私たちがグーグルのお世話にならない日はない。ひっきりなしにグーグル検索をし、海外サイトグーグル翻訳で読める。飲み会のお店にはグーグルマップを頼りに行き、ユーチューブで動画を楽しむ。本書はそんなグーグルがもうすぐ消えると主張する衝撃の本だ。どういうことだろう?

 このところ、近未来に到来する大きな変化についてのキーワードを頻繁に耳にする。ビッグデータ、AI、画像認識、機械学習、ブロックチェーン。確かにこれらが世界を変革することは疑いないだろう。このうちの一つを除くとすべてがグーグルの牙城である。だが、その残る一つがグーグルの圏外にあり、グーグルを滅ぼす新勢力であると著者はいう。それがブロックチェーンである。

 著者は、もちろんグーグルの先端性を認めている。しかしその上で致命的な弱点を指摘する。第一に、セキュリティに無頓着でそれゆえ脆弱性がある。第二に、人を集めて広告を見せるという古臭いビジネスモデルである。第三に、無料へのこだわりで身動きが取れない。第四に、AIに関して誤ったビジョンを持っている。おおまかにはこの四点である。私たちはまだあまり自覚していないが、最初の三点がやがてグーグルに愛想をつかす誘因になると予言する。そして、最後のAIに関する勘違いはグーグルの足かせになるだろうと。

 著者が対立軸として持ち出すのは、ブロックチェーンだ。ブロックチェーンとは、ビットコインというネット上の通貨を成立させるために発明されたアルゴリズムのこと。数理暗号技術を駆使することでねつ造や偽造が不可能なように設計されている。ビットコイン以外にも暗号通貨イーサリアムやブロックスタックなどのプラットフォームで利用されている。最も大事なことはブロックチェーンP2Pという形式で維持されることだ。P2Pとはネット上の情報を対等なユーザーたちによって集団的に分散管理することである。だから、政府や中央銀行などの中央集権的な権威は不要だ。それゆえ、ブロックチェーンの浸透は、グーグルという巨大な権力をも無力化すると著者は考える。近未来では、すべての情報が安全に保存され、グーグルのような巨大企業が独占するのではなく、ユーザーが対等に利用できると言うのである。CMは見たいものだけ見ればよく、価値あるコンテンツはそれに見合った有料価格となる。なるほどすごい説得力。

 本書の主張は過激ではあるが、ITやコンピューターに関する先端技術の解説書としても申し分ない。また、イーサリアムを開発したヴィタリック・ブテリンやブロックスタックを生み出したムニーブ・アリなど精鋭たちの人物評伝としても楽しめる。皆さんは本書によって、近未来を今のうちに目撃できるのだ。

George Gilder/1939年米国ニューヨーク州生まれ。ハーバード大学卒業後、ニクソン大統領などのスピーチライターを経て、経済学者に転身。著書に、『富と貧困』、『テレビの消える日』など。

こじまひろゆき/1958年東京都生まれ。帝京大学経済学部教授(経済理論)、数学エッセイスト。著書に、『暗号通貨経済学』など。

(小島 寛之/週刊文春 2019年7月18日号)

『グーグルが消える日 Life after Google』(ジョージ・ギルダー 著/武田玲子 訳)