韓国の文在寅大統領が日本を批判するトーンをいっそう強めている。

 7月4日に日本政府は韓国向けの半導体材料の輸出規制を発動。昨年10月以降、立て続けに下されている「徴用工判決」への事実上の対抗措置だが、文大統領7月15日に行われた青瓦台での会議で次のように語った。

「(日本の輸出規制は)私たちの政府に対する重大な挑戦だ。韓国経済が一段と高い成長を遂げる時期に、韓国経済の成長を妨げるも同然(の行為)で、決して成功しないだろう」

日韓の議論は未だ平行線

 事の発端となった徴用工判決に関しては、韓国政府が6月、日韓企業が自発的に資金を出し合って補償する「1+1基金案」を提案したものの、日本政府が拒否した経緯がある。文大統領はこれについては、

「(1+1基金案が)唯一の解決策だと主張したことはないし、両国民と被害者たちの共感を得られる合理的な方法を一緒に論議してみようということだ」

 と釈明した。

 その一方で韓国側は、日本政府がかねてから求めている日韓請求権・経済協力協定に基づく仲裁手続きについて受け入れない方針を明らかにしている。

 文大統領の基本スタンスは、どんなかたちであれ、「日本企業が資金を拠出して徴用工問題を解決すること」である。しかし、日本側のスタンスは一貫して1965年の日韓請求権協定で解決済みというもの。

 それに基づき、三菱重工業をはじめ、韓国の大法院(最高裁)から賠償命令を受けた日本企業は原告側との賠償協議に応じる意向は示していない。この点で、日韓の議論は平行線をたどっているのだ。

文在寅政権の対応に疑問を抱く元駐日韓国大使

 実は、韓国内でも「日本が資金を拠出すること」にこだわる文在寅政権の対応に懐疑的な見方をする人が結構いる。その1人が、韓国有数の“知日派政治家”であり、元駐日韓国大使の柳興洙氏(81)だ。幼少期を日本で過ごし、日本語が完璧な柳氏は、国会議員を4期務め、韓日議連幹事長も歴任した日韓交流の立役者である。

 そんな柳氏は、昨年11月、徴用工判決が出た直後の「文藝春秋」1月号のインタビューで、次のように語っていた。

「日本企業が賠償金を支払うという形にしてはいけません」

「『韓国の民事判決』が“韓日決裂”という外交問題に発展している今、それを解決する責任は間違いなく韓国政府にあるということです。『司法の判断であり行政は関係ない』と知らん顔をしてはいけません」

 当時、柳氏が強調していたのは、「徴用工問題については、韓国政府自身が悩みに悩んで解決策を考えるしか方法はない」ということだった。

「絶対に日本企業が賠償金を支払うという形にしてはいけません。仮にそうなった場合、韓日関係は取り返しのつかない状態にまで悪化してしまいます。それは絶対に避けるべきです」

 しかし今、韓国政府が求めているのは、まさに柳氏が危惧する“日本企業が支払うという形”である。

河野太郎外相も韓国を強くけん制

 こうした韓国側の動きに、日本側も警戒心を強めている。河野太郎外相は7月16日記者会見で「万が一、日本企業に実害が及べば、必要な措置を講じざるを得ない」と述べ、原告側が差し押さえた日本企業の資産が現金化されないよう強くけん制した。

 史上最悪とも言われる日韓関係は、今、いっそう深い泥沼にはまりつつある。「文藝春秋」1月号に掲載された柳氏のインタビュー記事「文在寅政権は我が韓国の『信用』を失った」は、悪化の一途をたどる日韓関係の本質を理解するための補助線になるだろう。
 

(「文藝春秋」編集部/文藝春秋 2019年1月号)

韓国の文在寅大統領 ©共同通信社