派手さなどは皆無でも、陸上自衛隊になくてはならぬ装備のひとつが「3 1/2tトラック」でしょう。メーカーは市販トラックでもおなじみいすゞ自動車です。実に多彩な仕様の同車両が、全国各地のさまざまな部隊に配備されています。

もちろん市販車とはひと味違う「陸自の足」

陸上自衛隊の装備品といえば戦車や大砲などの迫力あるものから、大空を駆け巡るヘリコプターなどの“目立つ装備品”が多いなかで、決して目立つことはない、しかし、とても重要な装備品があります。それがいすゞ製の「3 1/2tトラック」、通称「3トン半」です。

「3 1/2tトラック」は、陸上自衛隊のほぼ全ての部隊が装備している車両です。そのため、隊員たちからすれば慣れ親しんだ車両であり、かく言う筆者(矢作真弓/武若雅哉:軍事フォトライター)も現役陸上自衛官時代には、関東周辺を中心に延べ数千kmに渡り運転してきた車両のひとつでもあります。

最大速度は105km/h、最大安定傾斜角は左右方向に40度未満となっていて、この傾きの範囲であれば横転しません。また、水位80cm以下であれば水没することがない渡渉能力を持ち、200mの距離を23秒以下で走り抜ける加速能力があります。燃費は第5速で50km/hにて走行した場合に、1リットルあたり約3.5km以上と規定されています。

この3 1/2tトラックには、車体本体を流用した様々なバリエーションがあります。その一例を紹介すると、荷台には幌と折りたたみ式の座席が付いているベーシックな「3 1/2tトラック」、ダンプ機能が搭載された「3 1/2tダンプ」などに始まり、災害派遣で活躍する「5t水タンク車」や「燃料タンク車」、果ては「11式短距離地対空誘導弾」などのミサイルを搭載する車両まであります

記事を執筆している2019年現在では「3 1/2t(さんとんはん)トラック」と呼ばれているこの車両ですが、2003(平成15)年までに納入されていた車両は「73式大型トラック」という名称でした。これは、仕様書によって細部の部品まで細かく定められていた従来までのやり方を変えて、民生部品を流用し、製造コストを削減する目的で「制式化」という枠組みから外されたのがきっかけです。そのため、この年以降に納入された車両からは「73式」という名称がなくなっています。

「3 1/2t」はどういう数字?

名称にもなっている「3 1/2t」ですが、いったい何のことを指しているのでしょうか。

「3 1/2t」という数値は、武器やヘルメットなどの装具を装着した1名あたり80kgの隊員が2名乗車した状態で、3500kgの荷物を均一に搭載した「標準積載状態」のことを指します。一説によると、この数値は凸凹の多い演習場などの不整地においても、安定して走行することができる積載量であるともいわれています。

ちなみに、「3 1/2tトラック」の最大積載量は6000kgとなっています。これは先ほど述べた体重80kgの隊員2名を乗車させ、6000kgの荷物を均一に搭載した場合の数値で、この状態での走行は、原則として舗装された一般道のみと定められています。

なぜふたつの積載量が定められているのでしょうか。その大きな理由は、最大積載量を積むとトップヘビーになり、そのまま不整地を走行すると横転しやすい構造であるといえるでしょう。

たとえば、同じいすゞ製で「3 1/2tトラック」に近いサイズのものに、「フォワード」というトラックがあります。この「フォワード」の「カーゴタイプ・標準幅・ショートキャブ車」と比較した場合、水平な地表から車体の一番低い箇所までの垂直距離を表す「最低地上高」は、「フォワード」が185mmなのに対して、「3 1/2tトラック」は330mmとなっています。全高も「フォワード」が2550mmに対して「3 1/2tトラック」は3180mmです。車幅は「フォワード」が2260mmなのに対して「3 1/2tトラック」は2485mmと、若干「3 1/2tトラック」の方が幅広ですが、重心位置が高いことには変わりありません。

最大積載量は「フォワード」がおよそ8tと、「3 1/2tトラック」を大きく上回っていますが、一方で「3 1/2tトラック」は、標準積載量である3500kg以内であれば不整地であっても安定して走ることができる能力を持っている、ということになります。

全ての陸上自衛官と縁がある、といえるワケ

実は、「3 1/2tトラック」は、我々の生活にも関係している部分があります。それが災害派遣です。

災害派遣時には、多くの救援物資や隊員たちを運ぶのに、この「3 1/2tトラック」が用いられます。そういった場合、荷台の側面には大きな「災害派遣」と描かれた横断幕が掲示されているでしょう。その姿は災害が発生するたびに、各メディアなどで紹介されています。

また、いわゆる下士官である曹士隊員たちは、ほぼ全員がこの車両に乗ったことがあるといっても過言ではないでしょう。というのも、陸上自衛隊にてタイヤがついている装輪車を運転するには部内資格が必要なのですが、その資格を取るために使用される教習車がこの「3 1/2tトラック」だからです。仮に、早々に陸上自衛隊を退職してしまった場合においても、荷台に乗って移動した経験があるはずです。

幹部自衛官にしても、直接操縦(運転)したことはなくとも、人員輸送や物資輸送などの運用を考える際は、この車両がおおむね念頭にあるはずです。

そのようなわけで、全陸上自衛官と切っても切れない密接な関係にある「3 1/2tトラック」。地味な存在かもしれませんが、無くてはならない必須装備品として、隊員たちから愛されているのです。

【写真】どう見分ける? 「トラック」との違いは微妙「3 1/2ダンプ」

荷台に重機関銃を取り付けた「3 1/2tトラック」対空戦闘バージョン(武若雅哉撮影)。