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 一見、不合理だと思われるなんの根拠もないことが、みんなに信じられて通常の社会規範の中に根づいてしまうことがある。

 「迷信」はそれが社会生活に実害を及ぼすものであっても、昔から世界各国で信じられてきた。そして現代でも人間は皆それぞれ、迷信や思い込みやジンクスを心に抱いているものだ。

 生物学者たちがその仕組みを研究した。

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古代ローマの時代から人間は迷信にもとづいて行動する

 古代ローマの指導者たちは、いつ選挙を行なうか、どこに新たな都市をつくるか、といった重要な事柄を決めるのに、鳥の姿形や飛行パターンに基づいて決断を下した。

 建設業者は、フロアプランからたいてい13階をはずし、歩行者は、わざわざ回り道をして梯
子の下を歩くのを避ける(梯子の下を歩くと不幸になると言われている)。

 こうした迷信は、根拠のないものと広く認識されている一方で、こだわる人も多く、現代である今日でもかなりの人がこうした行動に従っている。

ゲーム理論を使った迷信に関する研究

 ふたりの理論生物学者が、ゲーム理論に基づいた新たな分析を行い、迷信がどのようにして社会規範の中に根づいていくのかを示すモデルを考案した。

 米国科学アカデミー紀要に発表された彼らの論文は、それぞれが異なる信念体系から始まる個人のグループが、一連の社会規範によって強制される数々の行動を、どのように協調的(みんなが従う)に発展させていくか、を示している。

ここで興味深いのは、誰も特定の信念などもっていないのに、そこから一連の信念が生まれて、みんなが同じことをするという協調的な行動が現れてくるということなのです

ペンシルバニア大学の准教授エロール・アクチャイは言う。

そして、こうした"アクターたち"が、ゆっくりと迷信を蓄積していくのです

博士課程研究者のブライス・モースキーは補足する。

彼らはこう言うかもしれません。"そう、こうした出来事を自分の目で目撃して、ほかの人がそのように行動しているから、自分もそれと同じように行動するべきだと信じている"と。

そのうち、他人がやっているのと同じ行動をとった結果、うまくいくことがあれば、たとえ根拠がなくても、その迷信は理に適うのでどんどん広まっていき、いつの間にか定着するようになるわけです

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個の行動に影響され同調する集団心理


 モースキーとアクチャイの研究は、ゲーム理論を適用している。

 これは、人々がどのように相互に影響し合い、社会の中で決定を下していくのかを予測するための試みだ。とりわけ、彼らは相関均衡として知られているものを考えた。

 つまり、すべてのアクターには、与えられた状況に対するの彼らの反応を指示する相関シグナルが与えられているというシナリオのことだ。

 「典型的な例は、交通信号機です」アクチャイは言う。「ふたりの人間が交差点に近づいてきたとして、片方は赤で"止まり"、もう片方は青で"進む"。これは誰でも知っているいわば常識で、両者にとって信号のライトの色に従うことは道理にかなったことなのです」

 この場合、信号機というシグナルは、相関的なデバイス、または行動を喚起させるいわば"振付師"と考えられる。

 だが、研究チームは、この振付師がいなかった場合、なにが起こるのかを知ろうとした。

 もし人々が、彼らの行動を指示し、その行動の成功によって、ある信念(迷信)を伝達するほかのさまざまなシグナルに注意を払うことができるとしたら、みんなが従う協調的な行動は生じるのだろうか? 言い換えれば、こうした発展した行為は、"見えない振付師"になりえるのだろうか?

自転車に乗った人が交差点に入ってきたとき、信号機の代わりに猫が現れたのを見たとします。

猫は交差点とはなんの関係もないのに、黒猫を見たら(誰でも)止まるべき、あるいは、その自転車の人は止まるだろうとまわりが思い込むかもしれない。黒猫とのなんらかの意味を感じとるわけです


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 猫の体の色は、自転車の人が止まるか進むかにはなんの関係もないにもかかわらず、ほかの自転車に乗った人の迷信と相関関係があるならば、この手の条件つき戦略は、自転車に乗っている人によりメリットをもたらすことがある。
だから、こうした根拠のない信念を信じることは、あながち不合理とはいえない、理にかなったこともあるのかもしれません

モースキーは言う。

メリットで変化する信念

 モースキーとアクチャイは自分たちの考案したモデルの中で、世間の規範にやみくもに従わず、自分たちの信念がメリットがあるようにみえるときだけ従う人たちは合理的だと考えている。

 こうした人たちは、うまくいった(メリットを感じた)人々の信念を真似することで、自分の信念を変化させていく。

 これは、さまざまな規範同士が互いに競合し、集団を通じて普及率を上げたり下げたりする、進化する力学をを生み出す。この進化的なプロセスが、最終的に新たな社会規範の形成につながる。

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それでも人は迷信を信じる


 モースキーとアクチャイは、進化・発展して安定した規範は、他の規範にとって替わられることなく、首尾一貫しているはずで、たとえ外的な"振付師"がいなくても、個人の行動をうまいこと協調させていくということを示している。

 彼らは、こうした進化・定着した規範が、アクターがどう行動すべきかを規定することと、他者がどう行動すべきかをアクターが期待・評価することの両方で、たとえ、外部の振付師によって指示されなくても、多くのアクターがやっている行動全般に協調して合わせるための一貫した信念体系を作り出すことを発見した。

 さらに彼らの発見を掘り下げるために、研究者たちは振付師的なものがなにもないときに、個人が自分たちの迷信や信念を考案し始めるかどうかをみる、社会的実験に関わることを望んでいる。

こうした信念(迷信)は作り上げられたものであるけれど、誰もが実際にそれに従うことで、現実のものになるということが興味深いのです。

だから、あなた自身もこうした社会的現実をつくりだすことができます。それをさらに検証していくのは、本当に興味深いのです(アクチャイ)

References:How superstitions spread | Penn Today/ written by konohazuku / edited by parumo 全文をカラパイアで読む:
http://karapaia.com/archives/52275588.html
 

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