なんらかの形で主審の耳にも真実が伝わってくる。だが主審は、2次情報から判定を覆すわけにはいかない。おそらく最終的には、誤審の非を覚悟のうえで、最初の肉眼での判断という正義を貫いた。大槻監督も「誤審」の真実を知りながら「あそこまでボールを運ばせた」自分の采配の非を口にした。

問題のシーンは大型ビジョンで一度も映し出されず

 しかしこの間、スタジアムの大型ビジョンには、問題のシーンが一度も映し出されることはなく、これだけの混乱があったにもかかわらず、主審もマッチコミッショナーも何もコメントを残していない。後味の悪い思いを引きずりながら帰途に着いたのは、お金を払って観戦した両チームのファンである。

 主審が神でないことは、誰でも知っている。一方で主審の判断については、多くのファンが知りたがっている。例えば、家本政明主審がインターネットで語れば、怖いもの見たさもあるだろうが、圧倒的な関心を集めるそうだ。

 日本では伝統的に、隠すことが守ることだと考えられてきた。しかし真実を明らかにしなければ物事は前進していかない。

 Jリーグは微妙な判定のシーンを大型ビジョンで一切流さない。この日の日産スタジアムでも、PKを決めるシーンは映し出しても、PKにつながるファウルは避けている。それは微妙だからこそ、飽きるほど繰り返す欧州や南米の志向とは明らかに逆行している。

 当然ながら、この日の審判団は、浦和サポーターから大ブーイングを浴びて退場した。だがこれが南米なら、レフェリーがピッチを去る前にアナウンサーがマイクを向けているだろう。またレフェリーもモニターで確認してから、誤りを認めることがあるそうだ。

 今回の判定は、間違えても仕方がないケースだったと思う。だからこそ、なぜこういう事態に陥ったのかを、Jリーグはしっかりとファンに伝える責務がある。それが本当のファンサービスだと思う。(加部 究 / Kiwamu Kabe)

横浜FM×浦和の一戦は10分間の試合中断という異例の事態に【写真:Getty Images】