2016年に行われた声優オーディション「キミコエ・オーディション」に合格した飯野美紗子さん、岩淵桃音さん、片平美那さん、神戸光歩さん、鈴木陽斗実さん、田中有紀さんの6名によって結成された声優アーティストユニット"NOW ON AIR"。
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オーディションのタイトルにもなっている劇場アニメ作品「きみの声をとどけたい」の主演を果たし、ユニットとして3枚のシングルを発表。個人でもそれぞれ声優としての活動やラジオのパーソナリティーなど幅広く活動する彼女たちの待望の1stアルバム『RAINBOW'S BOX』がリリースされ、8月には過去最高規模での3周年記念ワンマンライブも開催される。
アニソン界にその名を馳せる老舗レーベル・ランティスの所属アーティストユニットとして大型アニソンイベント「ランティス祭り」へも出演するなど、順風満帆な活躍を見せる彼女たちだが、ここまでの道のりは決して平坦なものではなかった。
「止まっていた時間」
劇場作品への出演と楽曲のリリース、デビューにあたって心強いサポートを得た若き彼女たちが行き着いたのは、自らでもそう言わざるを得ないほどの停滞だった。
突如として直面した先の見えない不安の中でか細い可能性を辿る原動力となったのは、オーディションの時から培った強いメンバーの絆だったという。
そうしてたどり着いた念願の1stアルバムはフラストレーションを晴らすかのように、彼女たちの溢れるエネルギーとクリエイティビティが詰まった意欲的な作品に仕上がった。
今回はそんな最新作の魅力を本人達に深堀りしていただくと共に、"NOW ON AIR"が獲得した唯一無二の輝き、その光源を探っていく。
取材・文:オグマフミヤ 撮影:永峰拓也 編集:新見直
バラバラの6人が集まった理由
──約3,000人が参加した大型オーディションによって選抜されたメンバーで結成されたユニットですが、それぞれ、なぜオーディションを受けようと思われたのでしょうか?
鈴木 私はカラオケに行くのが好きで、カラオケで流れる宣伝映像で偶然オーディションのことを知ったんです。最初はあまり興味なかったんですが一緒にいた友達に「応募してみたら?」と言われたので、歌うことは好きだし試しに応募してみようかなというのがきっかけでした。
なので「私なんて受からないだろうな…」くらいの軽い気持ちでしたね。
田中 私は小さい頃から歌うことが好きで、漠然と将来は歌に関わる仕事をしたいと思っていました。
小学校の学芸会で主役をやったことがきっかけで演技にも興味を持って、みんなで何かをつくっていくということに面白さを感じるようになったんです。
中学生の頃にはアニメにも夢中になっていて、自分のやりたいことを全部叶えるにはどうしたらいいのかなと考えた時に、声優さんに憧れるようになりました。
オーディションのことを知ったのは高校2年の時だったんですが、両親に反対されていて「これがダメならちゃんと大学にいくから!」と説得してなんとか応募できました。
片平 小学生の時にアニメの世界に入り込みたいなと思ったのがきっかけで声優さんを目指すようになりました。
それから高校でも演劇を学んでいたんですが、ある日お母さんがこのオーディション見つけてきてくれて、実力試しに受けてみようかなと思ったのがきっかけでした。
神戸 私は幼稚園に入る前から叔父や父親の影響でガンダムやヤマトを見ていたので。
自然と大好きなアニメに関わる仕事がしたいなと思うようになったのですが、自分に合っているものはなにかなと考えた時に声優という選択肢が浮かんできたんです。
普段から声がよく通ると言われていて、休み時間に喋っていた内容を隣のクラスの子が知っているなんてことあるくらいでした(笑)。歌うことも人前に出ることも好きで、高校の文化祭ではステージで歌ったこともありました。
ただ、もう周りは受験モードに入ってる中で、誰にも言い出すことができずにこっそりと目指していたんです。
結局大学へは進んだんですが、それでも声優になることを諦めきれなくて最短で夢を叶える方法を探していた時に見つけたのがこのオーディションでした。
岩淵 私は中学生の時に辛い時期があって、その時に支えになってくれたのが小さい時から見ていた『カードキャプターさくら』でした。小さい時から好きではあったんですが、見返してみたら声の表現の素晴らしさに気づいて違う捉え方ができるようになって、精神的に救われたんです。
なので私も同じように誰かの支えになりたいなと思って声優を目指してオーディションを探すようになったのですが、ある日オーディション雑誌で見つけたのがこのオーディションでした。
飯野 わたしは元々アニソン歌手を目指してずっとオーディションを受けていたのですが、最終審査で落ちることを繰り返していたんです。
最終審査で落ちるのは一次審査で落ちるより、決定的になにかが足りないからじゃないかと思い悩んでいたので、10代のうちにデビューできないなら諦めて長野に帰ってアナウンサーを目指そうと思っていたんです。ギリギリ20才になる前に結果が出るこのオーディションを見つけて、ラストチャンスだと思って挑みました。
──小さい頃から目指していた人に偶然知った人、声優を志す人にアニソン歌手を目標にする人とそれぞれ動機は様々ですが、ユニットとして心を通わせていったきっかけはあるのですか?
