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 時間の流れは過去から未来へ向かって流れるというのが常識だ。だが、逆の方向にも淀みなく流れるようだ。

 今年初めに行われた実験では、少なくとも量子のスケールでは過去と未来の区別がそう確かなものではないことを告げている。

 これがわかったからといって、恐竜の時代までさかのぼれるタイムマシンを作れるわけではないが、それができない理由についてはいくばくかの手がかりを与えてくれる。

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時間は過去から未来に向かって一方向に流れるイメージ

 「熱力学第二法則」というエネルギーの移動の方向と質に関するルールがある。それによれば、エネルギーは一番高いところ低いところへ向かって転換・拡散するために、熱いものは徐々に冷える。

 熱々のコーヒーを放っておくと、それ以上は熱くならずにだんだん冷めてくる理由や、卵からスクランブルエッグを作るのは簡単でも、スクランブルエッグから卵を作るのが難しい理由、あるいは未だに永久機関が発明されていない理由は、これによって説明できる。

 また、昨晩の夕食がなんだったか覚えているのに、今年のクリスマスがどのようなものになるかわからない理由とも関連する。

 「熱力学第二法則は、時間が過去から未来へ向かって一方向に流れるというイメージと密接に関連しています」とモスクワ物理工科大学の量子物理学者ゴルデー・レソヴィク氏はいう。

熱力学第二法則の特殊性

 これ以外の物理法則は、事実上どれも反対にできるし、それでもきちんと機能する。

 たとえば、ビリヤードを思い出してみよう。球が他の球に当たって弾かれた瞬間を撮影して、逆に再生してみたとしても特に違和感は感じないだろう。

 だが、逆再生して、球がビリヤード台に散らばった状態から一番最初の三角形に配置された状態へ戻ったとしたら、不思議な映像に見えるはずだ。熱力学第二法則に反しているからだ。

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電子で量子のビリヤード


 マクロスケールのビリヤードに関しては、熱力学第二法則の破れはあまり期待できない。だが、電子のようなもっと小さなレベルに目を向けてみれば、そこには抜け穴がある。

 電子をビリヤードの球に見立ててみよう。だだし、電子はただの小さな球ではない。むしろ空間を占める情報のようなものだ。その特性の確率は「シュレーディンガー方程式」なるものによって波動関数として記述される。

 イメージをつかんでもらうために、今回の電子のビリヤードは完全に真っ暗ななにも見えない部屋の中で行われると思ってほしい。そして、あなたは手に手球(=情報)を持っており、それをひょいっと台の上に転がす。

 シュレーディンガー方程式が教えてくれるのは、球が特定の速度で台の上のどこかを転がっているということだ。

 ただし量子の世界なので、球は台の上のあらゆるところをさまざまな速度で転がっている。といっても完全にランダムなわけではなく、それがある場所と転がる速度の中には他のものよりも確率的に高いものがある。

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位置と速度を同時に知る裏技


 あなたは手を伸ばして球をつかみ、その位置をはっきり知ることができる。

 しかし、そうすると今度は転がっている速さがわからない。ならば転がる球に指先で軽く触れて、速度を把握するのもありだ。すると、今度は位置がよくわからないジレンマだ。

 だが、1つ裏技がある。あなたがボールを転がしたその直後ならば、手のすぐ先をかなりの速度で転がっていると考えていいだろう。

 ある意味でシュレーディンガー方程式も量子粒子について同じことを予測している。そして、時間が経つほどに、粒子の位置と速度の確率分布は広がっていく。

シュレーディンガー方程式は逆転可能?

 ところが、米アルゴンヌ国立研究所の物質科学者ヴァレリー・ビノクール氏によると、シュレーディンガー方程式は逆転可能なのだそうだ。

 「数学的にそれが意味するのは、『複素共役』という特定の変化が起きている状況では、同じ時間が過ぎる間に小さな空間に戻って局在しようとする”汚れた”電子を方程式は記述するということです。」

 それはまるであなたの手で転がされた球がビリヤード台に無限にある位置の波動に広がらず、再び手の中に巻き戻ってくるような感じだ。まるで時間の流れが逆転したかのようだ。

 理論的に、この発生を自然に阻むようなものはない。だが、それを目撃するには、電子100億個分に相当するビリヤード台を宇宙の一生の間ずっと見つめ続けなければならない。かなり稀な現象ということだ。

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量子コンピューターで時間の逆転を再現


 そこでアメリカとロシアの研究者が参加する研究チームは、じっと待つ代わりに、量子コンピューターにある不確定状態の粒子を球に見立てて、まるでタイムマシンかのような巧みな操作を行った。

 そのために、「量子ビット」を手で球を持った状態に相当する単純な状態に設定した。本来量子コンピューターが作動すると、これらの状態が現れる確率はどんどん広がっていく。

 だが、ここでコンピューターの設定を調整することで、状態の確率をシュレーディンガー方程式が巻き戻っているかのように制約することができた。

 検証するために、再度ボールが散らばる様子を観察すると、やはり最初の三角の形に戻った。わずか2量子ビットでの実験では、85パーセントが巻き戻ったという。

揺らぐ熱力学第二法則

このチームが熱力学第二法則を揺るがしたのはこれが初めてのことではない。数年前にはもつれさせた粒子を、まるで永久機関であるかのように加熱・冷却することに成功している。

 量子スケールであっても、こうした物理法則の限界を突破する方法を見つけることは、宇宙が今あるように流れている理由の理解を深めることにもつながるそうだ。

 この研究は『Scientific Reports』に掲載された。

References:Physicists Have Reversed Time on The Smallest Scale by Using a Quantum Computer/ written by hiroching / edited by parumo

全文をカラパイアで読む:
http://karapaia.com/archives/52277293.html
 

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