役者、大泉洋には色気がある。

『ゲゲゲの鬼太郎 千年呪い歌』

大泉洋がTVバラエティ「水曜どうでしょう」をきっかけに全国区で人気となったのは、もう15年以上前のこと。だが当時、彼が演劇ユニットTEAM NACSのメンバーとしても活躍する役者だという認識をもつ人は少なかったのではなかろうか。

そもそも彼が役者として最初に注目された映画作品も『ゲゲゲの鬼太郎』('07)のねずみ男役。笑いの要素を期待されての抜擢だが、芸人が必ずしも面白い芝居ができるわけではないように、芝居で人を笑わせることは存外に難しい。ところが大泉は、もち前の笑いのセンスをそのまま演技に生かしつつ、自身の演じる役柄に説得力をもって魅せることができる人。

大泉の代表作ともいえる『探偵はBARにいる』シリーズ('11~’17)が分かりやすい例だ。最初こそ大泉洋と“ハードボイルド”という言葉のかみ合わなさにクスッとしたりしたものだが(ごめんなさい)、蓋を開けてみればどうだろう。

真冬の北海道を背景に、雪に生き埋めにされる第1作、スキージャンプ台の頂上に吊るされる『~2 ススキノ大交差点』、パンツ一丁で船の先にはりつけにされる『~3』。数々の体を張ったアクションと、松田龍平演じる相棒の高田とのとぼけた掛け合いで観客を存分に笑わせる。

その一方で、一見渋い雰囲気とは裏腹に、真っ直ぐで諦めが悪く、弱いくせに強気で、結局は女に弱い。冗談半分のような生き方をしながら、依頼人となるヒロインのために時に傷つき涙するそのギャップに、完全に心をもって行かれた。

「俺はこの街のプライベートアイ」のセリフとともにススキノを闊歩する姿に、「依頼人を守るのが探偵の仕事だ」と命を懸けて戦う姿に、漂う哀愁。そして色気…!

ある在日コリアン一家の物語を描いた『焼肉ドラゴン』('18)では、より男くさく、そんな色気を感じさせた。大泉演じる、関西弁で口が悪く仕事も長続きしない男、哲男は、幼馴染みの妹と結婚しながら、実はその幼馴染みのことを密かに思い続けるどうしようもない男。だが、彼女に向ける一途な愛と、なりふり構わない切実さを伴った告白には、彼女だけでなく、妹を含む家族、さらには観客の心さえも動かされてしまう。「ほんまにダメな人やなぁ」と抱きしめられる哲男の、そのダメな部分すらも愛おしく思わせてしまう。

さらに、45歳のファミレス店長に恋する女子高校生を描いた『恋は雨上がりのように』('18)では、「普通を意識した」という大泉が冴えない中年男を体現。本作ではむしろ色気を出さないことで、ともすれば陳腐になりかねない女子高校生おっさんの恋という題材を爽やかな恋愛映画にとどまらせる役目を担ったが、その計算し尽くされた“普通”に、やっぱり色気が漂うのはなぜだろう?

今も故郷、北海道でレギュラー番組をもち、舞台挨拶や番宣に立てばとにかくしゃべり倒し、人をいじり、ボヤき、笑いを巻き起こす。“面白い人”と誰もが信じて疑わず、ファンからは愛を込めて“洋ちゃん”と呼ばれ続ける…。

役者にとってキャラの濃さは時に邪魔になるが、大泉はそれがプラスに働く稀有な存在。当然だが、どの作品を見ても役柄=大泉ではない。にもかかわらず、根底にそのキャラがあるからこそ、面白い場面はより面白く、切ない場面はより切なく映る。それこそが、誰もが彼をマルチタレントではなく実力派俳優と認める所以であり、“色気”が引き出されるポイントなのだろう。

人としての魅力を役者として最高純度の形で昇華する大泉洋。我らが“洋ちゃん”の魅力には、底がないのだ。(ザテレビジョン

『探偵はBARにいる3』