「知らないんだ、俺以外のやつらは。ここが、詐欺の現場だってことを」

7月9日(火)深夜放送のドラマ『スカム』MBSTBS系)第2話。父親のガンの治療費と学費の返済を支払わなければいけない状況で、新卒切りに遭い仕事を失った誠実(まこと杉野遥亮)。振り込め詐欺の「出し子」に失敗した彼を待っていたのは「電話営業の研修」だった。

第2話あらすじ「年寄りどもの方がよっぽど若々しい」
誠実や遅刻して殴られた清宮(前野朋哉)がおこなう研修は、投資用マンションの電話営業だった。リストに書かれた電話番号に順番に電話をかけ、資料送付のための住所を聞き出す。誠実以外のメンバーは、「営業職、手取り30万円、交通費支給」という募集の一般的な仕事だと思って応募してきた。

誠実たちを教育する毒川(和田正人)は、一瞬でも休もうものなら破れそうな勢いで服を掴み、革靴で殴り、耳元で怒鳴りつけるのが当たり前。1週間の研修期間、日を追うごとにメンバーは少なくなっていく。

その中で、誠実は前職の営業経験を活かしスクリプトをアレンジした。さらに、毒川のテクニックを見て学び、ついに1件住所を聞き出すことに成功。毒川は誠実を抱きしめる勢いで褒め、さらに1件につき10,000円の報酬まで支給する。

研修期間が終わり、最後に残ったのは誠実、清宮、来栖(福山翔大)、杜(水間ロン)、剛力(若林拓也)の5名。毒川は、彼らを社会見学に連れて行く。そこで誠実たちが見たのは、会員制ゴルフ場やプール、高級レストランなどで老後を楽しむ老人たちと、貧乏にまみれて10〜20歳も老けて見える若い労働者たちの姿だった。

「老人は日本のガンだ」
「老人は日本のガンだ」

2話のラストに登場した神部(大谷亮平)が、ホワイトボードに大きく書いて誠実たち5人を見つめる。振り込め詐欺は悪いことだとわかっている誠実が、なぜ「俺の心は1mmも痛まない」と思うようになってしまうのか。それは神部や毒川の教育の賜物であることが、徐々に明らかになってきた。

毒川が連れて行ったドライブで、誠実たちは日本の格差を目の当たりにする。3,000万円の会員権を買って、ヨロヨロ歩きでゲートボールのようなゴルフをプレイする老人たち。実家が造園業を営んでいた来栖が「芝生張るのだってあの色保つのだって、すげえ金かかるんですよ」と言う。遊んでいる老人たちが、バブル時代に使える金を多く持っていただけでなく、今でも裕福であることを示唆する。

続いて向かうのはプール。映画『ウォーターボーイズ』(2001年)で使われていた楽曲「Can't Take My Eyes Off of You」っぽい曲がBGMに使われていたり、昔の夏曲のミュージックビデオよろしくプールに飛び込む老人たちが何度も逆再生されたり、水着の男女が仲良さそうに話していたり。これは「老人たちの青春」だと印象付ける演出がなされている。

一方で、暗い倉庫のような場所で、冷えて固まったご飯に少ないカレーを付けて食べる労働者たち。作業着はもちろん、頬も手も、耳の先まで黒ずんでいる。清宮には40〜50代に見えたが、実際は20〜30代の若者たちだった。

金持ち老人たちが青春を謳歌し、この先一生青春など来ないだろうと感じさせる20〜30代の若者が少ない賃金のために働いている。ドラマのための過剰な落差の演出と感じる人もいるだろう。「いや、落差はこんなものじゃない」と思う人もいるだろう。

毒川「貧乏にまみれまくったせいで老け込んじまってよ。さっき見た年寄りどもの方がよっぽど若々しいよなあ」

毒川や神部が誠実たちに植えつけているのは、老人へのヘイト感情だ。その成果があって、清宮は自分も貧困におちいることを恐れ、来栖は「真面目にやっても、こき使われるか潰される」と悟る。誠実が何を思ったのかは台詞としては出てこなかったが、金と仕事がないことへの不安と恐怖はすでに味わっている。

なぜ若者たちから罪の意識がなくなっていくのかを、巧みな演出で追った2話だった。

私たちの振り込め詐欺の若者たちへの視線
母さん、わかってんの? 2,000万だよ、2,000万! 常識で考えておかしいと思わないか、普通! だいたい、電話越しでも息子の声かどうかぐらい……ボケちゃったのかよ! なあ!」

ドラマの冒頭では、振り込め詐欺に遭ったおばあさんが小さくなって泣きながら息子に怒鳴られていた。「詐欺に遭う方が悪い」「なぜこどもの声がわからないのか?」という声はいまだにSNSやニュースへのコメントなどで目にすることがある。

しかし、ドラマの原案本『老人喰い:高齢者を狙う詐欺の正体』ちくま新書/筑摩書房)では、詐欺組織のテクニックが高度化していて「騙される方が悪い」とは言えない状況になっていることが示されている。本作は、それを忠実に描き出そうとしている。おばあさんを怒鳴りつける息子は、世間の声、我々の意識そのものだ。

老人ヘイトを教え込むことで、罪の意識がなくなる。第1話の導入で誠実たちが詐欺に大きな達成感を抱く様子が描かれたように、罪の意識がなくなってタガが外れれば詐欺を「仕事としてこなせる」ようになっていく。

7月15日(月)よる9時から、テレビ東京『ウルトラハイパーハードボイルドグルメリポート』という番組が放送されていた。ヤバい場所に生きるヤバい人たちが、どんなヤバい飯を食べているのかを追っていくドキュメンタリー調の番組だ。

ケニア中のゴミが集まるゴミ山付近に住む少年たちは、親に捨てられたり親がいなかったりして、こどもたちだけで集まって暮らしている。つらいことや空腹を忘れるために、シンナーやドラッグを常用しているのだという。

物乞いや盗みをしないと生きていけないキッズたち。ときには、酔っ払いを殴って倒し、身につけているものを奪うこともある。「罪悪感を感じたりはしない?」という番組スタッフの問いかけに、キッズたちのボス・ジョンは「悪いことをしてるとは思わない。食べ物がないから仕方ないんだ。神様も許してくれるさ」と答えた。

遠い国のできごとに「そういうものか」「そうか、仕方ないんだな」「生きるためだもんな」という感想を抱いた。なぜ、生きるために振り込め詐欺に関わる若者たち、こどもたちには、すぐに同じことを感じることができないのだろう。ケニアキッズたちと振り込め詐欺の若者たちがしていることに、どれくらい距離があるのだろう。そんなことを考え込んでしまった。

TBSでは今夜放送の第3話では、誠実たちがいよいよ「本当の現場」である振り込め詐欺の世界に足を踏み入れていく。

(むらたえりか

ドラマイズム『スカム』
MBS:毎週日曜深夜0:50〜
TBS:毎週火曜深夜1:28〜
出演:杉野遥亮、前野朋哉、山本舞香、戸塚純貴、福山翔大、水間ロン、若林拓也、華村あすか、柳俊太郎、山中崇、和田正人、西田尚美、杉本哲太、大谷亮平、ほか
監督:小林勇貴
脚本:継田淳
原案:鈴木大介『老人喰い:高齢者を狙う詐欺の正体』ちくま新書/筑摩書房)
制作プロダクション:ROBOT
製作:「スカム」製作委員会・MBS

MBS番組HP https://www.mbs.jp/drama-scams/
ツイッター https://twitter.com/scam_0630

イラスト/たけだあや