飯野 15人のファイナリストで、2ヶ月間のレッスンと合宿審査があったんです。
15人で声優アーティストのレッスンという未知の世界に挑むことで連帯感や仲間意識がどんどん高まっていって、ユニットとして目指す理想も統一されていったんです。
そこから選ばれた6人なので、ユニットとしてまとまったというよりは、その15人の時からの絆が強いんだと思いますね。
田中 2ヶ月一緒といっても週に何回か会うだけだったんですが、それ以上にずっと一緒にいるような感覚になって、6人になる頃にはもう一緒にいることに違和感がなかったんです。
神戸 誰が選ばれても一緒にやっていけると思える15人でした。だから6人になっても安心感がありましたね。
──その頃の印象的なエピソードはありますか?
田中 みっちゃんは最初から賑やかでしたね(笑)。
飯野 今も盛り上げようとしてくれるし、当時からその明るさに救われている部分はみんなありますね。
神戸 直接言われると恥ずかしいね…(笑)。
岩淵 最終オーディションの前日はホテルが2つに別れていて、泊まった組がみさみさ(飯野)とみなみー(片平)とゆっきー(田中)と一緒だったんですが、夜にゆっきーと二人きりで話す時間があったんです。その時に、この子スゴいサラミ好きなんだなと思ったんですよね。
一同 爆笑
神戸 今すごい良いエピソード出てくる流れだったじゃん! この子と一緒に受かると思ったみたいな話なんだろうなって構えてたのに!(笑)
岩淵 お菓子をみんな買ってたんですけど、ゆっきーと私はチョイスが似ててサラミをめっちゃ食べてたんですよ。趣味は合うししっかり考えているし、話していて楽しいしでこの子と一緒に活動できたら幸せだなって思ったんですよね。
田中 サラミがなかったら分かり合えなかったんだね(笑)。
神戸 こっちの組はなんにもなかったよね?
鈴木 コンビニにお菓子買いにいったとかは一緒だけど、帰ったらわりとすぐに寝てたよね。
飯野 大事なオーディションの前なんだから本来そうなんだと思うよ(笑)。取材にきてた方が「あっちは静かだったのにこっちはみんな一緒にいるんだね」って驚いてたもん。
前日のレッスンでもみんな仲良くしてたし、この6人が特に仲が良かったわけじゃなくて15人の絆が強かったんですよね。そんなオーディションないですよ。
──だいぶ和やかなエピソードが聞けましたが、15人を一同に集めてその場で半分以下に絞るのは、見ようによってはかなり壮絶なオーディションにも思えますが。
飯野 もちろん受かりたいという気持ちはありましたが、みんなのことが好きになっちゃっていて、このまま15人でユニット組めたらなとすら思うほどでした。
神戸 オーディションである以上結果は出てしまいますが、誰が合格しても恨んだりすることはないなって気持ちになれていましたね。
──その気持ちがそのまま6人になっても絆の強さに繋がっているんでしょうか。
飯野 そうですね、だから最初は仲が良すぎて怒られるなんてこともあったんです(笑)。
片平 学校じゃないんだよとかもっとライバル意識を持ってとか。
田中 もっとバチバチしろ、とかも。
飯野 バチバチしろって、言われてするものか? とは思ったよね。
神戸 馴れ合っているわけじゃなくて、お互いを高めあっている意識があったから良くない?って私は思ってたよ。
飯野 密着取材もしてもらってたから、喧嘩とかしてくれないとエピソードが弱かったのかもしれないね(笑)。
でも良い関係性でしたし、活動を通してますます絆も強くなっていきました。
突如として訪れた"止まった時間"
──ここまでのお話では一見順調なキャリアを歩む皆さんですが、「止まっていた時間」があったそうですね。
飯野 映画を大きな目標に掲げていたプロジェクトだったので、映画が終わった後に急になにもスケジュールがなくなって、3ヶ月くらいユニットで活動する機会が全くなくなってしまって。
今でこそ事情を想像できますが、当時は私たちにはなんでそうなっているのかわからなくて、思い悩む期間が2017年の秋くらいから続いていたんです。
──メンバーの間ではどういう話し合いが行われていたんでしょう?
