総務省7月10日に発表した住民基本台帳に基づく人口動態調査によれば、2019年1月1日時点での日本国内の日本人は1億2477万6364人とのこと。

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 これは前年からの人口減として過去最大で43万3239人の人口減であることが伝えられました。

 ちなみに日本国内の外国人は16万9543人増えて266万7199人、初めて全人口の2%を超えたと報じられています。

 もとより推定値であり、さらに半年が経過していますから、ざっくり言って「2018年の1年間で、日本人は過去最大の約44万人、人口が減っており、その分を補うように約17万人、国外から流入があった。差し引きすれば27万人ほど減っている」ことになります。

 これに先立って、昨年の日本人の出生数も約92万人と過去最少で、2016年以降100万人の大台を割り込み続けている出生率は90万人を割るのも時間の問題かもしれません。

 今回の調査では、初めて3大都市圏でも人口が減少、首都圏での微増を上回って名古屋中京圏と関西圏の人口減が上回り、実質的に都市でも正味の人口減少、結果的に首都圏一極集中の度合いが著しくなっている・・・。

 ざっと、こんな報道がなされているかと思います。

 政府は人口減を「国難」と位置づけ、対策を立てているかと思いますが、結果が出ていればこういうことにはならないでしょう。

 また、先入観を戒め、自然科学的、客観的に推移を観察するなら、日本の人口減少は度合いが激しくなっており、よほど本質的な変化がないかぎり、このまま減少の一途をたどることでしょう。

 政府は経済政策の一環として人口問題を掲げています。しかし、この旗印に科学的な根拠があるとは言えそうにありません。

 むしろ逆の方向に進む見通しが、サイエンティフィックにはほぼ確定しているのではないでしょうか。これが本稿の趣旨にほかなりません。

 日本人はもう増えない。今後は人口は減る一方である・・・という現実的な可能性を見据えて、立国の基本を考え直す必要があると思います。

 別段「日本人が滅亡する」などと予言しているわけではありません。ただ客観的な事実が示すものがある。

「人口は減っている」

 客観的に明らかなわけですが、さらに「過去最大の減少率」であるというのは「年を追うごとに人口減の割合が増えている」つまり、スピードそのものが加速している、人口減少の「加速度」が増加していることを示します。

 仮に「力学系」という数理の考え方でこうしたデータの推移を見るなら「加速度」が増加しているということは何らかの「力の場」を仮定して、現象を観察することが可能です。

 ニュートンの第2法則「運動する物体の加速度は、それに働く力に比例する」を思い出していただければと思います。

 言ってみれば、すり鉢のそこに落ちてゆくように、蟻地獄の罠にかかるように、水が高きから低きに向かって流れ落ちて行くように、「日本は現在、少子高齢化の力の場、ポテンシャルの井戸に落ち込み続けている」わけです。

 これを正面からとらえ、枝葉末節ではない本質的な対策を立てない限り、小手先の対策で人口が増えたり、出生率が上昇したりすることは、期待すること自体が不自然と思われます。

 データの挙動から想定可能な、仮想的な「原因」に変化がない限り、普通に激減すると考えざるを得ません。

 それを「長期指標」という観点から、構造的に跡づけてみたいと思います。

人口減少の構造要因

 かつて、20世紀後半には「地球上の人口爆発によって資源や食料が不足する」という警鐘が、真顔で鳴らされたものでした。

 代表的なのは1972年ローマクラブ」が発表した報告書「成長の限界」でしょう。

 人口は鼠算式に増えるけれど。食料や資源はそんなに簡単に増産できないから、21世紀には成長の限界が来るだろう、という古典的なマルサスの人口論をもとに、先進国の知的リーダーたちは大真面目で議論していた。

 筆者自身は子供時代、そういうものか、と思っていました。

 具体的な政策としては、1979年に始まった中華人民共和国の「一人っ子政策」を挙げることができます。

 中国語では「計画生育政策」と呼ばれ、夫婦一組に対して子供を1人に制限するというもので、単純計算すれば、両親2人を子供1人に制限する、50%の人口抑制策ということになります。

 中国が一人っ子政策を宣言した1979年、筆者は中学3年でしたが、次にお話しする丙午(ひのえうま)との関連で「ベビーブーム」という言葉を強く意識したのをよく覚えています。

 中国の人口政策は混乱と大量死・大量出生を繰り返す凄まじいものですが、2016年に至って、やっと「二人っ子政策」に緩和されました。

 二人っ子、つまり夫婦1組に対して子供2人とは、現状を維持する政策であって、いまだ人口減への対策とは程遠いといわねばなりません。

丙午とベビーブーム

 これはそもそもは日本の迷信にすぎませんが、1966年は午年、しかも十干十二支でいう「ひのえうま」にあたる年で、子供の数が少なかったんですね。

 その学年が中学1年に入ってきて、中3だった私たちは後輩たちの変化としてそれを感じました。

 丙午に子供が少ない、というのは、この年に生まれた「女性」は運気が激しすぎ、長じて結婚すれば夫を食い殺すといった、どうでもよい迷信が根拠となったものでした。

 もとをただせば1666年丙午生まれで、放火犯として火あぶりの刑に処せられた「八百屋お七」のケースなどが原因となって普及したと考えられています。

 親としては、当時は生まれてくるの子が男か女かは分かりませんから、ともかくこの年には子供は控えよう・・・といったことが、1966年時点ではまだ日本社会を覆っていて、実際に出生率が大幅に下がっています。

