いつまでも食卓に着かず、おもちゃで遊んでいる子ども。母親は「早く食べなさい!」と、食事を始める“時刻”の意味で言いました。子どもは席に着くなり、大慌てで早食いします。食べる“スピード”の意味だと思ったのです。すると、親は「ゆっくり、よくかんで食べなさい!」と叱りました。矛盾した注意に聞こえた子どもは戸惑いますよね。
「ご飯の写真を送って」と言ったら…
同様のケースで、先生が生徒の家に電話をしたときのことです。
「お母さんはいますか」
「います」
「お母さんに代わってください」
「お母さんはいますが、家にはいません」
親が“年中無休”で子どもに言っている「ちゃんとしなさい」「きちんとしなさい」「早くしなさい」「いい加減にしなさい」「ちょっと待ってて」などの言葉は、具体的ではないので子どもには分かりにくいのかもしれません。
自閉症児である私の息子がショートステイ(障害者の施設宿泊)を利用したとき、私からメッセージアプリで「ご飯の写真を送って」と伝えました。すると、息子から白飯だけの写真が送られてきました。私は、おかずも含めてどんな食事が提供されたかを知りたかったのですが、字面通り受け止めたようでした。このときは、私の伝え方がまずかったのです。
大人同士でも起こる取り違え
具体的でない言葉による弊害は、大人同士のコミュニケーションでもしばしば起こります。友達に電話をして「ちょっと待ってて。折り返し電話するから」と言われ、30分も40分も電話がかかってこなかったら、いらいらする人もいるのではないでしょうか。しかし、「1時間以内には折り返し電話するから」「4時までには必ず連絡するから」と言われたら、どうでしょうか。時間の見通しが立つのでいら立たずに待つことができます。
病院での待ち時間も最近は、「ただ今11番の方、受付中」「ただ今40分待ち、○○番の方、診察中」と表示するところも多くなりました。具体的な待ち時間を知ることができれば、待つ人も「一体いつまで待たされるんだ」といらいらすることもなくなります。
同様の例はビジネスシーンにもあります。上司が部下に「朝一で資料を出しなさい」と命じたところ、部下は翌日9時30分に資料を添付したメールを送信しました。しかし、上司は「遅いじゃないか。どうして9時に持ってこないんだ」「なぜ紙に印刷してこないんだ」と叱りました。上司の指示や伝え方にもっと具体性があれば、こうしたすれ違いは起こらなかったかもしれません。
学校でも、こうしたことは起こります。小学校の授業参観で担任の先生が子どもたちに紙テープを配り、「ちょうどいい長さに切ってください」と指示しました。すると、2センチ程度の長さに切っていた子どもが先生から、「それじゃあ短すぎる!」と叱られていました。先生が思う“ちょうど”と、子どもが感じた“ちょうど”が違うこともあります。曖昧な指示の出し方はよくないという一例です。
先述したように、こうしたことは親子間でも起こります。子どもに対して「何度注意しても、ちっとも言うことを聞いてくれない」と嘆いている人は、もしかすると正確に伝わっていないのかもしれません。
「言い換え」を意識してみる
曖昧でなく、はっきりと伝えるために「言い換え」を意識してみてください。例えば、子どもが友達から乱暴におもちゃを奪おうとしたとき。「お友達をたたいてはだめよ」と言っても、「たたく」ことを禁止するだけで、どうすればよいのかが具体的に伝わりません。「おもちゃが欲しいときは『貸して』と手を差し出してね」と伝えましょう。
「早くしなさい」と言いたいときは、「8時までにはご飯を食べ終えよう」と具体的な時間を伝えます。時計が読めない場合は「砂時計の砂が落ちるまでに片付けよう」や、実際にカウントダウンをしながら、「100数える間に片付けよう」と伝えるのもよいでしょう。
「言い換え」の例は、他にもあります。
・「シー、シー」「静かにしなさい」→「口を閉じて」「音量ゼロ(音量オフ)」
・「ちゃんとしなさい」→「背中を伸ばして座ろうね」
・「順番を守りなさい」→「○○君は、○○ちゃんの次だよ」「3番目だよ」
生まれてまだ数年しかたっていない子どもは、人生経験が短い分、言葉から全てを察するのはハードルが高いのかもしれません。親は、子どもが行動しやすいように、曖昧な指示ではなく、「具体的にどうすればよいのか」を伝えましょう。親も、自身のストレスとなっている“年中無休の怒り屋”を卒業できるかもしれませんよ。
子育て本著者・講演家 立石美津子
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