神戸 せっかくの貴重な時間をこの止まった時期に費やしていいのかとかを話し合っていましたね。
今こうしてなにもしないのが最善じゃないだろうと思う一方で、でもどうしたらいいかもわからなくて、泣きながら話し合ったこともありました。
飯野 なにをしたらいいのかがわからないことが、一番ストレスでしたね。
──個人でのお仕事があっても、やはりユニットでいることが一番大切なことだったんでしょうか?
飯野 映画のためだけのユニットなら映画が終わったタイミングで終わらせても良かったですが、私たちはそうではなかったですし、ずっと続けるつもりでやってきたのでグループでいる意味を持ちたかったんです。
誰も頼れないなら自分たちでやるしかないと思って、最終的には、音大出身のみんひと(鈴木)に曲をつくってもらって勝手に路上ライブでもやっちゃおうかとも言い出していましたね。
鈴木 実際につくるまではいかなかったですけど、(あのままだったら)つくってたろうなとは思います。それくらい切羽詰まった状況でした。
回り出した歯車
──ギリギリまで追い詰められたところから、現在のように状況が好転したきっかけはなんだったのでしょう?
全員 (現プロデューサーの)吉江さん(との出会い)…。
吉江 『ラブライブ!』などを担当していた木皿(陽平)が退職するタイミングで、彼のプロジェクトをプロデューサーとしていくつか引き取ることになったのですが、その一つがNOW ON AIRでした。
存在はもちろん知っていたし、歌のパフォーマンスは気になっていたのですが、今なにをしているかを知らなかったので、とりあえず会おうと言ってミーティングをしたのが去年の6月のことだったんです。
飯野 そのミーティングは待ち望んでいた、意見を聞いてくれる場だったので、それまで溜め込んでいたもの、自分たちで曲つくってもいいですか? って思いをぶつけたんです。
そしたら「こっちで全部やるから大丈夫」って言ってくださって、その1ヶ月後には新曲が1曲(「restart my resolution」)できて、8月には所属事務所主催の2周年ライブで披露することができたんです。
鈴木 新曲をレコーディングブースに入って歌った時は、1年ぶりくらいだったんですがすごい楽しくて、またできるようになってよかったって本当に嬉しくなりましたね。
田中 2周年ライブのアンコールで新曲を発表したんですけど、その前振りで「大事なお知らせがあります」って言ったら来てくれてたファンの皆さんに「辞めないでー!」って言ってもらって。その後「新曲やります!」って言ったら大号泣されちゃったんです。
神戸 あの涙を見て、待っていてくれる人がいたんだって気づけた時は、希望を持ち直せた瞬間かもしれませんね。
飯野 インタビューで「これまでの活動で一番印象に残ってることは?」って聞かれたら全員2周年ライブですって答えるくらい強烈な思い出。越えていきたいとは思っているんですが、どうしても忘れられない1日です。
──そんな苦しい時期を乗り越えて飯野さんはブログに"「仲が良いユニット」のその先に手が届いた"と綴られています(外部リンク)。この感覚は他の方々も感じているのでしょうか?
飯野 …どうですか?
