ディズニーピクサーの最新作『トイ・ストーリー4』が先週末から日本でも公開をスタートし、外国映画のアニメーション歴代1位のオープニング記録を叩き出すヒットを記録している。本作を紹介するいくつかの記事では、この物語がシリーズの“完結”や“終わり”を描いていると書いているが、本当にそうだろうか? 監督を務めたジョシュ・クーリーは語る。「これまでの『トイ・ストーリー』シリーズはどれも作品の最後で“新しいドア”が開いています。だから、今回の映画では新しい未来を感じてもらいたいと思って制作にあたりました」

1995年に全米で公開された世界初の全編フルCGアニメーション長編映画『トイ・ストーリー』は、これまでに3作品が製作され、『トイ・ストーリー3』では“三部作”の幕を閉じる感動的な結末が描かれた。「私も3作目でシリーズは終わったと思っていました」とクーリー監督は振り返る。「だから、4作目を製作すると最初に聞いた時は、おそらく観客のみなさんと同じことを思いましたよ。え? なんで4作目? まだ続きがあるの? って。思わず口にしてしまったぐらいです(笑)」

前作のラストでウッディやバズらオモチャたちは、持ち主だったアンディのもとを離れて、新しい持ち主のボニーの家にやってきた。しかし、アンディのお気に入りのオモチャだったウッディは近ごろは遊んでもらう機会がなく、ボニーは先割れスプーンで作った自作のオモチャ“フォーキー”を気に入っている。しかし、手作りで生まれたフォーキーは自分はオモチャではなく“ゴミ”だと思っており、ボニーの一家が旅行に出た先でまさかの脱走。ウッディはボニーの大好きなフォーキーを助けるために冒険に出かける。

前作で感動的な大団円を迎えたシリーズに新しいドラマを追加する必要はあるのか? クーリー監督は「だからこそ製作の初期の段階から単なる“もうひとつの冒険”を描くものにはしたくなかった」という。「これまでの『トイ・ストーリー』シリーズはどれも作品の最後で“新しいドア”が開いています。例えば1作目のラストではウッディとバズが親友になって、新しい生活がスタートします。2作目、3作目のラストもそうです。だから、今回の映画でも新しい未来を感じてもらいたいと思って制作にあたりました」

そこで監督が考えたのは、これまでのシリーズのルールに従って“続編”をつくるのではなく、ルールをほんの少しだけ曲げたり、客観的な視点を持ち込むことだったという。「シリーズの1作目と2作目の公開時には私はピクサーに入る前でしたから、純粋に観客として映画を楽しみました。だからこのシリーズのルールやトーンは自然に身についていますし、すでに存在しているものでした。オリジナル作品を生み出す苦労はその“ルール”をゼロから作り上げることにありますが、続編をつくる際にはルールをほんの少しだけ曲げてみたりする楽しさがあるんです。だから今回の映画でも、最初はオモチャではなかった手作りのフォーキーを登場させましたし、新キャラクターがこれまでのシリーズでは決してやらなかったことをします。それは作っていても楽しかったですし、観客のみなさんにも驚いてもらえる点ですね」

さらに監督たちは長い時間をかけて物語を作り上げる中で、本シリーズの根幹にある“ルール”に手をつけることになった。それは“オモチャと持ち主である人間の関係”だ。本シリーズでオモチャは持ち主の子どもに遊んでもらうことを最上の幸せだと考えていて、持ち主のために奔走し、悩み、どんな危険もおかす。しかし、オモチャは自分たちが考え、自ら動けることを人間に知られてはならず、その想いや愛は時に叶わなかったり、一方通行の切なさを観る者に感じさせる。

「そういう意味ではこの映画に登場するオモチャたちは“親”のようなところがあります。小さい子どもが育っていく中で、親はいつも子どものそばにいることが当たり前だと思っていますし、何が起ころうとも子どものそばにいようとします。でも、子どもはそのことを知らないわけです。それはこれまでの『トイ・ストーリー』シリーズすべてに貫かれているルールであり考えでした。ウッディはいつだって持ち主のアンディのために存在し、行動しています。ウッディが他のオモチャを救うのは、アンディがそのオモチャを大切にしているからです。逆に1作目でウッディがバズを窓から突き落としたのは、自分がアンディのそばにいるためにジャマになるものを消そうとしたからです。ウッディは持ち主のために存在している。それがすべてを貫くルールでした」

だからこそ、『トイ・ストーリー4』では、この最重要ルールに初めて手をつけた。「持ち主がアンディからボニーに変わって、彼女がウッディのことを必要としなくなったとしたら、彼はどうするだろう? それが今回の映画のテーマになりました」。その結果、本作はシリーズ3作目の“続き”ではなく、これまでの三部作をある意味では客観的に考察したり、これまで当たり前だったルールに揺さぶりをかけたり、オモチャと人間の関係を離れて、人間同士の関係にまで考えが広がる作品になった。「そうだと思います。すでに4作目を観てくださった多くの方がこの映画を個人的なものに感じたと言ってくれます。それは、この映画がウッディがこれまで信じてきたこと、彼の信条に“挑戦状”を突き付けるものになっているからです。友人の意味とは何か? 家族とは何か? 目の前にいる人以外にもどこかで助けを必要としている人がいるのではないか?……そんなことを私たちは考えて映画をつくりました」

完璧な結末をもつ三部作の後に『トイ・ストーリー4』が作られたのは、三部作が当たり前だと思ってきたルールそのものに光をあて、ルールをあえて解体し、新しいドラマを、“新しいドア”を開くためだ。「そう言っていただけるのはうれしいです。最初からこれまでと同じような映画は作りたくないと思っていましたし、他の映画では描かれないような感情、なかなか感じられない気持ちを味わってもらいたくて本作をつくりました」

トイ・ストーリー4
公開中

『トイ・ストーリー4』