イデビアン・クルーは、ポップでユーモラス、それでいて時にアイロニーも織り交ぜた独特なセンスに満ちた世界を繰り広げる人気ダンスカンパニー1991年に結成され、1995年に旗揚げ公演を行い、コンテンポラリーダンスシーンを盛り上げてきたが、芸劇dance『幻想振動』2019年7月26日~28日、東京芸術劇場シアターイースト)は主宰で振付家の井手茂太と創設メンバー斉藤美音子が四つに組む新展開として注目される。「SPICE」では、井手と斉藤に直撃取材し、新作への意気込みやカンパニーの来し方、近況を存分に語ってもらった。

■我々は常に「揺さぶられている」

 ――『幻想振動』では井手さんと斉藤さんが二人でガッツリ踊ります。今、どうしてこの作品を創ろうと思われたのですか?

井手 平成の終わりにずっとやりたかったことをやろうと思いました。二人だけで作品の中でしっかり組むことをやり損ねていて悔いがあったので。でも少しタイミングがズレて令和最初になってしまいました(笑)。平成を思い返すと、うちのカンパニーでもいろいろあったので、それをリフレッシュというか、ゼロにしてから令和を始めていきたい。新しいスタートができればいいなと思いました。

――グループワークと何が違いますか?

斉藤 会話が多い! 共有していると思えることがいつもより多いですね。

井手 会話というか稽古で動いて「ああ、こういうやつね」と。長年の経験もあるし、すり合わせながらできる。

――構成を固めていく段階からキャッチボールがあったのですか?

井手 1年くらい前から話はしていたよね? 平成の終わりに何か違うことをやりたいねと。

斉藤 願いが通じました! イデビアンの作品の中で井手さんと踊る時間はそれほど無かったのですが大好きでした。ずっと踊れたらいいなと思っていたんですね。

――『幻想振動』というタイトルは、どこから来ているのですか?

井手 振動という言葉に対し我々は動きを想像しますが、災害が多い国なので少し怖いイメージもあるかもしれません。常に平和でいたかったんだけど、何か常に揺さぶられているようなことが多くて。イデビアンって、いつも何かしらトラブルに巻き込まれるんですよ。

斉藤 ああ~。

井手 どこに行っても飛行機が遅れたりする。そうだよね?

斉藤 多いですね。

井手 公演をしている時に東日本大震災が起こったり、ニューヨークに行った時には大寒波がやって来たり…。

斉藤 福岡から東京に帰る時も飛行機が大変なことに…。

井手 令和になったら、そういうことがなくポジティブな方に行きたい。あと幻想振動症候群という、震えていないのに震えていると錯覚する現代病があって、そこからも来ています。

斉藤 私も「揺さぶられている」というのが頭にあります。先ほど井手さんが、またゼロからとおっしゃいましたが、何かを揺さぶる何かになればいい。震災があって「揺さぶられている」と凄く敏感になりました。音楽の振動とかもそうだし、心が揺さぶられるというのもあるし、それにワクワクすることに対しても。

井手 それ、言おうとしていた(笑)

――いつも選曲や衣裳にこだわりがありますが、今回はどのように?

井手 音楽は都心のワンルームマンション、いやアパートの一室かな? 大音量の音楽の振動が壁伝いに聞こえて来る感じの雰囲気のものをセレクトしました。

斉藤 踊っていて凄く気持ちがいいです。

井手 衣裳はひびのこづえさんです。幻想的で遊び感覚もあって、イデビアンでは見たことのないようなデザインです。ひびのさんとディスカッションし、キャラクターの設定をお伝えしてイメージしてもらいました。

――公演に付随してワークショップが催され、参加者がエキストラクルーとして出演します。

井手 どのように出るのかはお楽しみですが、カンパニーでやると面白くないというか、幅広く制限もない人選で集めた方が絶対に面白い。国内外でワークショップやらせていただいていますが、For Dancersではなく一般の方を巻き込むのが好きで、コミュニティダンスに近いものです。そういう人たちの晴れの舞台をどこかで作ってあげなければいけないと昔から思っていて、今回実際にうちの公演にエキストラとして出てもらうことになりました。

■イデビアンだからできること

――お二人は学生時代にイデビアン・クルーを結成して以来活動を共にされていますが、クリエイションをする中で、お互いの感情の変化を感じますか?