神戸 あの時期を乗り越えたから「仲が良い」は超えたと思えますね。
岩淵 みんなそうだと思いますけど、人とこんな関係になれたことってはじめてなんです。
お仕事をする仲間ではあるけど、友達というよりもっと大事なものを共有できるソウルメイトと言いますか、そういう唯一無二の存在になれた感覚はありました。
神戸 ソウルメイト(笑)!?
──紆余曲折があったからこそ一つになれたという思いはみなさん一緒なんですね。
飯野 一本一本のライブ、一曲一曲に込める思いは強くなりましたね。もちろんそれらが当たり前じゃないことは最初からわかっていましたが、本当の意味で実感できたのは、なにもない時期の苦しみを味わったからです。
──苦しくとも意味がない期間ではなかった、と思えるようになった?
飯野 うーん、正直そこまで割りきれてはいません。なかった方がよかった、とはどうしても思ってしまいます。
神戸 でもその時期があったからこそ今があるのは確かです。
虹を彩るそれぞれの思い
──本当にメンバーのみなさんにとってもファンにとっても“待望”のリリースとなったのが、今回のアルバムだったんですね。
MVも公開されたリードトラック「RAINBOW'S HIGHWAY」は展開の激しい現代アニソン然とした仕上がりに感じました。応援ソングのようで、これからの活動を思い描いた覚悟の歌にも聞こえるのですが、どんな思いを込められているのでしょうか?
飯野 3rdシングル「わたし的Progress」が私たちにとって再出発の曲だったので、「RAINBOW'S HIGHWAY」は"その先にいくぞ!"という思いを歌いたいとはアイラさんに伝えていました。
覚悟の気持ちもありますが、この曲には感謝の気持ちと、みんなとこれからも一緒にいたいっていうハッピーな気持ちを込めているんです。
──今回のアルバムも、歌手であり作詞家であり声優である結城アイラさんがプロデュースで参加されていますが、打ち合わせではどんな要望を伝えたのでしょうか?
飯野 こういう曲にしたいっていう具体的な例や思いをしっかり聞いてもらえました。ずっと作詞をやっていただいてきたアイラさんも私たちのことをものすごく気にかけてくださっていたので、上手に気持ちを汲み取っていただけて。
──さらにアルバムでは、みなさんそれぞれ作詞や楽器演奏など歌唱以外でも参加されていますね。
飯野 私たちの"いずれやりたいことリスト"にメンバーでの作詞やみんひとの演奏を楽曲に組み込むという目標があったので、いつかやりたいねとは普段から言っていたんですが、スタッフさんに今回やりますって言われたんです。
田中 まさか1stアルバムでやらせてもらえるとはね(笑)。
──サプライズだったんですね。それぞれ作詞された楽曲についてうかがいたいのですが、飯野さん作詞の「Starting Station」では明るい曲調の中にも「もどかしくて泣いてた」「ひとりでうずくまってた日々」と苦悩な日々が素直に綴られています。これはデビュー後の苦しかった期間を描いているのでしょうか?
飯野 ユニットでのことではなく私個人の思いですね。
私はずっと大人になりたくないなと思っていたんですが、ユニット活動の3年間でさすがに考えも変わって、大人にはなったけどやりたいことをやれていることはすごい幸せで、成長するのも悪くないなって思えるようになりました。
私も明るい未来を思い描くのが苦手なタイプなので、同じようにこの先に進むのはちょっと嫌だなって思っている人に対して、それも意外と悪くないよって伝えたいって思ったんです。
──"大人になりたくない"のはなぜなんでしょう?
飯野 子どもでいる方が難しいことを考えないで済みますし、楽しいことだけ考えて生きていられましたから。大人になると自分で自分の面倒をみないといけないし、人に気をつかうことも増えて、責任が増えていくのが嫌だなと思っていたんです。
でも活動を通して、子どもの時にはできなかったことができて、出会えなかった人に出会えたので、大人になるのも悪くないと気づいて気が楽になっていきました。
──その気持ちが前向きな言葉で歌詞に表現されているんですね。
飯野 歌唱するのが最年長の私と最年少のみなみー(片平)なので、みなみーを昔の自分として、今の自分に対して私がいるから君がいるんだよって言っているような構図も意識しました。
ここまで一緒にきたんだからこれからも一緒に頑張れるよって、過去の自分がいつでも今の自分を応援してくれていて、昔の自分に背中を押してもらう感覚を曲を聞いた人にも気づいてもらえたら嬉しいです。
──田中さん作詞の「純情 Phantom thief」は恋愛がテーマになっているそうですが、ジャズ調のアプローチに怪盗というモチーフを重ねたファンタジーな曲になっています。このイメージはどこから得られたのでしょうか?
