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米国カリフォルニア州サンディエゴに住むコンチェッタ・アンティコさんは、印象派の形式で絵画を制作するアーティストだ。

彼女は普通の人とは物の見え方がちょっと違う。なんと、通常の人の100倍も多く色を識別できるのだ。

彼女の目に映る木の葉には、緑だけとはかぎらず、その縁はオレンジ色、影の部分は赤や紫…というように、さまざまな色がひしめき合っている。彼女はこれを「色彩のモザイク」と呼んでいる。

一体彼女の体の中で何が起こっているのだろうか?

こうした特性は、通常の人が見ることのできる3原色よりも1色多い4原色を見ることができる4色型色覚を持つことで生じる。

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通常、色(光の波長)に敏感に反応する錐体細胞が、通常は長波長(黄色周辺)に反応する赤錐体、中波長(黄緑周辺)に反応する緑錐体、短波長(青周辺)に反応する青錐体の3種類が存在する。ところが、4色型色覚を持つ人は、4種類の錐体細胞を有する。

このため、100万色を見ることができる通常の人に対して、コンチェッタさんはその100倍に相当する1億色もの色を見ることができるというわけだ。

「一体どんな世界が見えているんだろう?」と驚きと興味を隠しきれないが、本当に驚いているのは当の本人だ。

「周りの人たちにはそれほど少しの色しか見えていないなんて、とてもショックです」と語る。

正体はX染色体の突然変異

4色型色覚を持つ人は、錐体細胞の数が多いとはいえ、脳の伝達の仕方は通常の人と変わらない。でも、脳は一体どうやってそれほど多くの色が見えるように変化するのだろうか?

科学者たちは長い間、4色型色覚の存在に確信が持てずにいた。そして、もし存在するとすれば、2つのX染色体を持つ女性だけに起きる可能性があると推測していた。

3色型色覚を持つ通常の人の錐体細胞は、男性が1本、女性が2本持つX染色体に接続している。このX染色体に突然変異が生じることで、認識できる色が増えたり、減ったりするのだ。このため、X染色体を1本しか持たない男性はX染色体を2本持つ女性に比べると、先天性色盲を有する確率が高い。

とするならば、女性の遺伝子は2本のX染色体を持つため、その両方が突然変異を起こしていた場合、4色型色覚が生じるというわけだ。

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コンチェッタさんのケースは、まさにそれだった。4色型色覚を持つ人の割合は100人に1人に上ると言われているが、その実態は解明しきれていない。3色型色覚と4色型色覚との違いは、色盲との違いほど劇的ではなく、検出されにくいからだ。

コンチェッタさんの遺伝子を調べたカリフォルニア大学アーバイン校とネバダ大学リノ校の研究チームは、彼女が持つ4つ目の錐体細胞が、「赤やオレンジ色を帯びた黄色」の波長を吸収していることを突き止めた。

ただし、検査に用いられた測定方法は現行の3色型色覚までに対応していないため、4色型色覚の実態を把握するには不十分だという。研究チームは、4色型色覚を持つ人の脳の働きを理解するため、現在さらに多くの4色型色覚を持つ協力者を募っているところだ。

トレーニングがもたらす脳の変化

網膜に余分な錐体細胞を持つことは、網膜から出された信号が形になる仕組みをかなり複雑にする。そしてこのことは、これらの信号を繰り返し受け取る脳の接続にも大きく影響する。このように、外界の刺激などによって機能的・構造的な変化を起こす神経系の性質を「神経の可塑性」と呼ぶ。

たとえば、同程度の視覚を持つ2人の個人であっても、人生の初期にさらされた経験に基づいて、人生の後期にそれぞれの視覚は大きく異なる。その原因は明確に分かっていないが、神経システムが信号の使い方を学習する、つまり神経接続が情報を大脳皮質が使えるようにコード化しているからではないかと、研究チームは推測している。

Rainbow Gully, Mission Hills, SD” / Credit: ConcettaAntico.com

世の中に4色型色覚を持つ人々は数多く存在すれど、彼ら全員が、コンチェッタさんのように特殊な色の認識の仕方をするわけではない。これらの色に注意を向けようと、脳のトレーニングを行っているわけではないからだ。

コンチェッタさんの場合は例外だった。5歳の時点で、自分は周囲と何かが違うと感じ始め、7歳で絵を描きはじめたころには色彩の虜になったのだそうだ。絵を描くことで十分な訓練を受けた彼女の脳は、4色型色覚という特性を有利に活かすよう接続されていったのだ。

「特性を活かしたい」 コンチェッタさんの想いとは

コンチェッタさんには現在12歳になる娘がいるが、5年前に彼女は我が子が色盲であることを知った。これは、コンチェッタさんの突然変異を起こしたX染色体の一方が娘に遺伝したためだ。

「4色型色覚を持つ私が調査に協力することで、色盲の人々の助けになれば」と、コンチェッタさんは自らの個人的事情もあって、進んで調査対象になっている。

一方で、プロの画家として20年以上絵画を教えてきたコンチェッタさんは、色盲の生徒への指導方法につまづくこともよくある。でも、彼らの作品を目にした研究チームは、彼らの色の認識の仕方が、他の色盲の人と大きく異なることに驚いたという。

早い段階から色の違いに対応するように脳を調律したことで、コンチェッタさんは色盲の人々に脳を調律する手助けをする方法を自然に身に着けた可能性がある。研究チームは今後、トレーニングを通じての色覚の向上に関しても調べたいと考えている。

“The Cat’s Meow” / Credit: ConcettaAntico.com

また、コンチェッタさんの方も、ゆくゆくは色盲の人向けのアートスクールの開校と、自分が4色型色覚であるかどうかを診断できるオンラインプラットフォームの開設を希望している。コンチェッタさんの活動は、同じ特性を持つ人々の道しるべとなりそうだ。

興味がある方は、コンチェッタさんのウェブサイトを覗いてみてはどうだろう?

きっと、あふれんばかりの色彩のモザイクに圧倒されるはずだ。

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reference: popsci / written by まりえってぃ
常人の100倍「色の数」が見える女性