Point

■平成以降で最悪の火災となった京都アニメーションの放火事件、被害が甚大になった原因はガソリンにあると考えられる

■ガソリンは常温で気化し、着火温度はマイナス40℃、そのため一度着火すれば、爆発的な延焼を起こす

■ガソリンによる火災は通常想定されておらず、一般の防火対策、消火設備は役に立たない

多くの人が衝撃を受けた京都アニメーションの放火火災。

玄関付近で火を付けられたという報道内容に対して、三階建ての建物内にいた半数近い人々が亡くなるというのは、あまりに被害規模が大きすぎて不可解に感じている人もいるだろう。

これらは放火の際、火元にガソリンを使われたことが原因だと考えられている。

なぜガソリンだとそれほど被害が大きくなるのか? ガソリンの危険な性質について一つずつ見ていこう。

低い引火点と沸点

ガソリンの引火点は-40℃以下と非常に低温だ。引火点は火を近づけた場合に着火可能な温度のことだが、爆発下限値ともいい燃えやすさの指標になる。低ければ低いほど、わずかに空気中へ漏れるだけで簡単に燃焼する危険がある。

またガソリンは沸点が低く30℃〜220℃と言われている。沸点に幅があるのはガソリンが複数の化学物質の混合物だからだ。精製する際の環境によって変化するが、常温状態でもガンガン気化していく。

ガソリンのような引火性の液体というのは、液体自体が燃えるわけではなく、実際は蒸発燃焼という液面から蒸発した可燃性蒸気が空気と混合して燃えている。気化しやすいということは、それだけ勢いよく燃えやすいことを示している。

Credit:Donut Media Gasoline – How it works | Science Garage | Donut Media

非水溶性・低い比重

ガソリンは水に溶けない。そして比重が0.8と1以下だが、これは水に浮く性質を表している。

ガソリン火災では、スプリンクラーが役に立たないという指摘がされているが、それはこのガソリンの性質が原因だ。

水を撒いたとしてもガソリンは水によって薄まることがなく、それどころか撒き散らされた水の上を移動しながら燃え広がっていく。引火点は低いので水が多少温度を下げたとしても火が消えたり、燃えにくくなるということもない。

水に浮く性質があるため、水の下に封じられて空気と触れなくするという状況も作ることができない。

水を撒いても、ガソリンは水の上で燃焼を続け、火の勢いを抑えるどころか広い範囲へ移動させるきっかけを作るだけになってしまうのだ。

Credit:図解でわかる危険物取扱者講座

撒き散らされた場合の危険性

一般的な感覚だと、携行缶のようなガソリンの詰まった本体へ火を放った方が、危険な爆発が起こるのではないかという想像が働く。

ガソリンを撒き散らしたり、水を掛けて広範囲に移動させた場合、火の勢いは弱まるのではないだろうか?

しかし、実際ガソリンが危険なのは、広範囲に撒き散らされた場合なのだ。

ナショナルジオグラフィックの動画にタンクの中のガソリンがどの量だともっとも危険かを検証したものがある。

Credit:FOX NETWORKS 【ナショジオ】クイズ!大爆発する車はどれ?

この動画では、タンク満タンの車は着火させても何も起こらない。ところが、ガソリンがほぼからタンクの車は大爆発を起こす。

Credit:FOX NETWORKS 【ナショジオクイズ!大爆発する車はどれ?

ガソリンは常温で気化し、空気と混ざりあうことで爆発的な燃焼を起こす。また、空気より重いため気化した後に拡散して薄まるということがない。非常に強い燃焼性を持つ気体が床近くに滞留し続けることになる。

撒き散らされることで、可燃性蒸気が空気と混ざりやすい状況となり、燃焼の勢いが増し爆発を起こす危険が増すのだ。

一瞬で広がるガソリンの火炎

これらの理由により、撒き散らされたガソリンは一瞬にして広範囲へ燃え上がり、高温の煙や炎が瞬く間に建物全体を包み込んだと考えられる。

ガソリンの着火は通常火災とは比較にならない速度で燃え広がる。そのため例え火災の備えが万全な状態だったとしても、火災報知器が鳴る時間も、防火扉が作動する時間も十分に得らない可能性が高いという。

これが多くの人が逃げ遅れてしまった原因かもしれない。

ナゾロジーもよくアニメネタを記事に挟むので、よく見ている人はアニメ好きがいると勘付いているかもしれない。

アニメ好きの多くは、京都アニメーションの作品に少なからず辛い時期を支えてもらったとか、行き場のない気持ちを救ってもらったという思いを抱いているのでは無いかと思う。

この火災事件は、知らない誰かに起きた痛ましい悲劇ではなく、どこかで自分を救ってくれた人たちに起きた悲劇と受け止めて衝撃を受けている人たちが多いだろう。

ネットでは、犯人の動機や、陰謀説、被害の状況などについて、様々な憶測や推理が飛び交っている。こうした状況に対して不謹慎だ、と不快に感じる人もいるかもしれない。

しかし、こうした推理合戦は、悪意の元に行われているのではなく、心理学的における防衛機制の「知性化」に当たる行動ではないかと考える。

あまりに悲しい出来事や、受け止めきれない出来事に対して、人は感情を閉じて、知的作業に集中することで対処する。そうして、心で感じたくない問題を頭で忙しく考えることで受け止めるのだ。

こうした記事の知識が、そんな知性化で悲しみを分散する人たちの助けになれば良いと願っています。

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reference:zukai-kikenbutu,札幌市/ written by KAIN
京アニ火災 知られざるガソリンの恐ろしさとは