大阪G20サミット開催前、京都で宗教の観点から現代社会の問題を話し合う、G20諸宗教フォーラムが開かれた。180人あまりの宗教指導者が出席した。共産党体制下の中国では、信仰を理由に囚われた無実の人々が、臓器を強制的に摘出されている問題が10年以上続いており、この問題は生命科学と倫理の課題の一つに盛り込まれた。

生命科学と倫理 G20首脳へ提言

舞台デザイナーで、G20諸宗教フォーラムの設営デザインに関わった月ケ瀬氏は、「生命科学と倫理」をテーマにした講演で、中国で起きている臓器強制収奪問題を語った。

「中国では、ある『蛮行』が行われていることを知っていますか。平和に暮らす人が突然逮捕・勾留およびメディカルチェックを受けて、臓器の情報が記録され、一旦は保釈される。しかし、やがて彼の心臓や腎臓、肝臓に適合した裕福な患者が現れたとき、再び彼は捕まえられ、生きたまま臓器を取り出される―」月ケ瀬氏は講演の冒頭でこう述べた。

月ケ瀬氏は、どうすれば、無実の人々から臓器が強制摘出されるという問題を止められるのか、倫理に基づくアイデアの検討を呼び掛けた。月ケ瀬氏は、実際に臓器移植の待機患者や家族の苦しみは考慮されるべきだが、「他人が犠牲になることで自分が生きられる」という倫理の選択肢そのものは、臓器移植に関して存在してはならないと主張した。

「単に、中国が行っていることは悪いことだ、と非難するだけでは解決にならない。法的に、自国民が臓器移植システムの不透明な海外で渡航移植を受けることを禁止する法律が検討されるべき」とした。

講演後のメールインタビューで、月ケ瀬氏は、この中国臓器収奪問題を取り上げた理由について、「生命科学と倫理を考えるにあたり、G20ホスト国として、必ず取り上げなければなければならない問題」と捉えていたと語った。

初めて臓器摘出問題を知ったのは数年前、臓器摘出問題を映したドキュメンタリー映画『知られざる真実』を大阪で鑑賞してからだという。その後、姫路市で同映画の主催イベントも開催した。

その内容は、「SF小説」かと見まがったという。大学で倫理学を学んだ月ケ瀬氏は、クローン人間の人権、電脳世界の人格論などのディスカッションを経験したが、邪性を容認する傾向には違和感を感じていた。

「SF小説や大学でのディスカッションでは、『必ずしも悪とは言えない』とか『悪に手を染めてしまう人間の弱さ』などの論調に流れる傾向がある。しかし、『それはあかんやろ』と正義を貫くのが主人公であり、私たちの良心、良識の声ではないだろうか」

諸宗教フォーラムでは、8つのセッションをまとめた宣言文「京都宣言」が採択された。G20サミット首脳への提言のひとつとして、宗教と人権課題として「今もなお世界各地で政治的・民族的・宗教的に抑圧されている大勢の人々の現状を見逃さず、世界人権宣言に基づき、G20諸宗教フォーラム参加の宗教指導者は世界の分断を超克して共に生きる社会の構築に取り組む」が盛り込まれた。

高まる宗教の自由への危機対応

宗教の自由の危機について、国際的な課題としての優先度が高まっている。7月中旬、米国務省主催の信仰自由推進会議が開かれている。千人あまりの各信仰者がワシントンに集まり、信仰に対する迫害について議論を交した。

トランプ大統領7月17日、中国、イランなど17カ国からの宗教的迫害を受けた信仰者27人と面会した。その中の一人である法輪功学習者は大統領に、迫害と強制的な臓器摘出問題が依然として続いていると訴え、米政府の介入を求めた。大統領は「(問題を)知っている」と返答した。

7月12日スイスのジュネーブで開かれた国連人権理事会で、日本や欧州諸国など22カ国は、中国が新疆ウイグル自治区ウイグル族や少数派のイスラム教徒を大規模に拘束していることに懸念を表明する文書を提出した。

ロンドンでは6月17日、第三者による調査と結果を示す「民衆法廷」中国臓器収奪問題の最終裁定が発表された。50人以上の証言と1年に渡る調査の結果、議長を務めたジェフリー・ナイス卿は、中国では移植手術の供給のために臓器収奪が行われていることは「避けられない事実」との結論を下した。

(編集・佐渡道世)