このままSNSに浸かっているとゆっくりと死んでしまうのではないか
汚染された空気のなかの生き物がゆっくりと死んでいくように、汚れた情報のなかにこのまま浸かっていたら我々はゆっくりと滅びていくのではないか。
ネット上の、特に誰でも発信できるようになったSNSの酷い発言に遭遇し気分を害するぐらいならまだしも、リンク先に飛んで酷いと罵られている記事をつい読んでしまったり、怒りを喚起され調べているうちに時間が過ぎたりすることもある。
スマホのおかげでいつでもSNSを見ることができるようになった。ついつい見てしまう。なので、SNSに表示される言葉は、自分の生活のなかにいつもある流れていく言葉たちになった。
自分が読んだ傾向と同じものを優先し表示するアルゴリズムの力で、「ネット上は酷い意見がたくさんだ」と愚痴りながらもそれを読み、読むことで、さらに同じ傾向の酷い意見が表示されていく悪循環フィルターバブルに包まれて、本当に見たい情報、見るべき情報からかえって遠ざけられていく
知らない間に自分の価値観を揺さぶることを忘れ、特定方向に強化される。いわゆるエコーチェンバー現象の渦にのまれてしまう。

ネットが世の中を悪くしたと嘯くつもりはない
愚痴、御託、罵り、差別発言のなかから、少しのと有益な情報を探すのにも疲れてきた。ネットの書き込みは「便所の落書き」だと言われる。そうじゃない、ちゃんとしたメッセージもある。あるが、まさに便所の落書き以下のメッセージにもあふれている。それを無造作に浴びることで、我々はどれだけ汚れているだろうか。
たくさんの便所の落書きの中からよい書き込みを見つけるのは、汚染された空気からいい空気を吸い込もうとするようなものだ。
「スマホを捨てろ」「インターネットを遮断せよ」と言い切れればいいのだが、それはそれで困る。SNSを辞めるのもむずかしい。「ネットが世の中を悪くした」と嘯くつもりはない。ネットのおかげで良くなったことはたくさんある。でも、悪くなった部分もある
だから、うまく使う
やるべきことは空気清浄機をつけるように、見たくない文章を表示させないようにすることだ。生活の中で、便所の落書きを見てしまうリスクを減らすことだ。
そこで、自分自身で積極的にSNSをスリム化し育てることにした。

16歳の繊細な妹を心の中に
まず基準を作った。16歳の繊細な妹を心の中に設定。自分が見ているSNSを、彼女も見ていると考える。彼女に見せたくないものは表示しないようにSNSを育てていくのだ。
まず酷い発言をする人を外した。ブロックすると相手にわかってしまい無駄な悶着をうむのでミュートする。フレンドのまま表示されなくなる。デマに踊らされて偽情報をうっかり流す人も、愚痴る人ミュート
コツは、たまに良い発言をする人でも、汚い発言をしたらすぐ外すこと。だいじょうぶ。情報洪水のこのご時世、なんだかんだいって、良い情報はちゃんと回ってくる。気軽にたくさんミュートしていこう。
陰惨な事件が起こると、いちはやくツイートする使命に燃えている人や、正義の拳を振るう人もミュートした。こういう事件の情報は、なんだかんだ結局入ってくる。いち早く知る必要もなく、ゆっくりと柔らかく知るほうがいい。
自分が正義の小石を投げていると勘違いしている人もやっかいだ。くだらない正論を言いたいがために酷い記事のリンクを貼って拡散する。こういう人もすぐミュート
仕事関連の人を消すと困ると思っていたが、やってみるとそうでもない。必要があれば、改めて本人のスレッドを見ればいいだけだ。実際に会うと良い人でもSNS上では残念な人はけっこういる。
単語でも遮断する。バカ、間抜け、アホなどの罵倒語はNGワードにした。ツイッターには、ワードミュートの機能がありNGワードを設定すれば、それを含むツイートは表示されなくなる。
政治に関するツイートも酷いものが多いので、首相の名前や政治関連ワードでミュート。政治情報は他のメディアから得たほうが何倍も健全だ。
オリンピック」等の、床屋談義する人が多い話題も排除した。
こうしてSNSを育成しスリム化していく。汚い言葉や意見が一掃され、自分のネットから闇がほぼ消えた。ネットを眺める時間が減ったぶん他からの情報摂取も増えて、ゆっくりと深呼吸するようにインプット・アウトプットができるようになってきた(ミュートしていると、都合のよい情報しか得られなくなるのではという心配は不要だった。ネット以外からの情報を得ることによって圧倒的に多様な情報を得られるようになったからだ)。SNSの調教、オススメ。

以上は、『ビッグコミックオリジナル』2018.10.20)に書いたコラム「SNSを調教することにした」をネット用に改稿し、「表現道場マガジン」に掲載したものを「エキレビ!」用にさらに改稿して掲載したものです。
ビッグコミックオリジナル』の「オリジナリズム」というコラムページがあり、いろいろな書き手がユニークな話題でコラムを書いています。オススメ。(文/米光一成

『一緒にいてもスマホ ―SNSとFTF―』(シェリー・タークル著・日暮雅通訳)急激に広まったスマートフォンが我々の日常をどう変え、何を失ったのか。ていねいに検証・検討した警告の書