(筆坂 秀世:元参議院議員、政治評論家)

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 7月に2冊の本の出版にこぎつけた。1冊は『日本共産党の最新レトリック』(産経新聞出版)、もう1冊は『大手メディアがなぜか触れない 日本共産党と野党の大問題』(清談社)である。後者は多くの著作を発表し、メディアでも大活躍中の経済評論家上念司氏との共著である。

韓国の行為を正そうとしない日本の政治家

 自分ではタイムリーな出版だったと思っている。いま日韓関係が悪化している。昨年(2018年)12月には、能登半島沖の日本海において韓国海軍の駆逐艦が、海上自衛隊P-1哨戒機に対して火器管制レーダー(射撃管制用レーダー)を照射するという事件が発生し、日本側が厳しく抗議をした。だが、韓国側の言い分は二転三転し、説得力ある反論はできなかった。火器管制レーダーの照射は、通常、火器の使用に先立って実施する極めて危険な行為である。

 日本企業への賠償を命じたいわゆる徴用工判決。これも日韓請求権協定(1965年)を蔑ろにするものである。さらには慰安婦問題での日韓合意を踏みにじった「和解・癒やし財団」の解散等々、文在寅政権誕生後の韓国に日本への行いは度し難いものであった。

 真に日韓友好と考えるのであれば、日本の政治家はこれら一連の韓国の行為について、その間違いを率直に指摘することを避けてはならない。

 だが、日本共産党や野党は、なぜかほとんどの場合、文在寅政権の対応に賛成してきた。2冊の著書でも述べたことだが、日本共産党慰安婦問題でも徴用工判決でも“安倍政権の対応では駄目”と言い続けて、文在寅政権と同様に日韓関係を壊しているだけなのである。2冊の本では、こうした問題にも詳しく言及しているので大いに参考にしてもらいたい。

韓国の研究員の興味深いインタビュー

 産経新聞7月13日付)に韓国・落星台(ナクソンデ)研究所の李宇衍(イ・ウヨン)研究員のインタビューが掲載されている。この内容が大変興味深かった。

 徴用工や朝鮮半島出身労働者の賃金体系や労働状況を研究してきた李氏は、その結果を踏まえて、7月2日、ジュネーブの国連欧州本部で行われたシンポジウムで「賃金の民族差別はなかった」と発表した。それだけではなく、同氏は貴重な発言を行っている。すでに産経新聞に掲載されたものだが、そのいくつかを引用して紹介したい。

 日韓関係が最悪になっているのは、「徴用工訴訟で日本企業に賠償を命じた韓国最高裁の判決と、文在寅政権が判決を尊重し日本に履行を求めたことが原因だ」と実に明解である。続けて「韓日請求権協定は両国関係の原則であり、この約束は守らなければならない」と述べている。

「徴用工問題で事実と違う情報が一般化しているのはなぜか」という質問には、「90年以上前に日本の新聞に掲載された韓国人ではない人物の写真が、韓国の教科書や博物館、メディアに『強制労役に動員されるわが民族』として出た。韓国人はその出所も知らず、『強制連行』や『奴隷労働』と認識している。当時の朝鮮人労働者は収容所で暮らしたのではない。賃金や待遇の差別はなかった」と答えている。これは研究者の貴重な証言と言うべきだろう。

「こうした誤りはなぜ起きるのか」という質問への回答も、なるほどと思う説得力のあるものだった。李氏は次のような要因を挙げる。「研究者やジャーナリスト、日本の知識人のゆがんだ歴史観が影響している」「日本の学会や知識人は、われわれが望みもしない同情心を持っている。そのため、韓国人が韓日の歴史をめぐり食い違った主張をしても、黙って聞いている。問題が深刻化した原因でもある」。確かにかつて、李氏が指摘するような日本の知識人は、「進歩的知識人」とか「良心的知識人」と呼ばれた。ほとんどすべてが左派陣営に属する知識人であった。

 また鳩山由紀夫元首相が訪韓し謝罪していることについても、「韓日関係のためにはならない」「問題の解決どころか、深刻化させている」と手厳しい批判を行っている。日本共産党や野党は、この李氏の言葉にこそ耳を傾けるべきであろう。

日本共産党の最新レトリック』でも書いたが、2014年10月に志位和夫委員長が訪韓し、高麗大学で講演した際、参加者から「東京で日本共産党が中心になって、少女の像(慰安婦像)を建てることはあるのか」と問われ、「像が建てられることがないような政治にしていきたい」と媚びを売るような回答をしたことがあった。こんな馬鹿げた質問を一喝することもできないのだ。李氏が指摘するとおりで、こんなことで日韓の友好関係など築けるはずがない。

輸出管理の強化は当然のこと

 文在寅政権になって、日韓の協定や合意が次々と踏みにじられてきた。徴用工問題は、半世紀も前の日韓請求権協定で解決済みである。この協定が締結された際には、「個人への補償は韓国政府が行うので、その資金を一括して支払うこと」を韓国側が日本に要求してきた。そこで、日本は3億ドル無償資金を提供した。2005年に公開された韓国の外交文書でも、個人に対する補償義務は「韓国政府が負う」と明言していたことが明らかになっている。

 これほど明確な二国間協定を平気で無視するような政府というのは、本来ならまともに相手にする相手ではない。

 慰安婦問題も同様である。2015年12月、日本の岸田文雄外相、韓国の尹炳世外交部長官(いずれも当時)が解決の中身を共同記者発表した。岸田外相の発表では、「日本政府は、これまでも本問題に真摯に取り組んできたところ、その経験に立って、今般、日本政府の予算により、全ての元慰安婦の方々の心の傷を癒やす措置を講じる。具体的には、韓国政府が、元慰安婦の方々の支援を目的とした財団を設立し、これに日本政府の予算で資金を一括で拠出し、日韓両政府が協力し、全ての元慰安婦の方々の名誉と尊厳の回復、心の傷の癒やしのための事業を行うこととする」「今回の発表により、この問題が最終的かつ不可逆的に解決されることを確認する」と述べられていた。

 尹長官の発表にも、「この問題が最終的かつ不可逆的に解決されることを確認する。韓国政府は、日本政府の実施する措置に協力する」と述べられていた。

 この合意に基づいて、「和解・癒やし財団」が作られ、日本は10億円を拠出してきた。それをすべて反故にするというのである。韓国とどんな約束を行っても無意味だということだ。約束は破るためにあるようなものなのだ。

「特別に信頼できる相手」ではなくなった韓国政府

 日本政府が韓国をホワイト国から除外し、スマートフォンのディスプレイなどに用いるフッ化ポリイミド、半導体基板に塗るレジスト(感光剤)、半導体洗浄に用いるフッ化水素の3品目について、輸出管理を強化する方針を打ち出した。

 この措置に踏み切った理由として、政府は「安全保障上の脅威による輸出管理の見直し」と主張している。韓国から不正輸出がなされ、企業が摘発される事例が多発していることは事実のようである。

経済産業省の元貿易管理部長、細川昌彦中部大特任教授によれば、『ホワイト国』は本来、『特別に信頼できる相手についてのみ』適用される」(7月2日産経新聞)ものだという。不正輸出の事実や貿易管理がずさんであれば、ホワイト国指定から除外されても仕方がないということだ。

 ましてやいまの韓国の政権が「特別に信頼できる相手」とは到底思えない。韓国側は「報復だ」と非難しているようだが、報復をされても仕方がない、という認識が韓国にはあるからこそ、こういう反応になるのだろう。

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