 しかし、この丙午迷信は迷信というだけで済まない面もあった。

 というのは、これに先立つ1906年生まれの丙午については、結婚適齢期を迎えた女性が丙午生まれであることを理由に先方から破談を申し渡され、悲観して自殺する、といった社会問題をも生み出したようなのです。

 自然科学的には全くの迷信ですが、社会差別を含めて考えれば決してなまなかにはできない背景もあったわけです。ともあれ、1966年には生まれた子供の数が明らかに少なかった。

 私自身は1964年度の生まれですが、1965年の出生数は182万人、66年の出生数は136万人と、ほとんど3分の2に近く、競争が少ないこの学年の後輩選手たちは弱い、みたいなことがまことしやかに囁かれました。今となっては真偽のほどもよく分かりません。

 それ以上に印象的だったのは翌年1967年生まれ以後の、後輩どものメンタリティの変化で、明らかに「新人類」たちが入ってきたのです。

 1967年生まれは194万人、正味で丙午の学年の1.5倍に肉薄しました。

 競争が激しくて優秀だったかどうかは分かりませんが、敬語はできない常識が足りない、やたらと失礼な後輩共の空気に完全に変わってしまったのを、16歳の高校生としてすでに旧人類を意識した私たちは嘆いた記憶があります。

 どうしてこのように変わってしまったのかというとき、「1967年生まれ以降は第2次ベビーブームだから」という、説明になっているのかいないのか分からない説を聞かされ、妙に納得したのを覚えています。

長期指標は変えられない
第3次ベビーブームが来なかった時点で見えている結論

 日本の人口推移を大きく見ると、19世紀半ばまでは3000万人台であった人口が、明治維新以降うなぎのぼりに急増し、2010年にピークを迎えるまで、細いピークを作っています。

 あたかも、17世紀オランダで発生したチューリップ相場の乱高下」みたいなもので、この一過性のピークが「元に戻る」というのが、考えらえる一つのシナリオかもしれません。

「それは違う」という反論が専門家からあるとは思います。

 食料、医療、産業の発展、乳児死亡率の激減、20世紀に人類が打ち立てた文明生活の成果があるのだから、江戸時代と同じ3000万人台に戻るというのはナンセンス、という主張は、一定以上説得力があるものだと言えます。

 しかし、あちこちの総研が提出している「日本の人口推移予測」を見てみれば、多くが判で押したように

2050年代 8000万人台
2100年代 4000万人台

 といった急落のカーブを示している。なぜかと言えば、直近の現在示されている兆候をそのまま延長して、特に「船型」の予測を立てるなら、こういう挙動が考えられるわけで、むやみに無根拠とばかりも言えません。

 それ以上にはっきりしているのは「長期指標」的な挙動、端的に言えば「第1次ベビーブーム」の後に「第2次ベビーブーム」は来たけれど、その後に「第3次ベビーブーム」は来なかったという事実を直視すべきだと思います。

 第2次世界大戦後、1946年に始まり、ピークを迎え、1966年の丙午でどん底のツボに落ちた「第1次ベビーブーム」の出生曲線は上に凸のカーブを描いています。

 また1967年に始まり、同じように20年のスパンで考えれば1987年頃までの出生曲線もほぼ同様の上に凸のカーブを描いています。

 ちなみに1985年にはいわゆる「プラザ合意」が起きました。この年に制定された男女雇用機会均等法も86年から施行され、女性は積極的に社会に出、主婦という存在は構造的に低減し始めます。

 同様に考えれば1988年頃から2008年までの20年、日本の人口はどのように推移を見せたでしょうか?

 単調減少。人口は減る一方で、第3の「2ディケード」はすでに10年以上前に終わってしまっています。

 第2次ベビーブーマーの世代は、別名「ロスジェネ」とも呼ばれており、1990年代後半以降の日本は「就職氷河期」を迎え、かつて「適齢期」と呼ばれた人生の季節を、結婚や出産、子育てなどと、およそかけ離れた形で過ごさざるを得なかった人たちが、すでに40代の中年を迎えている。

 それが現代日本の、ありのままの姿ではないですか?

 無理な頓服薬を期待する方が、不自然なのです。

 生活習慣病の診断では、血液検査で「短期指標」とともに「長期指標」が厳密にチェックされ、適切な診断が企図されます。

 日本の少子化は、最短で見ても1980年代、つまり昭和後期に始まる、40年に及ぶ「生活習慣病」で、すでに動かしがたいところまで病状が進んでいる可能性が高い。

 そうはっきり分別して、それに合った対策を、本質的に講じることがなければ、わが国の社会も経済も、未来を見据えた戦略などとりようもなく、衰退の一途をたどる高いリスクがある。

 そのような最悪のシナリオをはっきり前提とする、喫緊の社会・経済政策がとられるべきではないか?

「過去最大の人口減少率」の報を前に、日本人が本当に考え直すべきことがあるように思います。

(つづく)

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