日本のボクシング人気は確実に高まっているようだ。

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 フジテレビ系列で12日に放送されたボクシングのダブル世界タイトルマッチは関東地区で平均視聴率9・9%、最高視聴率14・9%をマーク。一方、関西地区の視聴率はこれをさらに上回って平均12・9%。最高20・8%の数字を叩き出した。裏番組ではテレビ朝日系列プロ野球の「マイナビオールスターゲーム・第1戦」(東京ドーム)が放送されており、平均視聴率は関東地区が9・1%、関西地区で13・4%だった。関東地区に限って言えば、人気コンテンツのプロ野球球宴をボクシング中継が平均視聴率で越えたことになる。関西地区でも0・5%しか変わらず、いかにこの日のボクシング中継が世の中の興味を集めていたかが、数字として表れた格好だ。

 この中継では2人の関西出身の世界王者が圧倒的な強さを見せつけた。まずはWBC世界ライトフライ級王者・拳四朗(BMB)が同級1位のジョナサン・タコニン(フィリピン)を4回TKO勝ちで下し、6度目の王座防衛に成功。そしてメインのWBC世界ミドル級選手権は前王者で挑戦者の村田諒太(帝拳)が劇的な2回TKO勝ちで王者のロブ・ブラント(米)に雪辱を果たし、鮮烈なインパクトを残した。

期待高まるスーパースターとの対戦

 特に村田は一夜にしてヒーローに返り咲いた。下馬評では分が悪く苦戦を予想する有識者も数多くいただけに、それを見事に覆して最高の形でリベンジを成し遂げたことで日本中を感動の渦へと巻きこんだ。その余韻は数日が経過した今もまだ残っている。

 その村田には次の対戦相手が誰になるのかが注目されている。ブラント戦の直後には帝拳との共同プロモーターとなっているトップランク社のボブ・アラム氏が一部メディアに対し、WBA世界同級スーパー、IBF同級、WBC同級フランチャイズと3団体のチャンピオンベルトを保持して〝統一王者〟に君臨する「カネロ」ことサウル・アルバレスメキシコ)との一戦を希望しているとも報じられた。さらに国内の別のメディアでは、元同級統一王者でカネロの宿敵でもある「GGG」ことゲンナディ・ゴロフキンカザフスタン)が村田の次期対戦候補として有力視されているようだ。

 そうした流れを受け、日本のボクシング界やファンの間でも村田の次戦はカネロやGGGとのスーパービッグマッチとなることを期待する声が高まっているようだ。だが、普通に考えれば極めて難しいと言わざるを得ない。ブラントにリベンジを果たしたことは本当に素晴らしいことだが、それだけでいきなりミドル級の“トップ戦線”に食い込むという算段はさすがに無理がある。

カネロとGGG、それぞれの事情

 ちなみにカネロの保持する3本の世界ミドル級チャンピオンベルトのうち、WBAスーパー王座は村田の持つWBA同級王座よりも格上だ。事実、村田の持つWBA世界王座についてESPNなど米の主要メディアは「第2の世界ミドル級ベルト」との見解を持ち、公の場でもその呼称を一貫して用いている。間違いなく世界ミドル級の最強ボクサーとして位置付けられるカネロから見れば、残念ながら自分よりも格下の王座を保持する村田はまだまだ〝美味しい相手〟ではないだろう。

 それでは世界ミドル級のナンバー2と目されるGGGの近況はどうか。

 カネロとの頂上決戦に敗れてからの再起戦となった6月8日の試合でIBF世界ミドル級8位、WBC15位のスティーブ・ロールズ(カナダ)を相手に4回KO勝ち。その場でカネロとの通算3度目の激突となるラバーマッチ実現をアピールしたが、どうにも雲行きが怪しそうだ。カネロ陣営がこれまで対GGGに1勝1分の戦績を残して「決着」と見ていることで、次のターゲットとして視野に入っていないという見解が米メディアの間で大勢を占めつつあるからだ。