田中 みさみさは自分の思いを正直に書いたって言ってましたけど、私の場合は完全に妄想で、想像力を膨らませて書きました。
曲を初めて聞いた時に"夜を走ってる"ってイメージが浮かんだのと、一緒に歌うももちゃんは小悪魔というイメージがあるので、両方を組み合わせた時に、恋する女の子を怪盗に見立てた曲にしたら面白くなるんじゃないかなって思ったんです。
女の子が恋をした時ってきっと"どうしたら振り向いてもらえるかな"みたいな戦略を練るじゃないですか、それを怪盗が宝石を奪うのに色んなアプローチをすることに例えていって、色んな言葉を組み合わせていきました。
ハートを奪われた女の子がそれを取り戻すんじゃなくて、奪われたからにはあなたの気持ちも奪いたいって強がるみたいな気持ちを考えたんですけど…やっぱり説明するのは恥ずかしい(笑)!
飯野 この話をしてる時のゆっきー本当に可愛いな(笑)。この曲の話だけで一時間くらいやりませんか?
──ぜひ聞きたいところですが、ご本人はもう限界のようなので次にいかせていただきます…(笑)。
神戸さん作詞の「星影の在り処」はアコースティックなサウンドが優しく響くバラードになっていて、恋愛のようにも友情のようにも捉えられる歌詞ですが、メンバーを意識して書かれたそうですね。
神戸 私はバラードが好きで、歌いたいってずっとお願いしていたんです。
そしたらついにバラードをいただけることになったんですが、これがものすごい良い曲で"これは歌詞で傑作にも台無しにもできる"ってプレッシャーを感じてしまったんです…。
ありきたりな歌詞をはめたらよくある“良いバラード”止まりになってしまうから、私の一番大事な思いを込めないといけないと思ったんですが、私の一番大事な思いってなんだろうって考えたら、メンバーに対する思いだなって気づいたんです。
──確かに溢れんばかりの思いを感じます。しかしストレートに表現するのではなく君と僕という構造で色んな解釈もできる歌詞になっていますよね。
神戸 私にとってはメンバーを思った曲なんですが、聞く人によって自分の大事な人を思える曲になればいいなって考えたんです。だから直接メンバーを指すような表現にするんじゃなくて君と僕という構造にしていて、実はメンバーの曲だとは言わないようにしていたんですが…
──周囲で頷いている通り、メンバーのみなさんにはすっかり周知されていますね。
神戸 仮歌を録る時に一緒にいたメンバーには言ったので、そこから広まったのかなと疑っているんですけど…?
飯野 そういえばゆっきーから聞いた(笑)。
田中 うそ?! 私じゃないなーって思ったのに(笑)。
神戸 私的にはなんなら最後まで言わなくてもいいかなって思っていたんです。そう思う人がいてもいいし、聞く人がそれぞれ思いを当てはめてくれればいいなと思ったので。
──皆さんはどう思ったんでしょうか?
田中 もちろんいい話だなと思ったんですが、「君の時計隠す」とか「どちらからともなく手を繋いだ」とか、そもそも普段から一緒の私たちにはわかるんですよ。
神戸 "ここわたしだよね?"って言ってきたよね(笑)
田中 ね(笑)。普段から別れる時は名残惜しくて、このまま泊まってかない?って思ってますし、気づいたら手も繋いでる。
飯野 だから私たちも2人が手を繋いでるのを見たら「どちらからともなく~」って歌っちゃうしね(笑)
──愛ゆえにですね…!
そして音大出身の鈴木さんは、「星影の在り処」にクラリネットで参加しています。楽器演奏での参加ははじめてだったそうですが、歌唱での参加とは感触は違ったのでしょうか?
