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 本来、医療行為とはそれを行うに値する科学的根拠(エビデンス)を伴ってなされるものだ。しかし、近年日本やアメリカなどの先進国では、この科学的根拠を伴わない「無駄な医療」が問題になっている。

 日本では、「セカンドピニオン」という言葉をよく耳にすることだろう。これは、医師の治療方針に納得できなければ、別の医療機関で話を聞くことができるというものだが、アメリカではこれに似た「Choosing Wisely(チュージング・ワイズリー:賢い選択)」というキャンペーンが行われている。つまりは、効果のない、または高額な「無駄な医療」を失くそうという取り組みだ。

 今回、現代医療において何が有効的で何がそうでないかという調査目的で研究を行った研究者らは、過去15年間にわたる医療行為の中で、約400件の無駄な医療行為を発見したことを発表した。

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3000以上の論文を調査した中から396件の医学的逆転を発見

 病院側の利益や時に患者の要求と称して、本来は不必要とされる検査や手術を行ったり、あまり効き目のない薬を処方したりして、高額な医療費支出をもたらし、更に患者の体に負担をかけるという事実は、無駄な医療行為そのものである。

 今回研究チームは、無効果もしくは時代遅れの医療処置や機器および診察の包括的なリストを作成するために、3つの有名な医学誌から過去15年にわたる3000以上の論文を調べた。

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 すると、最初に公表された結果が不正確で、効果のないものであることを示す396件の医学的逆転があることがわかったのである。

無駄な医療行為は全体の20%を占める

 医学的逆転とは、価値の低い医療行為を意味する。ある種の偏りを最小限に抑える無作為化比較試験(以下RCT)の報告では、医学的逆転は結果として効き目がなく、また標準治療よりもより高い費用がかかっており、利益をあまりもたらしていないことが判明している。

 今回の研究では、この医学的逆転の92%がアメリカや日本など先進国で起こっており、中国やインドおよびその他の中低所得国では2%のみだということもわかった。

 また、医学的逆転の最も代表的な分野は、心血管疾患の治療でおよそ20%を占め、続いて公衆衛生(12%)、救急医療(11%)となった。

 医療行為の監査は、不必要な医療介入のコストを削減し、人の健康を守るためには不可欠だ。しかし、こうした医学的逆転を特定することは非常に困難である。

 というのも、例えば患者がその医師の治療方針を信頼している場合や医師が自身の医療行為を信頼している場合、様々な病への医療行為が無効であったとしても、患者と医師を説得し、科学的根拠を並べることはなかなか容易ではないからだ。

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効果的ではない過剰医療が患者負担の医療費を高額に


 効果のない医療行為は、無駄にコストを上げることで患者に高額な医療費負担をかけるだけでなく、患者を危険に晒す可能性がある。

 特にアメリカでは医療費高騰が問題になっているが、その理由の大部分には過剰な治療や効果のない医療行為が占めていると言われている。

 今回の研究で、「効果的ではないにも関わらずコストが非常に高い」とされる例として挙げられたのは、50歳以上から推奨されるマンモグラフィ(乳房X線撮影装置)の40歳以上からの使用、認知行動療法、手術後の血栓を防ぐための圧迫ストッキング使用、減量のためのウエアラブル技術、ICU(集中治療室)におけるメチシリン耐性黄色ブドウ球菌MRSA)の蔓延を減らすための防護ガウンおよび手袋の使用などだ。

 医学的逆転を減らす1つの方法としては、研究に基づいた事実を結論付けているRCTから、その医療行為が有効であると証明されることだという。

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患者もChoosing Wisely(賢い選択)を求める意識を持つことが大切


 今回の研究発表を行った研究者らは、この発表が患者をより効果的かつ経済的にケアするための医療に役立ち、無駄な医療行為を防止するきっかけになることを望んでいる。

 患者の負担になり過ぎず、医師との相談のうえ、納得のいく医療行為を受けることは何より望ましい。しかし、全ての医療状況を把握することは当然ながら困難だ。

 とはいえ、もし受けた治療法が有効と思えず、心の安らぎにさえもならない場合は、高額な医療費や健康へのリスクを減らすためにも、やはり「Choosing Wisely(賢い選択)」の意識を持ち、第2、第3の意見を求めた方が賢明といえよう。

References:News Medical Life Sciencesなど / written by Scarlet / edited by parumo

全文をカラパイアで読む:
http://karapaia.com/archives/52277126.html
 

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