日韓関係は底なし沼にはまり込んで身動きができない状態にある。とくに、7月1日に日本政府が発動した輸出規制措置(半導体製造などに不可欠な先端素材が対象)の衝撃があまりにも大きく、文在寅政権の屋台骨を揺るがすような事態になっている。韓国側は、日本がまさかここまで強硬な手段に出てくるとは思わなかっただろうし、日本側は相手がそんなにうろたえるとは思ってもいなかったであろう。

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隣国ながら互いに相手を理解しようとしない日韓

 隣国でありながら、日韓の認識ギャップがいかに大きいかに驚かされるが、その背景には歴史認識の問題をはじめ、相手の立場に立って思考するという習慣が双方に欠けていることがある。

 韓国にすれば、韓国(朝鮮半島全体であるが、便宜上こう書いておく)を植民地支配し、韓国民に与えた損害について、日本は永遠に謝罪し続けるべきである。加害者は日本、被害者は韓国という図式は不変であり、過去のことを考えれば、今回のような制裁措置は言語道断である。

 一方、日本にしてみれば、近代の帝国主義の時代に自国の独立を守り抜くことができなかった責任の一半は韓国にある。日本の植民地時代に被った苦痛については理解するが、それは、1965年日韓基本条約(及び、それに伴う諸協定)で、賠償問題を含め全て解決済みである。

 国際法的には日本の主張が正当であるが、「従軍慰安婦」や「徴用工」については、感情的要素が大きく影響し、歴史認識の相違としてとして韓国側は問題にするのである。

 慰安婦問題については、2016年7月に日本側が10億円を拠出して「和解・癒やし財団」が設立されたが、2018年11月に韓国政府は同財団の解散を決め、今年の7月5日に正式解散を発表した。

 徴用工についても、政府間での合意がどうであれ、日本企業に対する徴用者の個人請求権については認めるという裁判所の判決が相次いでいる。これに対して、日本政府は韓国政府に対して善処を求めたが、文在寅政権は三権分立、司法の独立を盾にして応じなかったのである。しかも、三菱重工などの日本企業に対して、韓国の原告は、資産売却手続き開始へと歩を進めつつあり、遂に日本側は輸出規制措置に出たのである。

 韓請求権協定第3条には、この協定に関する紛争は外交で解決し、解決しない場合は、第三国を含めた仲裁委員会を設置して、その決定に従う、と記されている。

 徴用工訴訟をめぐる両国間の交渉を振り返ると、まず1月9日に日本が韓国に二国間協議を申し入れている。しかし、返事がないので、5月20日には日韓両国に第三国の委員を加える形の仲裁委員会(同条2項)開催を要求した。

 それもまた無回答のため、6月19日には第三国に委員の人選を委ねる形の仲裁委員会(同条3項)開催を要請したのである。この期限30日が7月18日に来たが、依然として韓国政府は動かない。日本が勝手に決めた日程だと、協定違反の信じがたい言辞を弄してる。輸出規制が撤廃されるまでは梃子でも動かないという姿勢である。

 日本は、次の手としては国際司法裁判所への提訴を検討しているというのが現状である。

 また、18日には、文在寅大統領は与野党5党の党首と会談し、超党派で日本に対応するように要請した。与野党の接着剤として反日が使われている。

韓国歴代政権に共通する「支持率低下時の”反日”」

 一方、日本側の輸出規制措置にしても、必ずしも熟慮の結果かとは言えないように思われる。「安全保障上の輸出管理が必要だ」という理由で発動されたが、その手法は貿易とは関係ない分野の問題解決のために通商上の手段をとるものである。いわばトランプ流の手法であり、それが国際的に評価されるかどうかは疑問である。

 また、日本の家電業界は、サムソンやSKハイニックスなどの韓国企業に部品の供給を依存しており、日本企業にもマイナスとなって跳ね返ってくることは、産業界が懸念する通りである。

 しかし、その後も報復の連鎖のような状況が続いており、問題解決の糸口すら見いだせていない。韓国政府はアメリカに仲介を要請したが、安倍政権の手法がトランプ政権と同じある以上、仲介する立場にはないであろう。

 安倍政権も文在寅政権も国内で「対外強硬派」に囲まれている。安倍首相は長期政権を誇り、自民党内ではリベラル派の影が薄くなっている。首相が韓国に妥協的な姿勢を見せれば、安倍政権を支持する嫌韓派の不興を買う。

 一方、文在寅政権については、韓国の反日の伝統が生き続けている。

 第一は、政権浮揚策としての反日である。支持率が下がったときの最も簡単な浮揚策が、日本たたきである。これは、左右を問わず韓国政治の宿痾である。

日本による植民地支配に対する「恨の思想」

 第二は「恨(ハン)」の思想である。これは朝鮮半島の伝統的な考え方であり、「恨」は怨念を抱く状態、そして怨念を抱くようにした外部要因を憎悪し、またその怨念を抱いた自分自身のことを悲しむ心情である。日本の植民地支配に関する感情がその典型である。

『朝鮮日報』の元記者・李圭泰は、『韓国人の情緒構造』(新潮選書、1995年)という本の中で、「韓国人の『恨』を構造的に調べてみると、怨念以外の被害者意識が絡んでいる」と述べている。歴代政権の対日政策には、植民地支配で苦しめられた日本に対してはどんな報復も許されるといった考えがあるが、それがまさに「恨(ハン)」の思想なのである。

 韓国駆逐艦の上空を旋回したP-1哨戒機は「加害者」であり、自分たちは「被害者」である。自衛隊機は、自分たちに「怨念」を抱かした「憎悪」の対象なのである。こういう考え方が背後にあるので、徴用工問題にしても、「被害者」の怨念が、「加害者」日本に対して次々と発現するのである。

 第三に、この「恨」の思想は、政権交代の際に前政権に対しても浴びせかけられる。韓国では、政権交代があると、前政権のトップは刑務所行きになったり、自殺を迫られたりという悪しき習慣があるが、日韓合意をはじめ、前政権が行った様々な合意や施策は全て悪だということにするのである。

 文在寅政権もまた、この伝統を引き継いでおり、保守派の朴槿恵李明博政権を弾劾する行動に出ている。1月10日の年頭記者会見で文在寅大統領は、「韓国にも三権分立があり、韓国政府は司法判断を尊重する必要がある」と述べながら、朴槿恵政権時代の最高裁長官を逮捕している。これも「恨」の一環である。

 以上のように日韓両政権に問題があるが、国際世論も引き込んでの両国間の論争は、必ずしも日本側に有利に働いてはいない。大阪でのG20首脳会議の際に、「窮鳥懐に入れば猟師も殺さず」という態度で文在寅大統領に接するべきところを、むしろ撃ってしまった。韓国人の心情を余りにも理解していない。

 しかも、G20終了直後の7月1日に、突如輸出規制措置を発表している。これでは、日韓関係が上手く行くはずはない。文在寅政権は、今や「窮鼠猫を噛む」状況になっている。

 問題解決は両国トップの政治的リーダーシップにかかっていることを強調しておきたい。

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