 しかも実力の拮抗するGGGはカネロにとっても強敵で、仮にラバーマッチが実現すれば、3度目の判定決着となることも考慮せねばならず、ぎりぎりの戦いを強いられる可能性は高い。リスクを背負うのはもちろんのこと激しい体力の消耗も考えられ、身を削ってまでも無冠のGGGと戦う意味が果たしてあるのかという計算もカネロ陣営には働いているようだ。

 そういう背景もあり、カネロ陣営はWBO同級世界王者のデメトリアス・アンドレード(米国)に次の照準を絞りつつある、という見方もある。アンドレードは先月29日に挑戦者のマチェイ・スレツキ(ポーランド)を判定で下し、2度目の防衛に成功。28戦全勝(17KO)の快進撃を続けているサウスポーで、オーソドックススタイルのカネロからすれば「与しやすい」とは言い難いが、この一戦には何よりも勝てばWBO王座も統一できるという大きなメリットがある。

 ただ、カネロとGGGが巨額契約を結ぶスポーツコンテンツ専門のOTTサービス「DAZN」は、この2人のラバーマッチ実現に乗り気のようである。何だかんだと言ってもGGGは無冠ながらミドル級ビッグネームで自社が抱える世界のスーパースター。同じく契約選手のトップボクサー・カネロとの一戦ならば好ファイトは必至で、たとえ3度目であってもこの魅力的なカードが起爆剤となって加入者数の増加につながるとDAZN側は踏んでいるようだ。

 このように、カネロ、そしてGGGを取り巻く現状から見て、今のところ2人のベクトルが村田に向けられていない以上、やはり次戦で〝ビッグ2〟のどちらかと激突しようというのはいささか飛躍し過ぎであろう。

”安パイ”ではなく強敵とのマッチメイクを

 とはいえ、GGGに関しては「可能性がまったくない」とは言い切れない。カネロとGGGのラバーマッチがDAZNの後押しも実らず実現しなかった場合だ。その場合、GGG側は次の〝代役〟を探す必要性に迫られる。そのタイミングで、過去にGGGとの対戦実現も噂されていた村田が再浮上してくるとの展望が、僅かながら残っている。実際にGGGも以前から村田の実力を認めており「対戦候補」と明言したこともある。

 その観点に立てば、村田が今回、WBA王座を2回TKOという鮮烈なインパクトを残す形で奪い返したことは好材料と言えそうだ。米の主要メディアからも「年間最高ラウンド」と評されるなど、米国を筆頭に世界中へ「リョウタムラタ」の名をあらためて轟かせたからだ。前回の惨敗を教訓にし、33歳という決して若くない年齢でありながら短期間で攻撃的なボクシングスタイルに変えて見事リベンジに成功したことも世界中を驚かせた。ブラントとの戦いを経て村田の価値は大きくジャンプアップしている。あとは村田の契約するトップランクと帝拳の手腕次第だが、GGG側にはカネロにフラれたところで電光石火の仕掛けから交渉の成立を目論むしかない。いずれにせよ、村田対GGGのマッチメイクは楽観視できない、相当に高いハードルがあるのは事実である。

 その他にも村田には、あの6階級制覇王者マニー・パッキャオフィリピン)を2017年に倒した元WBO世界ウェルター級王者でミドル級に転向したジェフホーン(豪州)との一戦や、前WBA王者・ブラントとのラバーマッチが「フーズ・ネクスト」としてメディアに取り上げられている。

 しかしながら年齢面を考慮すると村田にはあまり時間の猶予はない。やはり以降の相手は“安パイ”ではなく、世界が認めるような強敵とのマッチメイクをぜひとも望みたい。不屈の根性で奇跡を起こし続けて来た村田が、近いうちに何とかカネロ戦に辿り着くことを心の底から願う。
 

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ロブ・ブラントにリベンジを果たした村田諒太(中央)とトップランク社CEOのボブ・アラム氏(右)、WBAのヒルベルト・メンドサJr会長(写真:山口裕朗/アフロ)