鈴木 わたしがずっとやってきた楽器演奏は、声優のお仕事と別のものだと思っていて、これまでもNOW ON AIRとして活かせる機会はあまりありませんでした。そもそもクラリネットは、声の表現と同時にやるのは難しい楽器ですし。
飯野 難しいというか、一人では無理だね(笑)。
鈴木 だからこうやって自分の武器を活かせるんだって気づけたのは嬉しかったですし、曲の中でもほとんどのメロディを吹かせてもらっているのでとても有り難かったんです。
──鈴木さんにとっても楽器演奏は特別思い入れのあることなんですね。やはり、それだけ強い思いと時間をかけて磨いてこられたものなんでしょうか?
鈴木 声優のお仕事はオーディションに受かってからはじまったものですが、音楽はずっと続けてきたことで、私の人生の大半を占めるものなんです。
それだけ大事にしてきて人生そのものとも言える音楽と、同じように大切な声優のお仕事を繋げられたので、続けてきてよかったなと思えました。
──もともとユニットでの"いずれやりたいことリスト"には入っていても個人的にはもっと強い思いがあったんですね。
鈴木 自分の一番の武器で皆の役に立つことは、個人的な"いずれやりたいことリスト"の中では一番やりたいことでした。だからこんな機会をいただけて本当に嬉しかったんです。
楽器のレコーディングをひとりでやるのは初めてだったんですがすごい楽しくできましたし、みっちゃん(神戸)の素敵な歌詞と私のクラリネットで二重に楽しんでもらえたら嬉しいですね。
──岩淵さん作詞の「Light escape」は「純情Phantom thief」から連なるような大人の女性をイメージする曲になっています。詩的な表現も多くて素敵ですがこの曲のテーマは何なのでしょう?
岩淵 テーマは「夜」です。具体的には夜のネオンが光る街で女の子が物思いに耽ってるってイメージで歌詞を書き始めて、他のメンバーとは被らない方向性でいくつもりだったんですが、気づいたらゆっきーの曲とものすごい似ていて(笑)。
田中 私もビックリしちゃったよ(笑)。
岩淵 打ち合わせしたわけじゃないのに共通するテーマで歌詞を書いていたので、運命感じちゃいましたね。
田中 サラミ組のね(笑)。
岩淵 そう、サラミ好きな人はこういう詞を書くんだなって思いました。
──たしかに共通するものは感じますが、「計算混じりの感情」といった独特の表現で独自性も確かに表現されています。
岩淵 最初は一生懸命頑張るぞみたいな歌詞の方が書きやすいかなと思ったんですが、曲が大人っぽい感じだったので、大人の女性っぽい言葉を書こうとは意識していましたね。
作詞をするとなってから思い浮かんだものをメモするようにしていたメモ帳から言葉を引っ張り出して、背伸びしてオシャレな表現をしようと色々考えてパズルみたいに言葉を組み合わせていきましたね。
──となると歌詞の成り立ちも「純情Phantom thief」と似ているのかもしれませんね。
片平さん作詞の「ツヅクココロハ」は管楽器も加わったスカ調の音色にファンシーな歌詞が合わさって一見可愛らしい曲ですが、サビやCメロでは思いをぶつけるように力強く歌い上げていて印象が変わっていくのが面白い曲でした。そうしたギャップは狙って仕込まれたものなのでしょうか?
片平 最初に曲を聞いた時に、絶対明るくて可愛いメルヘンな曲にしよう!って思ったんですけど、私の中にその成分があんまりなかったんです。
可愛いものは好きなんですけど、結構ネガティブなことを考えがちですし…
──確かに可愛いものを並べただけではない歌詞になっています。
片平 明るい曲にしようとは思ったんですが、それだけじゃ楽しくないし、私らしくないなとも思ったんです。だから暗くなりすぎないようにしつつも、ちょっとそういう成分も混ぜていきたくて。
──「なんで どうして?どうして?聞いてくれないの?」の部分はわがままな女の子って感じで可愛くもありますが、単にむしゃくしゃした気持ちの現れでもある?
片平 そういう気分になることはやっぱりありますしね。でもそこで落ち込むんじゃなくて頑張ろうって思える曲にしたかったんです。「こんな気持ちになる事って 生まれてこなきゃ無いんだから」の部分とかはそういう気持ちの現れでもあります。
それぞれの曲への思い
──みなさんの思いの詰まった曲だということを改めてお話聞きながら感じました。作詞や演奏など歌唱以外で曲に関わることははじめてだったと思いますが、他のメンバーの曲で気になった部分はありましたか?
