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Point

■米国のスタートアップ企業「Neuralink」は人間の脳とコンピュータを直結させる技術についてプレゼンを行った

■髪の毛の4分の1程度の幅のワイヤーを脳組織へ埋め込むことで、大量のデータの読み書きが行えるという

■このブレイン・マシン・インターフェースについて、同社は2020年中に、実際に人間を使った臨床試験の実施を目指している

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「Neuralink」は2017年創業のスタートアップ企業だ。

スタートアップ企業というのは早期にイノベーションの創出や新ビジネスの構築を目指して、現在はまだ確立されていない技術や、市場開拓を目標に資金調達を行い創業された企業のことを刺す。

現在「Neuralink」が目指しているのは、脳と機械の直結だ。この技術について、同社は実際に人の脳を使った臨床試験を2020年中に実施したいと話している。

SFまがいの目標だが、これまで秘密主義で進められてきた技術について、同社は7月17日にプレゼンを公開し、これはNew York Times紙やBloombergなどの大手メディアでも話題に取り上げられている。

同社のプレゼン動画は、YouTubeに公開された。

Neuralink Launch Event
https://youtu.be/r-vbh3t7WVI

脳と機械の直結

「Neuralink」が創立当初目的としていたのは、てんかんなど大脳に起因する慢性疾患の緩和を目的とした、脳に直結するインターフェースの開発だった。

この研究過程において、人の脳とコンピュータを繋ぐテクノロジーが開発されたというのだ。

今回プレゼンされたのは、人の脳内へ細いワイヤーで繋がれた極小のチップを埋め込み、そこから読み取った信号によって、考えるだけでスマートフォンなどの操作を可能とする技術だ。

これは髪の毛の4分の1(直径6μm)程度の極細ワイヤーが何十本もチップの電極に繋がっており、チップもワイヤーも薄く柔軟性があるため、脳組織を傷つけることなく、ともに動くような状態で埋め込めるという。

Credit:@brainupdates

チップの埋め込みのためには、現在の技術ではドリルで頭蓋骨に8mmほどの穴を4つ開けて脳内へ挿入する必要がある。これは将来的にはレーザーを用いることで何も感じることなくユーザーへの装着を可能にすることを目指している。

埋め込まれたチップからつながるワイヤーは、耳の後ろに外科的に埋め込まれたデバイスへと接続され、そこから無線信号により対象となるコンピュータへ伝えられる。

Credit:@brainupdates

すでにこの技術は、マウスを用いた実験で成功しており、頭にUSB-Cポートを埋め込まれたマウスは、正常に活動を行い、脳内の信号データを収集することができたという。そのデータ量は従来のセンサーを用いた方法に比べ10倍近いものとなっている。

非常に小さいワイヤーは移植による脳の損傷リスクを大きく減らす。Credit:@brainupdates

この技術は、まずは重篤な全身麻痺患者を対象に、彼らが意思の力で機械を操作できることを目指している。この技術が実現されれば、全身麻痺の患者でも自分の意思でアームを操作し、コップの水を飲むなどの動作が可能になる。

しかし、彼らの目標はもっと先の未来を見据えているようだ。彼らの最終的な目標は、患者に限らずこのシステムを脳内へ埋め込み、触らずにスマートフォンなどの操作を行い、さらにはインターネットへ接続して、新しい言語を頭の中にダウンロードし学ぶことなく使いこなしたり、他人とデジタルな意見を脳内で交換することだという。

さすがにそこまでいくには、途方もない時間がかかりそうだが、そうした未来へ向けての技術開発を彼らは行っている。

こうした研究を彼らが進めるもう1つの理由は、AIの台頭に対する警戒からだという。

現在のままAI技術が進歩すれば、いずれ人類は彼らにとって劣った存在となってしまう。例えAIが善良な存在だったとしても、人工知能と人類が対等な関係で共生していくためには、人類にもデジタルデータへのダイレクトなアクセス能力が必要となるはずだ。

懐疑的な意見

彼らはスタートアップからまだ数年の小さな企業だ。当然資金調達などのために、いささか大げさに成果や目標を謳っている可能性も当然否定はできない。

公開されている情報も極僅かだ。

ブルームバーグもそっけないと評する「NEURALINK」のホームページ。確かにかなり簡素だ。 / © NEURALINK 2019

マウスで実験の成功した技術を人間に適用するというのもかなり飛躍した話だ。物理的にチップケーブルを脳内に埋め込むという方法は、被験者に重大な問題を引き起こす恐れがある。彼らの目指す2020年内に人体での臨床試験の認可を得るという計画は、かなり難しいように思われる。

だが、ブレイン・マシン・インターフェースについて考えるならば、視覚に障害のある患者の脳内へ、デバイスを埋め込みデジタルカメラの映像を視神経へ送り込むことで視覚を回復するという研究が、すでに人間に対して行われている。

実際、「Neuralink」が大きすぎるこの目標に対してどこまで近づいているのかはわからないが、現在彼らが麻痺に苦しむ患者を助けることに焦点を当てて、これらの技術開発を勧めており、実際に日本円にして180億円近い資金を調達していることは事実だ。

今まで秘密主義で進めていた研究を一部オープンにしたのは、今後この分野の研究において、大学や研究機関との連携をしやすくすること、そして新しい才能を採用することが目的だという。

世界を情報でつなぐインターネット自体、かつては絵空事と考えられていた時代がある。そのために日本がほとんど投資を行わず、インターネットに関わる技術を海外に奪われてしまったことを考えれば、ちょっと信用できない飛躍した技術に期待するのも、悪いことではないかもしれない。

しかし、脳を使った人体実験はやはりマッドな臭いがしてどうにも怖いものがある。現代のロボトミーみたいなことにならないことを祈るばかりだ。

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reference:bloomberg,techcrunch,zmescience/ written by KAIN
2020年中に人間の脳と機械を直結する「Neuralink」 中には懐疑的な意見も…