(数多 久遠:小説家・軍事評論家)

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 参議院選挙7月21日に迫っています。日本の将来を左右する選挙であり、国会の勢力図がどう変わるのか結果はもちろん気になります。その一方、近年の選挙動向を踏まえ、議席数以外にも気になっていることがあります。それは、60歳を境に年代ごとに投票結果が異なっているという事実です。

 つまり50代以下では保守傾向が強く、60代以上では革新傾向が強くなっていることです。

 この現象は2018年9月の沖縄知事選挙でも注目されましたが、全国的にも同様の傾向が見られます。2016年に選挙権年齢の引き下げが行われた頃にも、この傾向が報道されていました。

 今回の参議院選挙では、この世代間傾向の差異がどのように現われてくるでしょうか?

大きく低下したマスコミの信頼

 それを占うためには、なぜ世代間で傾向が異なるのかを考えてみる必要があります。

 一部の識者は、この原因がネットにあると主張しています。従来、日本人が政治について考える場合、ほとんどの人がマスコミの流す情報に全面的に依拠していました。しかし、ネットの普及に伴い、今やテレビを持たず、新聞を読まず、ラジオも聞かない人が増えています。そこまで極端ではなくとも、情報収集の手段は従来のマスコミではなくネットが中心という人は大勢いることでしょう。

 私も、この論には賛成です。ネット時代になってから、従来のマスコミの信頼は大きく低下しました。例えば慰安婦問題などが、朝日新聞による誤報が発端として広まったことは衆知の事実です。また、朝日がそのことについて謝罪したネット上のお詫び記事には、検索にかからないようにするためのメタタグが隠されていたことなども明らかになっています。そうしたことからネット上では、マスコミ(特に左派系マスコミ)は信用できないという意見が数多く見られます。

 しかし、「ネットが普及したから」という理由だけでは、世代間傾向が異なる説明にはなりません。ネットが影響しているとしても、どうして60歳を境に傾向が異なるのか? 

 60代後半~70代の人に関しては、「団塊の世代」の特徴な傾向といえるかもしれません。また仕事をリタイアすることが原因ということも考えられます。少子高齢化が進む日本では、今後リタイアした人が大きな割合を占めていきます。すると、革新傾向の人が増え、革新勢力の再興が起きる可能性があります。

デジタルデバイドが世代間断絶と関係?

 しかし、私は別のところにもっと大きな原因があるのではないかと考えています。

 “ネット時代の世代間の断絶”から思い起こされるシンプルなキーワードがあります。それは「デジタルデバイド」です。

 ネットが爆発的に普及してからは耳にすることが少なくなりましたので、若い人は知らないかもしれません。「デジタルデバイド」は、アメリカ副大統領であったアル・ゴアが初めて使った言葉と言われています。日本では、2000年の沖縄サミットを契機として盛んに使われるようになりました。

 日本でインターネットが急速に普及し始めたのはちょうどその頃でした。1999年に21.4%しかなかったネットの人口普及率は、2000年には37.1%となり、2005年には70.8%、2010年には78.2%まで増加しました。つまり、日本では2000年頃を境にネットが急速に普及し、ネットに触れられる人と、ネットに触れることのできない人の間に、断絶が生じたのです。

 このデジタルデバイドが、現在の政治における世代間断絶と関係しているのではないか、というのが私の仮説です。

ネットで情報収集する人は保守傾向に?

 現在60代の方々は、2000年頃、40代でした。40歳は不惑の年と言われます。孔子をして惑わなくなる年ですが、言い方を変えれば、新たなモノを受け入れる能力が失われ、惑えなくなる年でもあります。

 当時、デジタルが普及しても「オジサンにはついて行けないよ」などと言って、コンピューターの習熟を拒否した年代であるとも言えます(もちろん例外は多数おりますが)。昨年(2018年)、経団連会長がパソコンを使い始めたというニュースが注目を集め騒然としたり、サイバーセキュリティ担当大臣がパソコンに触ったことがないという驚愕の事実が報じられたのも、この一端でしょう。

 ネットからの情報収集ができない人は、情報収集をもっぱら従来のマスコミに頼り、その結果、革新傾向が強くなった。一方、デジタル対応できた人、平成生れのデジタルネイティブは、ネットを主軸として情報収集した結果、保守傾向が強くなったのではないか──。

 もし、この仮説が正しければ、年を経るごとに、政治的断絶はより高い年齢を境に現われることになるでしょう。つまり、現在の保守、もっと言えば自民一強がより顕著になる可能性があります。

 調査が、60代、70代という大まかな区切りでしかないため、今回の選挙でも、劇的にその結果が現われることはないでしょう。ですが、従来の選挙と比べれば、60代は革新支持者が多いとはいえ、保守支持者が増えてより拮抗に近づき、70代以上は変わらず強い革新傾向を示すと思われます。

 選挙結果、そして出口調査による世代別の投票政党がどうなるのか、非常に楽しみです。

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