飯野 ももちゃんの曲は本当に"この曲はこの歌詞を待ってた"って感じましたね。
私には書けないような世界観やフレーズが表現されていてすごい尊敬しました。小悪魔とか爆弾とか言われてますけど、やっぱり賢いんだなって。
──なるほど。…爆弾?
飯野 ももちゃんはNOW ON AIRの爆弾って立ち位置なんですよ。
神戸 いきなりサラミとか言い出すじゃないですか、そういう斜め上の発言を急にするので(笑)。地下鉄の話を始めると長いですし。
──…地下鉄?
飯野 ももちゃんは地下鉄の匂いが大好物なんですよ。
岩淵 嗅がれたことありますか?
──あんまり意識して嗅いではないですね…。
岩淵 そうですよね。でも私は小さい頃からすごい好きで、ただの地下じゃなくて地下鉄の匂いにこだわってるんです。奥ゆかしい深みがある香りというか、ずっとここにいたいって思わせてくれるんですよね…
神戸 どこが一番好きなんだっけ?
岩淵 副都心線です!
──その深い愛も歌詞に込められたんでしょうか?
岩淵 今回は入れられませんでした。
飯野 いずれそういう曲も欲しいよね。
神戸 でも、ももちゃんのことだからとんでもない歌詞書くんじゃないの?って思ってたのに、とんでもなくいい歌詞書いてるってびっくりしちゃいました。
──座り順的に、綺麗にこちら側のお三方のエピソードをうかがえましたが、こちらサイドはいかがですか?
片平 …私のは、特にない?
田中 いやいやそういうところ(笑)! みなみーの曲は曲調もそうだけど、歌詞がすごい明るくて可愛いですよね。
私も悩むタイプなのでちょっとダークな部分も共感できましたし、歌っていて楽しかったです。
──片平さんの込めた思いがバッチリ伝わっていたんですね。
田中 みんな色々悩むと思うんですよ。だから色んな人が共感できる歌だと思いますし、悩むだけじゃなくてそこから頑張る歌なので、私も落ち込んだ時に聞いて元気をもらえる素敵な曲だなって…思ってます!
片平 …はい(小声)。
一同 (笑)
鈴木 私は、みんなよく歌詞書けるなって思っちゃいました。どれも完成度が高くて、用意してたのかな?って思うくらい(笑)。
ゆっきーの曲の"魅せる!"って感じとか、みなみーの曲の"!"とか"?"を使って気持ちを表現してるのとか、普段の様子がそのまま出てるなって感じました。
逆にあっちの島のみんなは"こんなこと考えてたの?"って発見が多くて、それはそれでまた面白かったですね。
飯野 普段一緒にいても書いた文章を見ることってあんまりなかったんですよね。だからお互い新たな発見があったり、気持ちの再確認ができたりして、貴重な経験でした。
ランティスといえばNOW ON AIRと言われるように
──ここまでも皆さんの仲の良さであったり個性の強さといった強みを見せていただけました。改めてご自身たちでは、NOW ON AIRのユニットの魅力はどこにあると考えていますか?