井手 いい意味で大人になったというのはあります。老けたといえばそれまでだけど(笑)

斉藤 いたわりあっている感じがする(笑)

井手 「俺はこうする!」「私はこう!」みたいなやり取りが長年やっていることなんだなと。

斉藤 積み重ねてきたことが自然に出てくる。

井手 張り切って踊ると「ケガをするよ!」と言ってくれたりして助け合っています。

斉藤 体のことも今まで以上に気にかかるし、自分のことももちろんなんだけれど、二人の時間をちゃんとしようと思える。

井手 でも個々に責任感が出てきたような気がします。それぞれの責任感やプライドがいい方向に向いてきた。

斉藤 理解し、共有し合える部分が増えているのが以前と違うところですね。

――井手さんは野田秀樹さんの芝居をはじめとする舞台やCM、MVの振付をされていますし、斉藤さんもご自身の作品を発表されたりダンスを教えられたりしています。そういった個人・外部での活動とは別に、やはりイデビアン・クルーだからできることは何だと考えていますか?

井手 個々で別々に活動していても「イデビアンをやるよ!」というと集まって、一つのものを創る。すべて団体で動いているのが面白いですね。

斉藤 私は逆に他のことをやっていて「これはイデビアンでやろう!」となる場合があります。たとえば教えをしている時に「これは絶対にダメ」というのは言わないで「イデビアンならいいかもね」と。そうするとイデビアンって面白いなと思える。

井手 演劇作品の振付に呼んでいただいて有難いのですがオーダーありきです。そこで出来なかったものをやることもあります。ダンスは演劇ほどポピュラーではないので若干悔しいのですが、自分のやっていることはダンス作品だということを演劇人にも伝えたいですね。

■大変な時代に、ブレないで踊る

――イデビアン・クルーの四半世紀にわたる活動を振り返っていかがですか?

井手 あっという間でした。こんなに長くやるとは思っていなかったですね。最初の頃はたくさんの作品を創り、演劇の振付も多かったので大変でした。

――皆さん多方面でご活躍ですが毎年本公演をしっかりとやられている印象で、ファンも何をやるのだろうかと毎回楽しみにしている。いっぽうで以前の作品を見たいという声もあったかと思いますが、昨年『排気口』(2008年)を再演しました。上手く活動展開されていますね。

井手 唯一評判がよかったのが『排気口』で(笑)、10年ぶりにやっと再演できました。あれも「平成最後に」という流れだったんです。大人数の作品の再演と二人での作品をやりたかった。

――イデビアン・クルー1990年代デビューしコンテンポラリーダンスを牽引してきた代表格です。先日、平成最後の日にイデビアン・クルーと同時期に登場した珍しいキノコ舞踊団が解散するというニュースもありましたが、現在のダンスシーンに思うことはありますか?

井手 「キノコが何で!」とびっくりしました。ネットで知って「嘘でしょ!?」と。コーヒーショップにいたのですが、伊藤千枝(現・千枝子)さんが語っている映像を見て、コーヒーを飲みながら泣きました。僕とか近藤良平さん、北村明子さんと同世代です。先日ある現場で近藤と会ったんですけれど互いに「老けたね」と言いながら話すことはブレていなかった。自分たちがやっていることは昔と全然変わっていないというのはありますね。

若い子、凄く動ける子がいっぱい出てきたし、面白い発想をする子もいます。でも若ければいいわけではない。地方に行ったりすると、踊り=健康的なもの、朝のもの、健康的なもの、そして若い人たちのものという雰囲気があるんですね。あと補足すれば痩せている人のもの(笑)。踊りは誰もが楽しめるものだと一々説明してからワークショップをしています。

最近はエンターテインメント性のあるものも出てきて、それはそれでいいんだけど、映像の方がいいんじゃない? それを舞台でやる? となることもあります。なので生で感じてもらうものをやりたい。今回客席をコの字にしたのは、踊り=正面だと思われたくないからです。サイドも見え方が面白いし、一つの部屋を囲う感じで見てもらいたいですね。

――最後に『幻想振動』について、あらためて抱負をお伺いします。

斉藤 私は一児の母ですけれども、学生時代から続けていることをずっとやっていて、この年でも踊ることができる。それが、なんというか…。

井手 踊りはヤングなものだけじゃないと言いたい!

斉藤 そうそう! 今の私たちも素敵でしょ? みたいな。

井手 生きている。

斉藤 そう、生きている!

井手 私たちはブレていません。

斉藤 不安になるけどブレていない。

井手 今は大変な時代です。令和になって良い方向に考えていきたいけれど、やっぱり大変だとつくづく思います。その中で仲良くしていくというか、いい意味で共有していくというか、そういうことが作品の一部にある気がします。近すぎず遠すぎずの関係性で共有していくことが見えればいいですね。

取材・文=高橋森彦  撮影=岩間辰徳

イデビアン・クルー 井手茂太、斉藤美音子