1986年3月6日宮城県仙台市の某住宅で39歳の女性Sさんが電気コードで首を絞められ、殺された姿で発見された。

 Sさんは近所でも有名な美人で知られており、現場もあまり荒らされていないことから、この殺人は恋愛のもつれ、もしくは強姦目的による殺人ではないかと見て警察は調べていた。

 また、同時に警察はこのSさんに中学三年生になる娘がいるものの、数日前から学校へ行ってもおらず、行方不明になっていることを知り、警察署はSさんの中三の娘を探すことにした。

 そして、翌3月7日、Sさんの中三の娘「A子」は仙台市内の繁華街で同級生のB子と一緒にいるところを発見され、警察に保護されたのだが、その際A子は、自分の手で実の母親を殺したことを告白したのである。

 犯行の動機について、A子は「母親からいつもガミガミと叱られていることに腹を立てた」と語っており、親友の同級生・B子と共に母親を殺すことを決意したという。

 ここで、被害者Sさんの過去について振り返ってみよう。

 Sさんは仙台出身の元ダンサーで、東京の各劇場を転々としている中、劇場で知り合った男性と関係を持ち、そして娘であるA子が生まれたのだが、男と別れてしまった。Sさんはひとり娘を育てようと、ダンサーの仕事を続けるが、途中で体を壊してしまい引退。しばらくして故郷の仙台へ戻ってきたという。

 仙台に戻ってきた後、思春期を迎えたA子は次第に「自分には父親がいない」という現実に悩むようになり、Sさんと毎日のように口喧嘩をするようになっていた。

 Sさんは自分がダンサーとして荒んだ生活を送ってきたことを後悔しており、娘のA子に同じ人生を歩んでほしくないあまり、厳しい口調で娘を叱責したこともあったという。

 そしていつしかA子は、Sさんを殺したいほどに強く恨むようになり、友人のB子に「母親殺し」を手伝ってもらい、実行した後、いつも通りにB子と一緒に繁華街へ遊びに出たという。

 A子は警察に保護された後、衝動的とは言え、自分の手で母親を殺してしまった事実を受け入れ、涙を流し後悔したという。

 娘を心配する母心と、それを受け入れられなかった娘の悲劇。心のズレが生んだあまりに居たたまれない事件であった。

文:穂積昭雪(山口敏太郎事務所)

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