鈴木 私は歌声が唯一無二の魅力だと思います。
それぞれ楽譜がすごい読めるとかピアノがすごい弾けるとかではないのに、ハーモニーがとれやすいというか、みんなが素敵な歌声を持っているんです。
ただでさえ素敵なのですが、全員で合わせた時はもっと力強い歌声になって、元々ひとつのものだったって思えるほどになるのは大きな強みですね。
田中 みんひとみたいに専門的なことは言えないですけど、確かに歌になった時のまとまりはスゴいですね。
でも一人一人は個性が強くて、キャラクターがバラバラなのもやっぱり魅力で、ファンの皆さんも飽きずに楽しんでもらえてるんじゃないかなと思います。
それぞれがしっかりNOW ON AIRのことを大事にしているからこそ、一人一人の個性が際立ってますし、ずっと一緒にいたいって思う気持ちが自然とユニットとしての良さに繋がっているのかなって感じますね。
──仲の良さと個性の強さの両立はこのインタビュー中にもビシバシ感じることができました。
片平 私は一人一人歌が好きなのが伝わってくるのが魅力だなって思います。みんな普段座っていても歩いていても歌ってるんですよ、お風呂でも歌ってるのが聴こえてくるくらい(笑)。
ただ好きなだけじゃなくて、お仕事になれば真剣で、歌ってる姿が一番楽しそうなんです。それは一員である私もいいなって思いますし、歌を好きな人たちが集まって真剣に歌を楽しんでいる姿はきっと外から見ても魅力に思ってもらえていると思います。
神戸 歌は私も一番の強みだと思います、でもそれ以外の切り口から魅力を語るとすると、みんなめっちゃいい子というのもありますね。これまでたくさんの人に出会ってきて、もちろん尊敬すべき人はいたんですが、このメンバーはその中でも特別なんです。
価値観や倫理観がすごい合っていますし、一人一人が目的意識もしっかり持っていて、立派だなって感じることが普段でもたくさんあります。
その上でそれぞれが真剣にユニットのことを考えていて、どんな仕事にも全力で取り組んでいる。こんなに人間性を尊重できる人たちはいませんね。
──倫理観が共通していることはいいチームの要素だと思います。その上でお互いをリスペクトしあえているのは素敵ですね。
岩淵 個性が強いというのにも繋がるんですが、私は色んな表情があることが魅力だと思っています。
私たちは一人ずつ違った個性や特技を持っていますが、それが一つだけじゃないので、6人のユニットですけどそれ以上の多彩な表情を見せられるんです。
一人一人は違いますが決してぶつかりあうことはなくて、ひとつになったらそれぞれを活かしながらもっと強く輝けることは大きな魅力なんじゃないでしょうか。
飯野 みんながみんなのことを大好きなのはやっぱり一番の強みですね。
たとえばそれぞれ個人でのお仕事があったりすると、妬んだりせずにしっかり応援するんですよ。
誰かがゲームに出たりしたらみんなでインストールしてガチャ引きますし(笑)、ゆっきーが別のユニットでのリリースイベントに出演した時は普通に観客としてみんなで行きました。
私が舞台に出たときもみんなチケット買ってまで観にきてくれたんですが、(スタッフさんに)他のユニットじゃそんなことあり得ないよって言われて、すごい誇らしかったんです。
もちろんそれは当たり前だとは思っていません。私たちはそれぞれが努力していて、同じだけ努力しているメンバーを間近で見ているので、まずお互いがお互いの大ファンになっているんですよね。
それは愛着でもありますし、負けないぞって気持ちでもあって、そうしてお互いを高め合える関係性って素敵ですし、ファンの皆さんにもより良い私たちを見せることに繋がっていると思います。
──その魅力は、今回のインタビューでとても伝わってきました。待望の1stアルバムのリリースに3周年ライブと大きなイベントが続きますが、活動を広げていく中でこれからやっていきたいことはありますか?
神戸 いずれはツアーをやりたいですね。地方出身者が多いので、凱旋公演したいというのはよくみんなで言っているんです。
飯野 私はソロコレクションを出したいです。ライブではカバーでソロを歌ったりもするんですが、オリジナルでもソロ曲を一杯出して、6枚組のソロアルバムを出せたら最高ですね。
鈴木 ランティス祭りは生バンドとの出演になるのですが、私たちの音楽としての良さを知ってもらうために生バンドを入れてのライブをもっとしたいです。
片平 今回のアルバムでは作詞ができたので、今度は曲作り合宿とかしてみたいですね。
岩淵 私は野外でライブしてみたいです。私たちの音楽はきっと野外でも映えると思うので。
田中 私はなんといってもずっとみんなで歌い続けたいですね。
飯野 ユニットとしては私たちはアニソンアーティストなので、アニソンタイアップをいっぱい歌ってランティスのアーティストですって誰もに認められるようなグループになりたいです。
神戸 ランティスといえばNOW ON AIRだよね!みたいな!
飯野 それはまだまだ言えないですが(笑)。もっと多くの人に歌を届けられるようにみんなで歌い続けていきます!
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