「ふざけんじゃねえ! 老害、ぶっ潰す!」
「老害、ぶっ潰す!!」

TBSにて7月16日(火)深夜放送のドラマ『スカム』(MBS/TBS系第3話。父親のガンの治療費と学費返済のためのお金が必要な誠実(まこと杉野遥亮)は、7日間の研修を終えてついに「振り込め詐欺」のプレイヤーとしてデビューする。

悪役・大谷亮平、登場
第3話は、誠実たちが働く詐欺店舗の番頭・神部(大谷亮平)が登場。詐欺プレイヤーたちをまとめる彼の鮮やかな手腕を見せつける回だった。

神部「貯金ゼロの貧乏人から200万円奪うのと、貯金2,000万円のクソの金持ちから200万円だけいただくの、これどっちが罪深いかって話だ」

200万円を詐欺で奪うという点ではどっちも同じだと思うが、神部はすぐに「ん? どっちが気分悪い?」とたたみかける。富裕層の老人が平日の昼間から贅沢に遊んでいる様子と、20〜30代の貧乏労働者を見てきたばかりだ。貯金ゼロの貧乏人から200万円奪うことのほうが、気分が悪くなるだろう。

さらに話は、60歳以上の老人の貯金額、年金支給額の話に。神部が言うには、60歳以上の老人の平均貯蓄額は2,000万円。そして、年金支給額は月18万円。20代の若者が1ヶ月働いた手取りは、18万円に満たないことも多い。

神部「お前ら年食ったとき、年金いったいいくらもらえるっつーんだよ」
剛力「そもそも払ってねーっす」
来栖「つか、払えねえ」

剛力や来栖たち若者が年金を払えない・もらえない一方で、老人たちはその年金を使いきれず4割を貯蓄に回している。不動産などを含めると、亡くなるときの財産は3,000万円になっているのだという。日本中の金の半分以上は、60歳以上の老人が持っているのだと神部は指摘する。

神部「奴らは、世の中で最も金持ちであり、最もケチな人種だ。そう、人種が違う。生き物としての種族が違う。そんな奴らから200万円奪うことに、俺は1mmも罪悪感を感じない。むしろ俺は、この仕事を誇りに思っている」

「人種が違う。生き物としての種族が違う」というのは、外国人差別・ヘイトでもよく用いられる口上。対象自分とは違う生き物だと思い込むことで、良心が痛まなくなる。そして、第1話での誠実のモノローグ「金持ち老人から金を奪い取る毎日に、俺の心は1mmも痛まない」は、神部の受け売りだったこともここで明らかになった。

世の中に自己肯定感を奪われた若者たち
神部がすごいのは、老人ヘイトを叩き込むだけではなく、誠実たちをよく褒め、よく称えるところだ。

「ここにしがみつけば、もう生きていくことの不安とか、報われない思いとか、悔しい思いなんかすることもない。お前らは、選ばれし5人なんだ。」

「お前らは、俺の宝だ。財産だ。正直、最初にお前らを見たときは、こんなに早くプロのプレイヤーになれるとは思ってなかった。マジ半端ねえ奴らだ!」

突出した能力も人望もお金もない若者たちが、大人にこんなに認めてもらえることがあるだろうか。こうして文字にしてみると大げさで白々しいほどなのに、神部が言うとなぜか本当に自分を迎え入れてくれるように感じられる。神部を演じる大谷亮平の低く深みのある声と、どっしりとした構えが、懐の深さを演出している。

見ていて、「こんなことで詐欺のプレイヤーになってしまうの?」と驚く人と「自分も同じ場にいたら信じてしまうだろう」と引き寄せて考える人がいると思う。自己肯定感という言葉はあまり使いたくないが、仕事、お金、未来が少しも保障されない誠実たちは、世の中に自分がいて良い感覚、自己肯定感が低かっただろう。

そこに、「俺は命を懸けてお前らを守る」「俺に命を預けてくれねえか」「お前らと一緒に働きたいと思う、心からな」と声をかけてくれる大人が現れる。仕事もお金も未来も一緒に作ろうと言ってくれる人に、しがみついてしまう。それほど彼らはこどもだし、世の中は彼らから認められる感覚を奪い取って来てしまったのだ。

神部、毒川(和田正人)、そしてプレイヤーの誠実たちが盛り上がれば盛り上がるほど、世間との断絶が浮き彫りになる切ない3話だった。

家族や幼馴染との「日常」
神部は「詐欺は最悪の犯罪じゃねえし、稼げるし捕まらねえ」と言っていたが、当然、家族や大切な話せる仕事ではない。詐欺の店舗にあったホワイトボードに書かれた「御法度九ヵ条」には、家族や女に仕事について他言してはいけないことが示されている。

誠実が危ういのは、友人である祥太郎(戸塚祥太)に詐欺の仕事を紹介してもらったことだ。祥太郎から話が漏れる可能性はもちろん、祥太郎の恋人・姫花(華村あすか)や、居酒屋で紹介の話を聞いていた美咲(山本舞香)にバレることもあってはならない。

しかし、神部たちと飲みに行った店で、誠実は偶然姫花に会ってしまう。祥太郎を捜している山田(山中崇)は、姫花の家にまで乗り込んできていた。姫花は、誠実が何か危ない仕事をしていることに気づく。

『スカム』は、若者がなぜ詐欺プレイヤーになってしまうのかを丁寧に描いていく。だからといって「だから仕方ないんだよ、許してね!」というドラマではないことは、彼らの熱狂から見える虚しさや、誠実の家族や美咲との日常がきちんと描かれることからもわかる。

自分のしていたことが美咲や家族にバレ、誠実自身がこれまでの全てを失うというオチなのか。それとも、更生までをも描くのか。まだ序盤にも関わらず、結末が本当に楽しみだ。

最新話は、Netflixで配信中。

(むらたえりか

見逃し配信:Netflix

ドラマイズム『スカム』
MBS:毎週日曜深夜0:50〜
TBS:毎週火曜深夜1:28〜
出演:杉野遥亮、前野朋哉、山本舞香、戸塚純貴、福山翔大、水間ロン、若林拓也、華村あすか、柳俊太郎、山中崇、和田正人、西田尚美、杉本哲太、大谷亮平、ほか
監督:小林勇貴
脚本:継田淳
原案:鈴木大介『老人喰い:高齢者を狙う詐欺の正体』ちくま新書/筑摩書房)
制作プロダクション:ROBOT
製作:「スカム」製作委員会・MBS

MBS番組HP https://www.mbs.jp/drama-scams/
ツイッター https://twitter.com/scam_0630

イラスト/たけだあや