Credit: University of Glasgow

Point

■世界で初めて「量子もつれ」の様子を捉えた写真の撮影に成功した

■「量子もつれ」の状態では、2つの粒子が不可分につながっており、片方への影響が即座にもう一方へと及ぶ

■装置によって「量子もつれ」状態が作り出された2つの光子は、別の道をたどった後に同じタイミングで撮影されたが、1つの状態を共有していた

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かつてアインシュタインが「不気味な遠隔作用」と述べた「量子もつれ」現象。

遠く離れた2つの粒子が何の媒介も無いのに「同期」して振る舞う、アインシュタイン特殊相対性理論に反している現象とされている。

「何がなんだか…」といった感じだが、とにかく一般人だけでなくアインシュタインの直観にも反していた不思議な現象なのだ。

しかし今回、世界で初めて「量子もつれ」現象の様子を捉えた写真が公開された。

研究はスコットランドのグラスゴー大学の物理学者らによって発表され、論文は「Science Advances」に掲載されている。

Imaging Bell-type nonlocal behavior
https://advances.sciencemag.org/content/5/7/eaaw2563

物理状態を共有する運命のペア

これはただのぼやけた白黒写真ではない。

量子コンピューティングなどの基礎理論となる、直観的には理解し難い量子力学を実証するような「粒子の相互作用」を捉えたものであるからだ。

「量子もつれ」の状態では、2つの粒子が不可分につながっており、片方への影響が即座にもう一方へと及ぶ。そしてその相互作用は、たとえそれらの粒子の間にどれほどの距離があろうと実現される。たとえ銀河の端から端でも、だ。

このふるまいこそが、アインシュタインに「不気味だ」といわしめた遠隔作用である。

Credit: pixabay

公開された写真は、2つの光子の間の量子もつれを示すものだ。2つの光子が相互に作用して一瞬にして1つの物理状態を共有している。

この写真を撮るために、研究チームは量子もつれを起こす光子を生み出す装置を開発した。この装置を通過するときに光子は自らともつれ合う“片割れ光子”を発見し、超高感度カメラがその状態を撮影するのだ。

撮影された光子のペアは、4度イメージが捉えられ、そのたびに異なる位相に推移していることが分かる。

Credit: Moreau et al., Science Advances, 2019

カメラが捉えた「量子もつれ」

量子もつれを起こした光子は、「β-Barium Borate(メタホウ酸バリウム)」と呼ばれる液晶を介することで、こうした4つの位相の推移を引き起こした。

さらにチームは、そのペアが液晶を通過させない場合でも同じ位相の推移を実現させ、その画像を捉えることに成功した。

実験に用いられた装置は以下のようなものだ。

Credit: Moreau et al., Science Advances, 2019

図の左下から発射された量子もつれ状態の光子のペアは2つに分かれ、1つは左に向かい4つのフィルターを通過する。そして“片割れ”はまっすぐに進み、フィルターを通過しないが、フィルターを通過した“片割れ”と同じフェーズの推移をみせた。

シャッターが切られたタイミングは同時である。そして別方向に進んだ2つの光子が、同じタイミングで同じふるまいをみせていた。つまり、これこそが「量子もつれ」に他ならないのだ。

Credit: Science Advances

アインシュタイン特殊相対性理論に反していると主張して有名となった量子もつれは、後に物理学者ジョン・ベルが「ベルの不等式」を確立することによりその存在が確認されるようになった。

ただでさえ直感で理解しにくい「量子もつれ」という現象を、初めて写真に捉えたこの研究の功績は大きい。チームは、この研究が特に量子コンピューターの分野に大きく貢献する可能性があると述べている。

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reference: sciencealert / written by なかしー
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