(古森 義久:産経新聞ワシントン駐在客員特派員、麗澤大学特別教授)

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 韓国の文在寅(ムン・ジェイン)政権が日本の輸出管理の新措置に抗議して、米国への訴えを強め始めた。朴槿恵パク・クネ)政権時代に日本を標的に試みた対米「告げ口外交」の再演だといえる。

 だが今回も米国は韓国支持にも日韓調停にも動く気配を見せない。文政権の「米国の威を借る」対日作戦は失敗に終わりつつあるようだ。

日本への圧力を米国に要望

 韓国政府は日本政府による半導体材料の輸出管理厳格化への抗議を強め、自国の主張を米国に訴える動きを活発にし始めた。

 7月10日には康京和(カン・ギョンファ)外相がポンペオ米国務長官と電話会談し、日本政府の今回の措置に対する批判や不満をたっぷりと伝えた。康外相は、日本の輸出管理厳格化措置が韓米日の安保上での連帯を弱めるだけでなく、米国が最優先事項とする北朝鮮核兵器完全破棄の政策にも支障を及ぼすという趣旨を訴え続けたという。

 康外相のポンペオ長官への電話での要請以外にも、韓国の大統領府や外務省、産業通商資源省の高官たちが次々にワシントンを訪れ、日本の今回の措置が不当であると訴えている。もちろん、日本への抗議を表明するだけではない。米国政府に調停役として日韓両国間に介入してもらい、さらには日本に圧力をかけてもらうことを要望しているのだ。

朴氏の告げ口外交で韓国が不利な状況に

 このように日本との争いにおいて、自国側に有利な主張を米国に伝え、米国を自国の味方につけようとする文在寅政権の手法は、2014年から2015年にかけて見られた朴槿恵前政権の対米「告げ口外交」に酷似している。

 朴大統領2013年2月の就任以来、日本に対して非友好的な態度をとり続け、「日本側が慰安婦問題で誠意ある態度をとらない限り」日本の首相とは会談しないという姿勢を明確にした。同時に朴政権の要人たちは、米国だけでなく欧州各国、国連などの国際機関に対しても慰安婦問題などでの日本非難を続けた。

 その一方的な日本糾弾の姿勢は、客観的な立場を保っていた諸国の間でも逆効果を招き、「告げ口外交」という批判的なレッテルを貼られることになった。

 米国の当時のオバマ政権は、日本と韓国との歴史関連問題では当初は韓国の側に同情的な態度をみせていた。しかし朴大統領が日本に対してあまりにも険悪な姿勢をとり続けたため、北朝鮮の核問題の解決などに必要な安全保障面での日韓協力や、米日韓の3国協調に悪影響を及ぼすことを懸念するようになった。2015年には、オバマ政権で韓国にとくに理解を示していたウェンディー・シャーマン国務次官(当時)までもが、日韓の歴史問題は韓国側の過剰な日本糾弾に非があることを公式の演説で示唆した。

 こうした事態を経て、朴大統領2015年秋の訪米で、日本への態度を是正することを米国から求められた。その結果、3年半ぶりに安倍晋三首相と会談するという新方針を打ち出さざるを得なくなった。朴氏の対米「告げ口外交」は成功せず、かえって韓国側に不利な結果をもたらしたというわけだ。

 今回の文政権の態度も、日本との間の懸案事項を日本相手の協議で解決しようとはせず、米国への訴えを優先させ、しかもその内容が自国に有利な主張ばかりだという点で、第2の「告げ口外交」と呼ぶのがふさわしいといえよう。

トランプ政権が告げ口外交に乗る気配は薄い

 だがトランプ政権は、この韓国の訴えを正面から受け止めて前向きに対応する姿勢を見せていない。また日韓両国の間に入って調停役を果たすことにも否定的な反応を示している。

 トランプ政権の新任のデービッド・スティルウェル国務次官補(東アジア太平洋担当)は7月中旬の日本訪問の際、日本メディアから「米国は日韓の摩擦を調停するか」と問われ、「日韓両国が直接に会談して、解決策を見出すべきだ」と答えた。“米国による調停”案の否定である。

 国務省報道官も、同様の質問に対して「米国は日本と韓国の双方といずれも緊密な関係にあり、その関係を強化していきたい」とだけ答え、やはり調停や仲裁の意向がないことを明らかにした。

 こうした米国政府の態度は、日韓のどちらかの主張を明確に支持することでもう一国との関係を決定的に悪化させてははらないという年来の配慮に基づいているといえる。さらには、トランプ大統領、ポンペオ国務長官をはじめトランプ政権が韓国の文在寅大統領の対外政策全般、とくに対北朝鮮政策に強く反対してきたという経緯も大きく影響しているだろう。トランプ大統領は自身のツイッターで「文大統領北朝鮮への宥和には強い懸念を覚える」とまで書いていた。

 一方、トランプ大統領安倍首相の個人レベルでの親密さや、政策面での共鳴、協力関係は誰もが認めるところである。もちろんトランプ政権のこれまでの日本への傾斜、および韓国との距離感だけで、今後の米国の対応を予断することはできない。だが、いずれにしても、今回の文政権の日本を糾弾する「告げ口外交」にトランプ政権が乗る気配はきわめて薄いといえる。文政権の対米「告げ口外交」は失敗に終わりつつあるというのがワシントンの現状なのである。

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