日本最西端の島、沖縄県与那国島で運行されている路線バスは、牧場地帯で馬の道路通過をひたすら待つなど、車窓や車内にのんびりとした光景が広がります。もちろん、「日本最西端のバス停」にも停まります。

バスのすぐ近くに馬 運行も「馬優先」

日本の最西端に位置する沖縄県与那国島では、与那国町が「与那国島生活路線バス」を運営しています。運行は民間のバス会社に委託されているのですが、その会社名はズバリ「最西端観光」、もちろん日本最西端の路線バスです。

バスは島のほぼ西半分を1周する形で1日9便運行され、おおむね50分かけ、おもな集落と空港を結んでいます。このうち、島の南部に位置する比川地区を経由する便は、牧場のなかを通過します。海面から数mの高台に位置し、与那国岳を山側に望む牧草地のなか、町の天然記念物である与那国馬を車窓からすぐそばで見ることができます。

この周辺では、車両よりも「馬優先」です。与那国馬の群れが食事の際に道路を横切ることがあるのですが、その際はバスもトラクター自衛隊車両も、すべてが停車して馬のゆくえを見守ります。与那国馬は全長110cmから120cmと小柄で大人しいものの、武骨な筋肉の盛り上がりと美しい毛並みは、車窓からでも十分に見て取れるほどです。運転手の方によると、馬が相手では仕方なく、バスが遅れることもよくあるといいます。

また、この比川地区は2003(平成15)年からフジテレビ系列で放送されたドラマ『Dr.コトー診療所』のオープニング映像が撮影された場所です。海をバックに、吉岡秀隆さんが自転車を立ち漕ぎして坂を上る映像が代表的なシーンですが、「コトー先生」になりきるため、レンタサイクルを借りてこの場所を訪れる人も多いそうです。ただ与那国島は全体的に起伏が多く、到着するまでに体力を消耗してしまう人も多いのだとか。

バス通りからは外れますが、比川地区の狭い住宅街を抜けた先に、『Dr.コトー診療所』のメインセット(志木那島診療所)が残されています。住宅街の路地には沖縄独特の赤い瓦を使った民家が続き、足元には魔除けの石標「石敢當(いしがんどう)」が多く見られます。この付近の道路は、人だけでなくカニもよく横切るため、蹴飛ばさないように注意が必要です。

「日本最西端のバス停」、その姿は?

「日本最西端のバス路線」には、当然ながら「日本最西端のバス停」も存在します。島の西部に位置する久部良(くぶら)地区の久部良バス停です。

久部良地区には岸壁があり、週2回、ここと石垣島とを結ぶフェリーが発着する際には大変な混雑ぶりを見せます。しかし、バス停はここから少し離れた漁協(漁業共同組合)の建物の近くにあり、フェリーとバスも接続をとっていません。フェリーからバスに乗り継ごうとすると、1時間以上は待つことになります。漁協の食堂で、ゆっくり刺身定食でも食べながら待つのがよいでしょう。

日本最西端の久部良バス停、その姿は意外と素っ気ないものです。バス停によくあるポールに丸看板というスタイルではなく、2本の角棒に支えられた戸板に紙が貼り付けられただけで、「日本最西端」の表記などもありません。むしろ、その真後ろにあるカジキマグロ与那国島の名物)の石像のほうが目立っています。

ちなみに久部良の岸壁から1kmほどのところに「日本最西端の地」の碑がありますが、バスはここを経由しません。ただし、2019年4月30日にはここが「平成最後の夕日が沈む場所」として注目され、送迎バスが運行されたそうです。

この「与那国島生活路線バス」は、2007(平成19)年にヨナグニ交通が運行から撤退し、与那国町に引き継がれて誕生しました。現在でも与那国空港には、ヨナグニ交通時代のバス停跡が残っています。運賃無料となった「与那国島生活路線バス」は、厳密には道路運送法に基づく一般路線バスではありません。道路運送法に基づくに路線バスとしての最西端バス停は、与那国島の東、西表島で運行する西表島交通の白浜バス停です。

2018年には、与那国町が新しい取り組みとして、AI(人工知能)を活用した配車システムを用いた「AI運行バス」の実証実験を「与那国島生活路線バス」とほぼ同じルートにおいて行いました。また、同年には従来の路線バスにも新車が導入されたほか、2019年ダイヤ改正では比川地区への増便や新規バス停の設置なども実施されています。新しい動きもある「日本最西端の路線バス」、いちど訪れてみてはいかがでしょうか。

与那国馬の牧場内を走る「与那国島生活路線バス」(2017年9月、宮武和多哉撮影)。